表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花言葉  作者: またたくま
8/12

タイムマシーンがあったら

 僕は多田さんとあの喫茶店で別れた後、ゆっくりと歩いて家まで帰ることにした。

 電車でもたった一駅である。だから、歩いて帰ってもそんな時間はかからないのだ。

 多田さんの言っていることは正しいのだろうか。

 あの写真が本当の写真だとしたら、僕は本当に真実を見つけて復讐をするべきなのだろうか。

 多田さんも僕とほとんど同じことを考えているとわかったとたん、急に冷静になってしまっていた。

 

 あの時、優香先輩は復讐はしてほしくないとそう言っていた、そのことを今まで考えていなかったのだ。これは優香先輩が本当に望んだことなのだろうかということを。

 僕はどうしたらいいのだろうか。

 そのことを考えるときにもう一つの懸念になっていくのが、あの写真の男、僕の生き別れの父のことだ。いくら、何年も前に会ったきり会っていないからといって、僕が父を殺したときに母がどう思うのかそのことが僕の中の迷いとして残った。

 僕は真実を知りたいとは思っている、でも真実を知ってしまった後に僕が止まるとは思えない。僕は犯人を知ったとたん、復讐をしなければいけないと思ってしまうと思う。だから、僕が真実を知るには相当の覚悟が必要なのだ。

 

 そんなことを考えていると家に着く。家は安い賃貸アパートだ。

 だから、セキュリティーも少しの不安があった。

 それが今日現実のものになったのだ。家に帰るとそこに広がっていたのはいつものきれいな部屋ではなく、雑然として散らかった部屋だった。

 だが、僕は自然とすぐに通報しようとは思わなかった。

 通報してしまうともし自分が隠したかったもの、例えば、タイムマシーンの研究についてなどまでいらぬところまで知られてしまう危険性があったからだ。

 ただの大学生の研究と侮られればいいが、僕たちの研究はかなり進んでいる。もうタイムマシーンも現実に作ることはできているので、あとは安全性を確かめるだけなのだ。


 いくら、研究の世界が早い者勝ちの一面があるとはいえ、安全性が確認されるまでは研究者の間だけで他のところには発表しないことになっている。

 それは、タイムマシーンはいくらでも悪用することができるからだ。

 昔の犯罪や収賄などの隠ぺい工作を未来から操作することもできてしまうかもしれないのだ。

 そういうことができるかできないのかについてはまだ研究中であるので発表できないのだ。

 そんな理由で、僕のパソコンはパスワードも厳重なものにしているし、もしパスワードが解除されたらその解除された時間がわかるようなシステムになっているのだ。

 そのシステムをチェックしてみると、最後にログインした時間は僕が最後にログインした時間と一致しており、パソコンの時間がいじられたような形跡もなかった。


 タイムマシーンの情報が盗まれていなかったので、僕は安心した。ほかの場所にも盗まれているようなものはなかったので、警察には通報せずに片づけを始めた。

 片づけが終わると、僕は裏紙に自分が今まで持っていた情報と多田さんが持ってきた情報の整理を始めた。まず、事件が起きた日は八月二十五日。午前十一時過ぎのことだった。当時、夏休み中の○○高校から火が出たのだ。

 その時、○○高校にいたのは部下図中の生徒および補講中の生徒、そして、わずかばかりの先生たちだ。遺体の損傷は激しく確認が取れなかった遺体も多かったという。でも、関係者の証言によって、少しずつ被害者の素性がわかってきて、今では事件の全貌まで明らかになった。そんな今でも、犯人は見つかっていない。

 そして、この事件の被害者であり、僕の知人というか、友達の優香先輩にかかわる事件が例の写真の事件だ。写真の意味するところはわからないし、絶対に犯罪とも限らない。ただ、もし犯罪でないと仮定したとき、彼女がなぜ写真を送ってきたかという疑問が残る。

 

 以上の点から、これから調べなくてはいけないことは次の点だと考える。

 一つ目は多田さんを信頼するかということ。この点に関しては僕は信じるか信じないか話すたびにわからなくなってしまっていた。ただ、彼女が嘘をついていた場合、何のために近づいてきたのかも考えなくてはいけない。

 二つ目は放火事件の犯人についてだ。放火事件の犯人を知ることこれが僕にとっての、多田さんにとっての、最大の目的である。ただ、現状、解決するのはとても難しいと思う。

それは何年間もの自分の経験でわかることでもあるし、何より犯罪捜査を専門にしている警察でも長年解決できていない問題なのだ。それを素人の僕たちが何とかできる問題ではないと思う。

 だが、そのことを覆するような証拠になるのが、あの写真の存在である。そして、そのことは自然と三つ目の問題にかかわってくる。

 三つ目の問題は優香先輩が何者なのかということだ。それは少し大げさな言い方かもしれないが、僕が彼女について知っていることはまだ少ないと思う。彼女のことをもっと知れなければ、見えていいこともあると思う。

 何より優香先輩が犯罪に巻き込まれている可能性があるのなら、それがあの放火の原因の可能性も高くなり、さらに犯人に近づけると思う。

 ここまでの問題は放火事件の解決にかかわる問題だが、四つ目の問題は少し違う。

 四つ目の問題は、僕の父があの事件にかかわっているかもしれないということだ。あの写真に写りこんでいたあのサングラスの男あれは間違いなく、僕の父親だった。

 果たして父は本当に事件にかかわっているのだろうか。もしかかわっていたとしても、僕はそれについて知るべきなのだろうか。いくら長年かかわってきていない父親だとはいえ、父親が犯人なら、それは僕にとってどんなにむごい結末なのだろうか。

 

 ここまで、書き連ねてきて僕には気づいたことがあった。要するに僕にはまだ覚悟ができていないのだ。長年できていると思った復讐する覚悟。その覚悟がまだ不完全なものであることに気づいた。真実を知る覚悟、それは僕のこれからの人生を左右するくらい重要なものになるであろう。

 もし、この覚悟ができなければ、僕はこのことを知らぬ、存ぜぬで通せばよい。過去に蓋をして、これからを生きていくのだ。公開という足かせ付きだが。

 そして、覚悟ができる。それもまた修羅の道を歩むことを意味する。真実を知るためには大変なことも危険なことでさえあるだろう。警察を敵に回すかもしれないとまで覚悟したほうが良い。

 

 僕の人生はあの夏の日、あの場所で優香先輩に会ったことが間違いだったのかもしれない。そのことを悔いているわけではないが。

 僕の覚悟はまだまだ決まらない。なぜなら僕は多田さんのように強く生きることはできないからだ。

多田さんの目を見たら一発でわかった。彼女の決意は本物だとしっかりと真実を知ってどうするかさえ決めている、そんな覚悟が垣間見える表情だったのは間違いない。

僕はここまで書いてきたメモをしっかりと自分のバックの中にしまい、ついさっきもらった多田さんの携帯電話番号に電話をかけた。

日をまたいだ十二時半のことである。

もちろん、その時間に多田さんが起きているはずもなく、留守電話に切り替わる。

「ツーという発信音の後にお名前とご用件をお言いください。」

 そんな機械音が返ってくる。

「もしもし、多田さん。僕です。誠治です。一つだけ言いたいことがあって僕、多田さんのことを信じていますから。だから、裏切らないでくださいね。」

 そんなことを言うつもりはなかったのだ。多田さんがもし電話に出たなら、これからどうやって真実を知っていくのかということを聞こうと思っていたのだ。

 だけれど、僕が今考えているその方法のためには多田さんが僕を、僕が多田さんのことを信頼する必要があったのだ。

 なぜなら、僕の最大の秘密にかかわることだから。実はタイムマシーンのシステムの安全性の証明は僕が秘密裏にやってしまったのだ。それを何回も確認していけると判断した。これを使えば、簡単に過去に行けることが証明されたのだ。

 

 それを今までほかの研究室の人達に秘密にしていたのは、本当はいけないのだが、それを私的利用しようと考えたのだ。僕は多田さんに出会う半日前までも優香先輩の事件の真実を知ろうとしていたのだ。だから、そのために研究に没頭した。タイムマシーンに乗って真実を知るために。

 僕は証明したことでわかっていた。

 過去を自分の思うとおりに変えることはとても難しいということに。

 その理由は簡単だ。もし、犯人を僕が事前に殺したとする。その変更により僕は時間の流れに拒絶されてしまう。その不合理の事態を時間が解消するための処理時間を得るために。だから、僕はそのタイムリープの記憶を失ってしまうことはわかっている。時間が合理化を進めるために一番簡単な方法だから。要するに成功するかどうかは判定不可能なのだ。やらないほうが身のためなのだ。もし、犯人を殺したということで、優香先輩が救われたならば、と思うとやりたくもなるのだが、それが原因で自分も失われるかもしれない、という危険性があるのだ。


 この世が生命の足し算、引き算で成り立っているのならば、優香先輩が現れる代わりに僕が消えるかもしれない。誰かの大事な人を抹消してしまうかもしれない。

 もしかしたら、世界のバランスが崩れて、世界全体が掃滅してしまうかもしれない、そんなことは小心者の僕にはなすことのできない芸当だった。

 そして、優香先輩がどんなに過去を変え続けても死に続ける場合、優香先輩を助けるために僕は何度も永久的にそのことを試すことになる。

 タイムリープが失敗した、そんな勘違いをして。そのとき、僕はこのタイムマシーンの構造を知っている僕は本当に疑心暗鬼にならなくて済むのだろうか。自分は過去を変えた事実を知らずにそんなことは無駄だということを身にしみてわかっているのに繰り返しているのだということに。

 その時の、僕の気持ちは絶望という表現しかないだろう。だから、簡単に過去を変えてしまうべきではないのだ。

 

 僕がなぜ多田さんにもそのことを話そうとそう思ったのか。自分一人でやればいいのに相談しようと思ったのはそこに理由がある。

 僕のやっていることを肯定してほしいのだ。そのことを肯定してくれている人がいれば、気持ちも楽になるのだ。それくらい、自分たちが作っておいて何なんだが、タイムマシーンに乗ってタイムリープするのは気持ちの悪いことなのだ。

 そして、あまり信用しきれない多田さんに相談を持ち掛けようと思ったのには第二の理由がある。

 その理由は人手が足りないからだ。一人でもできないことはないのだが、実はタイムマシーンは体ごと飛ばしてくれるわけではない。精神だけを飛ばすので、過去の世界での実体はあるものの、現実世界の自分はほとんど無防備であり、なによりリープ中に万一の事態が起きても中からでは緊急離脱などをすることはできないのだ。だから、人手がいる。しかも、理工学系の分野にたけている人が。

 だから、大地にはなかなか頼みずらい。あいつは全く機械類を操作することはできないほどに、機械音痴なのだ。

 多田さんは情報科学学部なので、機械は得意だろうし、タイムマシーンはコンピューター任せなところがあるので、うってつけの人選なのだ。

 多田さんのことを考えているうちに眠くなってきた。

 明日はもう一度多田さんとしっかり会って話し合おうと僕はそう思いつつ、眠りに落ちた。

 

 次の朝、夜型で、朝が苦手な僕には珍しく、早く起きた。その理由はやはり昨日のことがあったからである。

 コーヒーを飲みながら朝ごはんを食べていると、多田さんから電話がかかってきた。

「もしもし、多田ですが。」

「もしもし、こんな朝早くからどうしたの、多田さん。」

「どうしたのじゃないわよ。あなたね、なんであんな夜遅くに電話かけてきて。あなたには、私がどんな時間に電話をかけても文句は言えないわよ。」

 僕は驚いた。多田さんがそんなことを気にする性格だとは思っていなかったのだ。それはいきなり僕に声をかけてきて、話しませんかと言ったことに起因するのだが。

「ごめん、僕が夜遅くに電話かけたのは謝るよ。それで、なんか用があるの?

「あなたこそ私に用があるんじゃないの?あなた昨日の留守電話で、あんなに思わせぶりな言葉を言っておいて、何も用がないなんてことはあり得ないでしょう。」

「ああ、そのことね。説明するよ。電話じゃなんだから、今日どこかで会えるかな。ちょうど、今日土曜日だし。」

「わかった。今から、昨日の喫茶店でいいよね。」

「うん、いいよ。」

 僕は電話を切ると、服を着替える。目立たないように少し地味なセレクトだ。あの喫茶店は知っている大学生もよく使うことがあるので、目立つと噂にいなる可能性があるからだ。本当は違う店にしたほうがいいと思ったが、僕も多田さんも遊びなれていないので、下手な店を選んでしまうよりはましだと考えたのだ。

 僕は待ち合わせの時間である八時半ぴったりに喫茶店に着いた。多田さんはまだ来ていなかったので、先に店に入って、コーヒーを飲んで待つことにした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ