僕の夢
それから、六年後、僕はもう大学生になっていた。
大学二年生だ。
もう成人してりっぱに学生をやっている。
僕は大学生になって、物理学を勉強している。
ここで何を研究しているかというとタイムマシーンだ。
そう、ちょうどあの年、六年前に考えていた世界過去と未来を行き来できる世界を実現するための研究だ。
別に最初は特別思い入れがあって、絵を描いていたわけではないのだが、その時描いた絵は市の展覧会で市長賞をとって、県の展覧会まで進んで、そこでも県知事賞を取ったのだ。
別にそんなにうまい絵ではなかったのだが、発想が素晴らしいと評価された。
タイムリープの設定についてではなく、三枚一組で描いたことに関してだ。
本当は一枚に収めなくてはいけないという作品展なのだが先生がその決まりを知らずに学年でトップになった僕の作品を市の展覧会に出したのだ。
最初は規定外で落選という話もあったらしいのだが、市長がえらく気に入ったらしく県の展覧会にも出したところ県知事が気に入ってしまったそうなのだ。
そういうわけで、僕はタイムリープという設定を今でも残るくらいの思い入れをもった次第なのだが、それ以外にも僕には大きな理由が一つある。
「そうだ、誠治。彼女できたか。」
と相変わらず僕の隣にいる大地がそう聞いてくる。さすがに興味が違ったので、同じ学部にはならなかったのだが、腐れ縁で同じ大学だ。
「できるわけないだろう。好きな人だっていないよ。」
と僕は答えた。一見すれば、ただのモテない男子大学生のひがみに聞こえるがこのやり取りは僕たちにとってはほかの意味も持ち合わせている。
「誠治。おまえ、モテるんだがら、誰かと着きあちゃえよ。そうだ、この前告白してきたあのかわいい女子はどうした?」
「断った。」
「もったいないな。あの女の子今まで一回も降られたことがなかったらしいから、ショック受けてたぞ。」
「ったく、そんなこと知ってるなら、僕が断ったことくらい知ってただろう。なんでわざわざ聞くんだよ。ってか、それどこで知ったんだよ。つながりないだろう。」
「まあ、それは秘密ってことで。それよりもなんで断ったんだよ。」
「ちょっとな。」
「まさか・・・まだあの人のことが好きなのか。」
「まさか、そんな訳・・・」
と僕は言いかけた。
でも、言えなかった。
好きな人のことは何年かすれば忘れると聞いたことがあるが、僕にその例は当てはまらないようだ、それを言いかけたとたん涙があふれてきた。
「おい、泣くなよ。」
普段から涙もろい僕にそういうことを言うときはだいたい茶化すような言い方でくる大地だが、彼女のことで僕が泣くときだけは大地は優しくなだめてくれる。
それなら、そんな話をするべきではないのだろうが、大地といるとそんな話になってしまうことが、多いのだ。
「もう、忘れたほうがさすがにいいんじゃないか。そんな簡単にいくもんじゃないのはわかっているんだけどよ。」
「うん・・・」
分かっているのだ、忘れたほうがいいんだってことは。
大地が僕に気を使って言ってくれているのはわかっているのだが、そんな簡単にいくような問題じゃないのだ。
ただ、恋人と別れたならまだいい。
僕の場合はたぶん両片思いで、(僕の気持ち悪い妄想かもしれないが)彼女は死んでいて、しかもその原因は多分僕にあるのだ。
「忘れられるわけがない。」
と僕は大地に言った。大地は少し悲しそうな顔をしながらも、分かったようにうなずいた。
「そうだ、今日合コンをセットしてるんだけど、男子側の一人が用事で行けなくなってしまって、だから代役頼めないか。」
「さっき、あんな話をしてたばっかりなのによくそんな話をできるよな。」
「まあ、いいじゃないか。で、行けるか、いけないかどっちだ?」
「ああ、行けるぞ。お酒は飲めないけれど。」
「相変わらずだな。なんでそんなにかたくなに飲まないんだ。」
「たぶん、いらないことまで口走って場の雰囲気崩しちゃうから。」
このように大地に合コンに誘われるのは一
度や二度じゃない。しかも、だいたい埋め合わせ役だ。それも、多分大地の気遣いなのだ。
「じゃあ、またあとでな。」
「ああ、またあとで。」
そして、僕は大学の授業を受ける。大学はだいぶ難しい授業だがあの夏以来中学、高校、大学とほぼ勉強しかしてこなかったので、問題はなしだ。
授業が終わると、僕は大地との待ち合わせの場所に行った。どうやら、大地のほかの男子メンバーは大地と一緒の学部の人たちのようだ。
「おお、誠治来たか。」
と僕が行ったときには、もう男子のメンバーはそろっているようだった。大地以外の二人のメンバーは僕よりモテそうだったので、女子たちの相手は彼たちに任せようと思い、僕は純粋に地味な服装できた。
「なんだか、地味だな、お前。」
と大地の隣にいた少しチャラい男が話しかけてくる。
「そうですか、僕ファッションセンスないんで、今度教えてください。」
と僕は返しておく。こうしとけば、相手もあまり悪い気はしないし、こちらから誘わなければ、関わり合いを持つこともないから、あまり人と関わり合いを持つことがない僕にはちょうどいいのだ。
そして、飲み屋で女子と合流。知らない子たちだったので、気楽でよかった。
「あなた、飲まないの。」
と一人の女子に聞かれたが、適当に返事をするとあまりいい気がしなかったのか、避けてほかの男としゃべり始めた。
僕が食べ物を少しずつ食べているうちにほぼみんなは出来上がっていった。ほぼというのは一人だけ僕と同じように飲んでいない女子がいたのだ。そして、その女子は僕の予想外の行動に出てきた。
「ねえ、君飲まないなら、私と一緒にほかのところに行かない?」
「えっ、なんで?」
「だって、酔っ払いの中に素面がいても、つまらないだけじゃない。」
「じゃあ、なんで飲むメンバーと合コンになんか来たの?」
「私も合コンなんて、本当は行きたくないんだけど、数合わせで。しかも、私は数合わせにちょうどいいくらいに目立たなくて、そんなにスタイルもよくないでしょう。だから、誘われるんだ。」
と彼女は言った。僕みたいな人がほかにもいるんだなと正直に思った。
大地がそんな僕が彼女を欲しがらない打算とかで、合コンに誘ってきたとは思わないけれど大地以外の人からみれば、数合わせには違いない。
そうやって僕が考え事をして、フリーズしていると、
「どうしたの。行くのそれとも行かないの。」と彼女は聞いてきた。
「あっ、えーと。じゃあ、行こうかな。二人だったら、抜けても気まずくないし。」
「そんなこと気にする余裕がある人いないと思うけどな。」
それは僕も同感だった。だって、みんなある程度酔っぱらっていたし、話に夢中で、こっちの話なんか聞いてなさそうだったから。でも、一応大地にだけは声をかけておくことにした。
「大地、僕この人と二人で話したいことがあるから行くね。」
と僕はある程度含みを持たせてそう言った。
「わかった。よかったな。うまくやれよ。」
と大地は誤解してそういった。やっぱり、酔っぱらっているんだろう。
「じゃあ、行こっか。」
と彼女にそう声をかけて、僕たちは外に出た。