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花言葉  作者: またたくま
1/12

彼女との出会い

「ピピピ、ピピピ。」 

今日も一日の始まりをつげるあの音が鳴る。

ぼくにとってはとても忌まわしい音だ。それは僕が朝が苦手だからだ。

 だから、僕は今日もその音を止めて、二度寝を決め込む。

 それは毎日やっていることだ。

 もっと早寝早起きの習慣を作りたいと思ってはいるのだが、そんなことを朝に考えることはできない。

 だって、眠いから。

 かといって夜早く寝るというのもなかなか難しいことだ。

 だって、眠くないから。長年染みついた習慣というものはなかなか変えることができないのだ。

 それはみんな同じだと思う。

 そんな僕がどのようにして起きているかというと、情けないことに母に起こしてもらっている。

 今日もそろそろ母に起こされる時間だ。

「誠治、起きなさい。もう七時回っているよ。遅刻するわよ。」

不思議なものだ。電子音では起きることはできないのに肉声では起きることができる。

 僕は今日ものそのそと起き出した。

 本当はまだ眠くて寝ていたい気分だったけど、そういうわけにはいかない。

 僕は起きて食事をして家を出るまで十五分とかからない。

 それでも始業の一時間も前に起きるのは寄りたいところがあるからだ。

 そして、今日も早々と食事を済ますと母に行ってきますといって家から出ていく。

 ちなみに僕は自転車でだいたい二十分くらいのところにある学校に通っている。

 僕は自転車を漕ぎ出してからすぐに忘れものをしたことに気づき、家に戻った。

「どうしたの?戻ってきて。」

と母が聞く。

「忘れ物をした。」

と答えた。僕は忘れっぽい性格をしているのでこの会話は日常茶飯事だ。

「今日は何を忘れたの?」

「スケッチブック。」

「毎日、持ってくけど、かさばって邪魔じゃないの?」

「でも、使うから。」と僕は言う。確かに持っていくのは大変だが、持っていきたいと思うのだから、仕方がない。

「今日もおそくなるの?」

 確かに最近は前に比べると遅いかもしれないが、部活をやっている人に比べたら、まだ早いと思う。

 僕に兄弟がいないため、僕にはわからないことで、母は忘れてしまっているようだが。

「うん、ちょっと寄り道してくるから。」

 僕の寄り道はヒマワリを描くということだ。

 別に誰が育てているということでもないと思うのだが、僕の家の近くにヒマワリがたくさん咲いているところがあるのだ。

 最初はそのヒマワリを見るということしかしていなかったのだがだんだんと見ているだけではつまらなくなった。

 すごく不思議なことなのだが見ていたいと思う気持ちとつまらないと思う気持ちが同居するようになったのだ。

 そして僕はこのヒマワリを写生しようという結論にいたった。

 その背景にはゴッホの描いた「ひまわり」があった。

 小さいころ、母が持ってきた本の中にいわゆる画集のようなものがあった。

 そこにのっていたのがゴッホの描いた「ひまわり」だ。

そのころはゴッホとう画家について何も知らなかったし、絵について普通の子供並の興味しか持っていなかったのだが、なぜか「ひまわり」の絵にだけは引き付けられた。

 なんかとても不思議な絵のようにぼくには思えたのだ。

 この「ひまわり」は自分の知っているひまわりに似ているけれど違う。

 なんだかとても暗い感じがしたのだ。ひまわりが家の中にある植木鉢の中にあるというのが慣れなかったのも理由の一つであったとは思うがあまり育ちのよくないひまわりのようにおもえたのだ。

 そんなことを今でも覚えているのはそのことがよっぽど印象に残っていたということだろう。

 そんなことをとりとめもなく思い浮かべているとそのひまわり畑についていた。

 朝はあまり時間がないのでスケッチブックを広げて書くことはしない。

 でも、今日はどんなヒマワリを描きたいのかということを考えてみる。

 とはいっても、そんなに絵が上手なわけではないのでほぼ練習になっていて、人に見せられるようなものではない。

 僕の知っている同じように絵を描く人は色を付けて描く人が多いが僕は外でしか絵をかかない。

 だから、色付きの絵を描くのはなかなか難しく、重い絵の具を持っていくことが億劫で敬遠している。

 つまり、僕の絵はいつも白黒の絵だ。

 別に好んで白黒の絵を描いているというわけでもない。単に描く機会がないだけだ。

 だがもうすぐ夏休み。夏休みになれば絵の具をもってきてここで絵を描くのも可能になる。

 だから、夏休みはものすごく楽しみだ。

 それに夏休みなら時間も自由に使うことができる。

 だから絵をたくさん描くこともできるのでいい。

 それに、僕たち中学二年生にとってこの夏休みは特別なのだ。だって、純粋に楽しめる最後の夏休みだからだ。

 来年は受験。絶対に忙しくなるし、楽しめることは少なくなる。再来年は高校生。

 勉強があまり得意でない僕は高校生になったら勉強尽くしになると思う。それは勉強の出来不出来を差し置いたとしても、誰しもが抱いている思いだと思う。

「もう時間だ。」

 つまらない悩みは心の外に投げ出して、僕は立ち上がった。朝の登校時間はもうすぐだ。

 そして、今日は三本のひまわりの絵を描こうと思った。

そして、僕は自転車で駆け出す。別にそんなに本当は急がなくてはならないわけではないのだが、なんとなく自転車で走っている時間が無駄だと感じているのでいつも自転車はかなり飛ばしてしまう。

 そんなわけで今日も学校に着く。学校はどうしても遅れることはできないので、朝の時間は使い方が難しいなとふと思う。

「おお、誠治。今日も七時五十分ぴったりだな。」

と小学校一年生からの幼馴染で、親友の大地が声をかけてくる。

「いつも、僕が着く時間見てるのか。」

「いや見てない。」

「いや、見てないのかよ。」

 そうは言っている大地だが、友達の多くない僕か来た瞬間に声をかけてくれる唯一の人だ。毎回来る時間を見ていてもおかしくはないと思う。

 かといって、僕が毎日同じ時間に来ているはずはないと思う。だが、僕も気にしていないので本当のところはわからない。

 そんな訳で僕の一日はこうして始まった。僕は学校を結構楽しんでいる。もちろん授業を受けるのがすごく楽しいというわけではないけれどやっぱり学校はなんか楽しい。楽しくない授業の中でも僕が好きな授業は美術だ。そして今日は美術の授業がある。

「今日は想像の世界を描いてもらいます。もちろん、自分で想像した世界を。」

 どうやら、今日の課題は自分で世界を空想してその世界を絵に描くとうもののようだ。でも、僕はこういう絵はどうしても苦手だ。

 でも、想像してみる。新しい世界。僕の知らない世界のことを。

 でも、よく考えたら僕の知らないところところがこの世界にも、この学校にもあるかもしれない。

 というか、ある。でも、そういう世界ではおそらく自分の知っている自然法則とかは成り立つだろう。

 例えば、すべてが逆さまな世界とか?でも、そういう世界は絵に描いても相手に伝えることはできないと思う。

 絵を逆さまにして見れば、もとの絵と何も変わらないから。

 そこで、僕はひらめいた。過去と未来を行き来することができる世界はどうか。

 絵は何枚書いてもいいといってから、三枚で一セットにして、過去、現在、未来というふうにしよう。

 三部作って何かしゃれているし、面白そうだ。

「何を描けば面白いだろう。」

と僕はつぶやいた。すると、そういうことをすぐに聞きつけるのが大地である。

「おい、何を描こうか迷っているのか。」

「そういう大地は何書くんだよ?」

「俺は地面がない世界を書こうかなっておもっている。」

「要するに天空世界ってことか?」

「いや、それだけじゃない。上は空、下は海。

それだけの世界。」

「へえ、それは面白そうだな。」

「パクんじゃねえぞ。」

「言われなくてもパクんないよ。もう何を書くのかは決まっているんだから。」

 と答えると大地は意外そうな顔をしてこっちを向いた。

「おめえ、昔からこういうの考えつくまでに一時間くらいかけてなかったか。やっぱり、カンニングか?」

「だから、してないし、しないって。ただ最近思うことがあってね。異世界もあったら面白いなと思って。」

「けっ、中二かよ。」

「まあ、中二だしな。」

 こういうやりとりも日常茶飯事だ。

 学校はこういうところがとても楽しいところだと本当にそう思っている。

 さて、過去はいつの絵にしようかと考える。どれだけ昔の絵を描こうか。

 あまり昔すぎると何の絵だが理解されないし最近すぎると違いを出すのが難しい。

 江戸時代くらいがわかりやすいかな。

 江戸時代の長屋が並んでいて、そこに現代人がいたらタイムリープをしているのがわかると思う。

 でも、未来のことは僕にもわからない。だから、未来のことも想像しなくてはいけない。

 そうすると、同じような場所で書いたほうがわかりやすいと思う。だから、僕は江戸時代の長屋、現代の家、未来のビル街みたいのにしたいと思う。

そのように描き始めたが、現在のことはみなくてもある程度かけるが、他の時代のことはいまいち描くことはできない。だから、それは資料をもって次回の授業で描こうと思った。

他の授業ではこんなに楽しく考えることはない。やはり空想も楽しいと思った。

美術は六時間目。なので授業が終わるとすぐに学校を飛び出す。

自転車に乗って飛ばしていると、すぐにひまわり畑に着いた。だが、いつもとは様子が違う。いつもは僕一人きりだ。だが、先客がいた。

「ここのひまわり畑きれいですよね。」

いつもは知らない人に話しかけるのをためらうのだがこのときは自然に声をかけようと思った。同じものに興味を持っていることに親近感を抱いたのだ。

「あっ、ごめんなさい。ここは入ってはいけないところでしたか?」

 と先客の彼女はそう言った。

「いえ、僕はここの管理者でないので詳しいことはわからないですが、大丈夫だと思います。ここに何度か来ていますけど、管理人らしき人も来たことがありませんし。」

と僕は言った。

 ここはとても奥まった場所というか公園みたいに整備がされているところではないので、入っていい場所かわからなくて僕もそんなことを最初は気にしていたのだ。

「そうですか。よかったです。さっき、ここを通りかかったから、入ってみたくて。」

 今までここでほかの人を見たことはなかったからうれしくなった。

 だがもしかしたら、僕が学校に行っている間にはいろいろな人が来ているのかもしれないと僕は思った。

「あなたはなんでここに来たんですか。」

と彼女に聞く。

「明らかに学校帰りですよね。ここら辺にほかの中学はないし。」

「ああ、あなたは中学生だったんですね。ちなみに私は高校生だから、あなたの知らない人でも問題ありませんよ。」

「えっ、高校生なんですか。てっきり中学生かと思っていました。」

「それってだいぶ失礼ですよ。見た目とちがうなんて特に女子にはいってはいけないセリフです。」

「どこの高校に通っているんですか?」

「○○高校です。」

 その高校は県内に住んでいる人ならだれもが知っている有名進学校だった。

「へえ、頭いいんですね。」

「いや、そんなことないですよ。入れたのでってまぐれです。」

「まぐれで入れるような高校じゃないとおもいますけどね。ちなみに今何年生ですか。」

「一年生です。あなたは中学何年生?」

「僕は中学二年生です。」

「じゃあ、もうすぐ受ける高校も決めるでしょう?どこの高校受けようと思っているのですか?」

「実はあなたと同じ○○高校なんです。受かるかどうかは今の成績じゃ五分五分くらいみたいですから、あなたが正直うらやましいです。初対面の人にこんなこと言ってるのも恥ずかしいことですけれど。」

「でも、勉強は頑張った分だけ報われるっていうから、勉強をいっぱいしたら受かるんじゃないですか?」

「貴重なアドバイスありがとうございます。」

 と僕は少し皮肉を込めてそう言った。僕だって勉強はしてるんだ。

 でも、全然成績が伸びないということがある。

「今、そんなことないって思ったでしょう。まあ、その通りだから仕方ないんですけどね。勉強なんかしても、他の人よりすごく頭がよくなる人なんてほんの一部だって、私も今でも考えているから。高校一年生の先輩がこんなこと言っちゃいけないんだけどね。」

 僕がこの人に抱いた最初の印象とこの人の性格はだいぶ違うのかもしれないと僕はそう思った。

 黒髪ロングで、背もすらっと高いことに加えてなんだかセンスの良い眼鏡。

 なんか優等生の典型パターンだなと僕は正直そう思っていたのだが、この人はそんなに真面目ではなさそうだ。

 偏見かもしれないが。

「よかったら僕に勉強を教えてくれたりしませんか。」

と僕は彼女に聞いた。初対面なのにこんなこと頼むのはとても変なのだが。

「うーん、どうしようかな。君と話しているのはとても楽しいんだけど、私だって勉強忙しくなるからな。」

 僕は冗談のつもりで聞いたのに真剣に考えてくれている、もしかしたら真面目じゃないっていうのは間違っていたのかもしれない。

「わかった、こうしよう。この夏休みだけ勉強を教えてあげる。この場所に一週間後に待ち合わせね。」

わあ、ほんとに勉強を教えてくれるみたい。

 本当はこの夏休みは勉強する気なんてなかったけど、あの○○高校に進学した先輩から直接教えてもらえるなら、別にいいかな。しかも、無料で。

「ただし、条件があります。」

「なんですか。」

「君の絵を毎回見せてくれること。君絵を描く人なんでしょう。今もスケッチブック持ってるし。」

 正直に言って何を言っているんだろうこの人はとそう思った。どんな絵を描いているのかもわからないのに勉強を教えることの大家にするか普通。まあ、僕たちの会話自体が普通じゃないんだけど。

「いいですけど、なんでですか。」

「なんとなく。なんか少女漫画みたいな展開で憧れない?」

「要するにほとんど理由がないってことですよね。」

「そういうことになるかな。でも、君がどんな絵を描くのかってことは純粋に興味があるよ。だから、まず今日君の絵を見せて。」

「なんでですか、まだ僕勉強教えてもらってないから、それは対価とは呼べませんよ。」

「だって、君がお願いしてきたんでしょう。私のお願いを聞いてくれるのに順番とか関係なくない?」

と彼女は当たり前のように言ってくる。確かに正論なんだけれども、絵を見せたくないというのが本音だ。そんなうまくないから。でも、彼女の正論に負けて見せることにした。

「あまりうまくないので、笑わないでくださいよ。」

と念を押してから彼女にスケッチブックを渡す。

「すごい、ひまわりばっかだね。きれいにかけてるじゃない。」

「それ馬鹿にしてます?」

と僕は聞いた。そんなにうまくかけていると自分では思えないので慰めか皮肉だと思ったのだ。それか年上の余裕か。

「たしかに君の絵はあまりうまくないよ。でも、ひまわりの構図がすごくいい。光がすごく当たっていて元気に育っているよう名イメージが浮かぶ。これ、ここのまわりでしょう。」

「はい、そうです。」

と僕は答えたがはっきり言ってびっくりした。こんなに率直な意見を言われるとは思っていなかったのだ。

「この調子で頑張って。じゃあ、私もう行くね。家に寄り道するって言ってないから。」

「はい。さようなら。」

「さようなら。」

 と僕は言って今度はひまわり畑のほうへ向き直った。今日のひまわりもとてもきれいだとそう思った。軽くスケッチを描きながら、今日は人に見せること前提で、少しでも上手に描こうと努力していた。

 そういえば、電話番号も聞いてないけど、というか名前も聞いてないし聞かれてないけど、大丈夫かな。ちゃんとまた会えるかな。そんなことを僕は考えていた。

 二か月後彼女は死んだ。

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