3-01 とある王家の7人の忌子
【この作品にはあらすじはありません】
城の中で王様はそわそわとした様子で歩き回っていた。
傍には大臣が控えている。
「王様、落ち着かれてください」
「これが落ち着いてなどいられるか。今夜の結果次第でわが国の将来が決まるのだぞ」
大臣の言葉に、王様はいらだった様子で答えた。
「しかし、こればっかりはどうしようもありません。なるようになるしかないでしょう」
「とはいってもだな……」
王様が言いかけたその時、一人の産婆が王室にやってきて、王様に声をかけた。
「王様、もし、王様、お子様が生まれましたよ……」
王様がパっと花が開いたような笑顔を見せた。
「おお! そうか! して、子供はどうだ!」
「ええ、子供は男の子でございます」
「それは何よりだ。よし、そなたは奥で休まれるといい!」
「しかし……王妃様のお身体も心配でございますから」
「それは他の産婆に任せればいいのだ。そのために交代制にしたのだからな、さあ、早く!」
王様の言動を不審に思いもしたが、口にするのもはばかられたため、産婆は奥へと進んでいった。王様は産婆がいなくなったことを確認すると、みるみる青くなり、大臣に問いかけた。
「さて、長い時間がたった。子供が生まれたらしい。そう、王家の子だ……」
王様は軽い沈黙を挟むと、重い口を開いた。
「大臣よ、これで何人目だろうか……」
「6人目でございます」
王様は玉座の上でうなだれた。
「6人目か。王妃のファレスが昨日の早朝に産気づいて、日は周り夜となって生まれた6人目。産婆はどうなっている」
「交代制で仕事に当たっているため、自分が担当した子供が何人目かまでわかってはおりません」
「そうか、さすがは大臣だ。では、この後が重要だな。これで終わってくれればいいのだが」
「さあ、こればっかりは何とも言えません。起こってしまえば、それはもはや運命ですな」
「運命……運命か。なぜ、私の代でそんな運命がはじまるというのか」
「まあ、まだわかりませんよ。もしや我々が恐れていることも起きないやもしれません」
そう言っていた矢先、また老婆が王室にやってきた。
「王様、お子様が産まれましたよ」
「おう、なんてこった!」
「はて? どうされましたか?」
「いや、なんでもない。それでは子供はどっちだった?」
「それがお子様は女の子でございました」
「そうか、女の子だったか。よし、そなたは奥で休まれるといい!」
「えっ……しかし……」
「いい! いいのだ! 他の者に引き継いだのだろう。ならば大丈夫! 奥で休みたまえ!」
老婆を奥へと追いやり、大臣に向って振り返って言った。
「おいおい、7人目だぞ。王家の子が7人だ」
「待ってください。待て待て、まだわからない。ここは8人目を待ちましょう。8人目ならば話は変わっていきます。子だくさんの国、けっこうなことじゃないですか」
「もしもし、もし王様」
「おお、産婆かどうした! 新しい子か?」
「いえいえ、王妃様の容態が安定してきたので、伝えに来たのですよ」
「なんだって! 子供は!?」
「それはもう産まれたと伺っておりますよ。私はお伝えに来たのですよ」
「そうか、そうだったか。後でそっちに向うから、そなたは下がってくれ」
「わかりました」
そう言って、老婆は奥へと引っこんでいった。お
「大臣よ。どうやらこれで終わりらしい。王家の子供が7人産まれた。予言のとおりだよ」 「そうですなあ……」 王様の言葉に、大臣は考え込んだ。 この世界には予言がある。ある日、王家から7人の子供が産まれる。その子たちが王位を継いだ後に災いがやってくると、いうものだ。 「そして、ついに今日、私の代で7人の王家の子が生まれたというわけだ」 王様は頭を抱えた。 「ああ、大臣よ」 「はい、なんでしょうか」 「私はお前を高く評価している。私にはたくさんの家臣がいて、彼らは家柄に優れ、能力に秀でている。その中でも特にお前を買って、大臣に任命しているのは、お前が私の願いに対し、必ず解決策を提示して見せたからだ。そう、お前は何だって解決してくれた。他の家臣は、「しかし」とか、「ですが」、とか、「それは難しい」と言ったことも、お前は「なんとかしましょう」と答えてくれた。だからこそ、お願いがある。これをなんとかできないだろうか?」 「ええ、何とかして見せましょう」 王様の問いに、大臣は表情を変えずに言った。 「では、産まれた子供を集めましょう。他の者たちにバレないように。信用できる少数の者に手伝ってもらい子供が7人産まれたことを極力バレないようにしましょう」
大臣と王様はそれぞれの部屋に移していた赤子を一つの部屋にまとめた。信頼できる少数の者に手伝ってもらい、子供が7人産まれたことを極力バレないようにした。
「しかし、集めたところでどうするというのだ?」
「こういう時の問題の解決はいたってシンプルです。産まれた子供たちをそれぞれ遠くの地で育てるのです。王家とはまったくかかわりのない遠くでね。とにかく、7人であることを隠しましょう」
「しかし、そんなすぐに遠くへやる方法なぞないのではないか?」
「ふむ……とりあえず、私の見立てが正しければ、まず一人はなんとかなります」
そう言って、大臣は7人の赤子たちを眺めた。
「この中で、一番の大きな子。うむ、これがいい。この子なら、3ヶ月と言っても騙せそうだ。他の子はカーテンの向こうへ見えないようにしてください」
大臣は王様と6人の赤子をカーテンの向こうへ追いやると、大きな声で騎士の名を呼んだ。
「おい! ゼクシア! ゼクシア・アレクシス!」
「はい、お呼びでしょうか!」
大臣の呼び声に応じて、一人の青年がやってきた。
高身長、キリっとした顔立ち。彼の名前はゼクシア・アレクシス。
この城で騎士をやっている。大臣の呼びかけにすぐに応じる真面目な青年。 (ゆえに、騙しやすく! 流されやすい男……)
そう考え、ゼクシアの見えないところでほくそ笑んだ。
「よく来たな! ゼクシア! じつはお前に話がある」
「はい、何でしょうか!」
ゼクシアの問いに険しい顔を見せる大臣。
「突然だが、お前はクビだ!」
「なっ! なんですって! どうしてですか!」
「お前は! ドルファスト様のことを知っているな!」
「はい、知っております! この前亡くなられた……」
「ああ、とても悲しいことだ。さて、ここにいる赤子を見てくれ。
藍色の瞳に、柔らかな髪の毛。高貴な血筋を思わせる。腕からこぼれそうな大きな赤子。 ドルファスト様の隠し子だ」
「隠し子ですって!」
さらに、大臣は一枚の紙を取り出す。そこには何も書かれていないが、まるで何かが書かれているかのように血走った目で見つめる。
「しかもだ、ドルファスト様の遺言によると、この子供はお前との子供だそうだ! つまり、お前は騎士の身でありながら、王族に手を出したということ! 許されんぞォ!」
「そんな! そもそもドルファスト様は70歳を超えてらっしゃいますよ! ありえません!」
「ここに子供がいるのだから、ありえるもクソもあるまい!」
驚愕する騎士の肩をたたいた。
「安心するがいい。このことはだれも言うまい。お前は自分から騎士をやめて田舎に戻ったことにしてやるから、赤子とともに城を去ると言い!」
「そんなっ! 横暴です!」
「もしできぬというならば、この遺言状をもとに、審議を執り行って見せようか。城のものたちがみな、お前の罪を知ることになるだろうっ!」
「そ、そんな……本当に誤解なのに……」
「そう気を落とすな。私もお前にこんなことを言いたくない。しかし、こうして書かれた手紙がある以上、お前を追放せざるおえぬのだ。わかってくれ」
「わかりました」
「では、夜のうちに出発したまえ。もちろんこのことは内密にな。支度金もやろう」
そう言って、ゼクシアは赤子を抱いて部屋を出た。
上手くいったぞ、とにやりと笑うと大臣は振り返り、カーテンの向こうの王様に伝えた。
「これで残るは6人です。この調子で一人の赤子以外の5人を遠くにやりましょう」