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aging社会のスキル継承者

作者: そよごもち

 壊れた機械が運ばれる工場でガチャガチャと工具を使っている音がする。


「やっぱりリサイクル品は壊れやすいんだよな……」


 そうぼやきながら手を動かす青年の胸には、リペア部門のバッチが輝いている。その横には”平賀巧”と書かれた名札が着けられている。


「いっちょあがり!」


 手袋を外して息をついている。これで今日しなければならない依頼は終わったので、後片付けをして帰ろうとしている。

 今日一日はフリーになったと考えているとタブレット端末にメールが届いた。

 端末を操作してメールを読んでみると、それはスキル継承協会からの招集願いだった。重大な発表があるので協会会員は必ず参加するように、集合場所は協会本部であると書いてある。

 これはずいぶん珍しいことだ。ついもならリモートで済ませるのに、今回は協会本部に行かなくてはならない。何かあったのだろうか。




 会場には多くの会員がいた。一様にこれから何が始まるのか疑問に思っているようだ。

 そんな中、正面に会長が登壇し、話し始めた。


「皆、今日は来てくれてありがとう。皆に集まってもらったのは我々にとって極めて重大な発表を行いたいからだ。これを言う前に、改めて我々の社会について話そうと思う」


 会長は全体を見渡し、話を続ける。


「我々は先進国として高度な社会を作り上げることに成功したが、決定的な社会問題にぶつかった。皆も知っての通り、少子高齢化である。社会が成熟すると例外なく発生する人類存続の命題とも言えるだろう。成長途中の社会であるなら高齢者の数を上回る子供が生まれてくるが、いつかは必ず高齢者の数を下回ってしまう。これの問題点は社会を維持する人手が足りなくなってしまうということだ。高齢者を養うだけの能力がなくなってしまうのだ。そこで我々は少ない人手で大勢を養うために、産業用ロボットに頼り、人間の労働者に頼らない社会を作り上げた」


 会長は続ける。


「その社会を実現するにはロボットを開発、製造する人材。そしてロボットにさせる仕事に必要な技術を研究し継承する人材が必要となった。そのための組織が我々スキル継承協会である。これにより少ない人手で大勢の高齢者を養うことができるようになった。しだいに高齢者のみならず働くことのできる成人のほとんどが労働を放棄した。今や働いているのは我々のみだ」


 会長は拳を作って言う。


「おかしいとは思わないか!一部の人間にだけ苦労をさせて、何もしていないやつが怠けている社会が!私はこの現状を変えたいと思っている。我々の手で、誰にとっても平等な世界を作り上げようではないか!そこで、我々はストライキを起こそう、そうして労働の必要性を全国民に分からせてやろう!」


 言い切った瞬間、会場は一気に沸き上がった。


「ありがとう!これが我々によって、そして社会にとって良い選択になることは明らかだろう!本日はこれにて解散とする」




 平賀は家路についている。会長の言うことを思い出しながら、珍しく歩いて移動している。

 平賀にとっては自分がそこそこ幸せで、充実している今に何の不満もないのだ。彼らは平賀よりも社会のことを考えているのかもしれない。だからこそ何もかもが足りているこの世を変えようとしているのだろう。


「一体どうなるのだろう」


 平賀は他人事のように、そう言った。

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