第47話
「さくらさん! まつさん!」
梨花の口から、驚きの声が漏れる。
もう会えないかと思っていたふたりが、並んでこちらに笑顔を向けていた。
まつは艶やかな赤い着物姿、さくらは真っ白なワンピース。
妖艶な美女と、可憐な幼女。
まるで対照的なふたりなのに、並びたつ姿はしっくりときているから、不思議だ。
さくらが、可愛らしく首を傾げて、問うた。
「リカ、これは新しい遊び?」
「うーん、遊びというか、ボランティアというか」
あらためて問われると、一体なんだろう。
梨花も首を傾げながら、歯切れ悪く答える。
まつが、ニコニコと近づいてきて、梨花の手を握った。
「おもし……忙しそうね、手伝ってあげるわぁ」
面白そうと言おうとしたな、いま。
まつは正直者だ、相変わらず。
いっそ気持ちの良い正直っぷりに、くすりと笑ってしまう梨花である。
しかし猫の手も借りたい繁盛具合だ。この申し出はありがたい。
「いいんですか……!」
喜ぶ梨花の隣で、コハクが眉間に皺を寄せていた。
「リカ、こいつらとも知り合いなのか……」
なんだろう、少しだけ嫌そうだけれど。
何か、因縁でもあるのだろうか。
そんなコハクに、まつが、しゃなりとしなだれかかる。
「私たちも、リカが可愛くて仕方ないのよぉ」
さくらも頷く。
「そおいうこと!」
苦々しい顔で目を瞑って、コハクは息をはいた。
「……借りを作りたくは無いんだが……。正直、助かる。今回だけ、頼む」
「そうこなくっちゃあ」
まつが手を叩く。
「まつはお代を受け取る係、私は列の整理ね」
きびきびと、さくらが役割分担を決める。
見た目は一番幼いのに、頼りになる。
「梨花は焼くのに専念してね」
にこりと笑うさくら。
「はいっ! あ、次の新しい注文の人から、ラジオ焼きと言う別メニューになる事をアナウンスいただけると助かります……!」
「ん。りょーかい」
……………………
………………
…………
「はいはい、お代は何でもこいよぉ。こっちに置いていってねぇ」
まつが、にこにこと笑顔をふりまきながら、客を誘導する。
さっきから、木札をもらう客たちの顔が、うっとりしているのは気のせいだろうか。
なんだかアイドルの握手会みたいだな、と梨花は思った。
繁盛しすぎて物々交換した品物が溜まってきたので、敷物をひいた上に並べてもらっていた。
「横入りはダメだよ、ちゃんと並んで!」
さくらの声はよく通る。
「はい、次の3皿分あがります!」
梨花も頑張らないとと、気を引きしめた。
「はいよ!」
コハクも元気よく応える。
焼き上がったものを容器に入れ、トッピングをし、木札と交換するのはコハクの仕事だ。
そんなこんなで、たこ焼き&ラジオ焼きは順調に売れていったのだった。
◇
「かんばーい!」
たくさん用意した生地も空っぽだ。
梨花は清々しい達成感に満たされ、喜んだ。
「売り切ったねー!」
と、さくら。
「がんばったね!」
と、まつ。
ふたりも結局、最後まで付き合ってくれた。
「さくらさん、まつさん、ありがとう! これ、お二人のぶん。よかったら食べてくださいね」
ふたりのために心を込めて焼いた最後のラジオ焼きを、梨花はさくらに手渡した。
「うん、ありがと!」
「助かった」
コハクもそう言って頭を下げた。
「いいのよぉ、いつか返してもらうからぁ」
艶やかなまつの笑みには、えもいわれぬ迫力がある。
「くっ」
コハクは苦々しく顔をしかめた。
「まぁまぁ」
さくらが、まつの腕をひいて言った。
「じゃあ私たちは引き続き、祭りを回るよ。リカと遊べて楽しかったよ! またね」
「あの彼にもよろしくねぇ」
「はい! 楽しんでください」
彼、つまり梶田の事だろう。
梶田には、さくらやまつの事は見えていないので、何とも話すことは出来ないのだけれど。
心の中で伝えておこう。そうしよう。
「そうだわ、リカ! この間、し忘れたことがあったの!」
まつが梨花のところに走ってきて、にこりと笑った。
……………………
………………
…………
「助かった。ありがとう」
さくらとまつが、満足した顔で去った後。
コハクが、梨花に向かってそう言った。
「……待ってる奴がいるんだろ。ひきとめて悪かったな」
そんな事をわざわざ言うのは、梶田の話題が出たからだろうか。
「んー? 楽しかったよ」
それは、梨花の本心だったのだけれど。
コハクは長いまつ毛をふせて、申し訳無さそうに続けた。
「困ってたのは本当だけど。わざと、ひきとめた」
「?」
「たこ焼きにしたのは、あいつが好きだったから。最後にあいつがここに来たのも、この時期だったから。もしかしてって、思って」
梨花は、そう切なげに笑うコハクの心の中にいる人物を、想像した。
「あいつは、ついに来なかったけど。あんたの顔を見た時、懐かしかったんだ」
それは、もしかしてーー。
「コハク」
梨花の言葉にかぶせて、コハクは続ける。
「もう少しだけ、そばで見ていたかった」
「ねぇ、それってーー」