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第41話

「出雲ですか?」


 梨花が聞き返すと、沙月は満面の笑みで頷く。


 社内の休憩スペース。紙コップに入った緑茶を飲みながら、しばしのおしゃべりに花を咲かすふたり。


 しばらく会わないうちに、沙月はばっさりと髪を切っていた。整った顔立ちに、ショートボブもまた、似合う。


「そーう! こないだ腐れ縁の悪友と飲んだ後に酔っ払って人生初の占いに行ったらね、出雲に行きなさいって言われてさ。面白いから、そのままのノリで宿とっちゃったのよー。仕事もプライベートも、良いご縁があるようにお参りしてくるわー! そんなわけで、お土産リクエストがあったら、明日まで受け付けてるから♡」


「沙月さん、さすがの行動力……! お土産、嬉しいです。ありがとうございます! 考えます」


 出雲といえば、因幡の白兎にちなんだ、うさぎグッズもありそうだし。和菓子も、素敵なものがたくさんあったはず。

 せっかくだから、じっくりリサーチさせてもらおう。

 

「遠慮なく言ってね♡ よし、じゃああと少し、仕事も頑張りますかー!」

「ですね!」



          ◇



 ふと空を見上げると、飛行機雲がまっすぐにのびていた。


 はっきりと青い空に、道筋をひく白い雲。


 きっと今もたくさんの人が、誰かに会いに行く道のりの途中にいるのだろうなと、梨花は想像をふくらませる。


 いまの梨花のように。


 目線を前に戻すと、そこにあるのは白いシャツを着た梶田の背中。


 4月ももう終わる。肌を焼く太陽の熱と汗ばむ陽気に、梶田も梨花も、ジャケットは脱いで手にかけていた。


 今日は昼から会社のビルの空調工事があるため、ほとんどの社員は午後の仕事が休みになっている。


 梨花と梶田もその例に漏れず、だったらと、梨花の提案で、紅子に会いにいく事になったのだった。


 今日は、お弁当を、3人分用意した。

 事前にホームに連絡して、食事を一緒にとる許可も取ってある。

 紅子には他にも、渡したいものがあったし。ちょうどよかった。

 


          ◇



「紅子さん」


 広い食堂の一画。すでにテーブルに座って待っていた紅子に、声をかける。

 顔を上げた紅子が、子供のようにふわりと笑う。


「あら、あなたは……()()()の、カヨちゃんだったかしら?」


 何度か通ううち、紅子は梨花のことを認識してくれるようになった。それがとても嬉しい。

 入れ替わった名前や肩書きなど、些細なことだ。


「はい、カヨです」


「いつも翔太がお世話になっているわねぇ。この子、()()ではどーお?」


 梶田の事も、孫として認識している。時々、亡くなった旦那さんと混ざる日もあるみたいだけれど。

 前よりも、その頻度が減ってきたと、梶田が嬉しそうに言っていた。


 梨花はふふっと笑って、梶田のほうをちらりと見やる。

「人気者ですよぉ。先輩方のアイドルです」

「梨花さん」

 照れたように止める梶田。


「そうでしょう、おじいちゃんの若い頃に似て、男前でねぇ」

「ばあちゃん」

 二対一で誉められて、たじたじの梶田である。


 梨花たちはかまわず、話を続ける。

「おじいちゃん、イケメンだったんですねぇ」

「中身も優しくってねぇ」

「素敵です」

「きっといまも、見守ってくれていると思うの」


 梨花は頷き、そうだーー、と、思い出した。


「これ、お守り。お土産です」


 京都の神社で買ったお守りを、紅子の手にそっと乗せる。

 白地に金色の刺繍が入った、健康祈願のお守りだ。


 紅子の顔が、ぱっと華やぐ。

「あらぁ! 素敵。綺麗ねぇ。ありがとう」


「あの時のーー。ばあちゃんに、だったの」

 梶田がほっとしたような、嬉しそうな、表情で呟く。

 その表情の意味は梨花にはよくわからなかったけれど、喜んではもらえたようで、なによりだ。


 梨花はにこりと笑って、大きな保冷バッグを開けた。

「こっちは、たけのこご飯のお弁当です。よかったら、お味見してくださいね」


「あら、美味しそう。たけのこご飯、大好きなの。ありがとうねぇ」

「どういたしまして。いいサワラも手に入ったので、照り焼きにしてみました。お口に合うといいのですが」


「あ、お箸出すよ」

 と、梶田。

「ありがとうございます」

 と、持ってきたカトラリーを渡す。


 紅子は目を細めてにこやかに、ふたりを眺めていた。

「カヨちゃんみたいなお友達がいて、安心だわぁ。翔太の事、よろしくねぇ」


「はい。こちらこそです」


「なんだよ、あらたまって。俺だってがんばるし」

 紅子に対する梶田は、学生のような少年のような顔をしていて、梨花はなんだか微笑ましい気持ちになった。

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