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第34話

「春のメニューでしたねぇ」

「うんうん。……懐かしいな。たけのこ掘り、小さい頃よくやりました」

「えー! すごいっ」

 梶田の思い出話に、梨花は思わず食いつく。

 とりたてを人にいただく事はあっても、自分で掘った経験はない。


 梶田は笑って続ける。

「いやでもけっこう力仕事だから、子供なんか役にたたなくて。じいちゃんの後を、ついてまわってただけなんだけど。持って帰ったたけのこで作ってくれる、ばあちゃんの筍ご飯、美味しかったなって」

「私も、今度作ります。よかったら、紅子さんにも差し入れしたいな。紅子さんの筍ご飯は、他の具は何でしたか?」

「たしか……。にんじんと、こんにゃく、あとお揚げかな」

「定番ですね! 私も好きですー」




 湯呑みを置いて、梶田が腕の時計をみた。

「けっこう長居しちゃいましたね。さっきの雑貨屋さん、そろそろ開いてるかな」

「よし、行きましょうか!」

 そういうことになった。




「いらっしゃいませーー」

 先ほどのお店に入ると、お姉さんが笑顔で迎えてくれた。

「あ、さっきのお兄さんお姉さん。来てくれたんです〜? ありがとうございます♪」


「可愛いですね」

 梨花は店内を見回して、言った。

 和柄の小物や、巾着バッグ、ストラップ。

 ガラスでできた動物の置物。うさぎや猫のお箸置きもかわいい。

 ひときわ目を引いたのは、カラフルな糸で作られた和風のストラップだった。

 梨花の視線に気付いたのか、お姉さんが説明してくれる。


「根付、おすすめですよぉ。組紐って、流行ったでしょう? 映画の影響で。だから、手に取られる方も多くて。人と人を結ぶって意味もあるから、プレゼントにもぴったりですよーー」


「なるほどーー!」

(淡いピンクとレモン色のも可愛いし、エメラルドグリーンとシャンパンベージュのも素敵だなぁ……!)


「記念に買おうかなぁ」


 梨花が真剣に選んでいると、梶田がエメラルドグリーンとシャンパンベージュのものを手に取った。

「梨花さん、こっちの色が似合いそう」

「それ、気になってたんです! じゃあ、そうしようかなぁ」

「やった。じゃあ、僕にも選んでくださいよ」

「え、自分のより悩むんですけどっ! がんばります……!」


 ネイビーと水色のは海と空みたいで綺麗なのだけど、シンプルすぎるだろうか。

 あと気になるのはーーホワイトとエメラルドグリーンとロイヤルブルーのもの。優しい色合いが、梶田に似合うと思う。

 1色がお揃いだなんて、深い意味はなくてもなんだか照れくさいけれど。


「うーん」


 ふと、キョーコの言葉が頭に浮かんだ。


 ーー私、人に選んでもらうの好きなのよー。これを使う度にさ、選んでくれた人の事を思い出すでしょう?


 ああ、困ったな。

 そんなつもりじゃなかったのに。

 自分の願望が、どんどん贅沢になっているみたいだ。


 梨花は意を決して、エメラルドグリーンとロイヤルブルーのものを手にとった。


「これ、どうですか?!」


「うん、好き好き。これにします」

 と、梶田。

 あっさりと決まった。拍子抜けするくらい、あっさり。


「ありがとうございましたぁ♪」

 雑貨店のお姉さんに会釈して、店を出る。


「よし、じゃあチェックアウトを済ませて、本日の目的地に行きましょうか!」

 と、梶田。

「本当にーーありがとうございます。正直に言うと、ひとりで行くのは少しだけ、さみしかったから。嬉しいです」

「道連れに選んでいただいて光栄です」

 少しおどけるように言う、梶田の優しさ。それが嬉しかった。

「ふふ。よろしくお願いします」




「じゃあ、一旦、京都駅にーー」

 と、スマホで時刻表を調べようとした梨花に待ったをして、梶田は口を開いた。

「あ、そうそう。調べたら、電車よりレンタカーの方が早そうだし、ドライブできるし、道の駅とか寄れて良いかなって思って予約しておいたんだけど、どうでしょう? なんかね、この近くのお店で借りて、返すのは京都駅近くの店舗でもOKらしい」 


「道の駅……! あ、でも」

 梨花も免許は持っている。しかし、身分証として持っているだけなのだ。

「私、免許は持ってるんですが、ペーパーで……!」


「ああ、大丈夫、往復4時間くらいだから。僕が運転しますよ。余裕余裕。あ、でもSAとか道の駅とか寄りたい! 休憩っていうか、ああいう所のお土産ものチェック、好きなんだよー。距離を走るごとに、置いてあるものが少しずつ変わっていくのが好き」

「わかります! ああ、あそこからはもう離れちゃったんだな、とか。次はこのお土産の土地が近づいてきたんだな、とか。すごく楽しい」

「梨花さんもわかる?! 嬉しいなぁ」


「……調べてもらって、ありがとうございます」

 付き合わせているのは梨花のほうなのに。梶田は本当に優しい。

「全然! むしろ勝手に手配しちゃってごめん! 学生のときは、仲間うちでよくレンタカー連泊で借りて行き当たりばったりな旅をしててーー。そんなことを思い出したら懐かしくなってひとりで盛り上がっちゃって、つい」


「いえ! 楽しみが増えました! 行き当たりばったりな旅の、思い出話も聞かせてくださいねー」

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