第31話
「ありがとうございましたーー」
「ごちそうさまでした!」
仲居さんに送り出してもらい、3人は店を後にする。
とっぷりくれた夜の空気にふみだすと、街灯の灯りがきらきらと浮かびあがって見えた。
「美味しかったねー!」
「大満足でした」
「うん。教えてくれた……仙道さん? よろしくお伝えください」
と言う梶田に、梨花はにっこりと答える。
「はい!」
「あっ」
しばらく歩いたところで、キョーコがばしばしと梨花の腕をたたく。
「舞妓さんだぁ♡ 綺麗っ」
少し先を、着物の後ろ姿が歩いていた。
長く垂らした、だらりの帯が、歩くたびにゆるりと揺れる。
梨花はほう、とため息をついた。
「あの後ろ姿……仕草ひとつとっても、美しいです……!」
思わずにぎりこぶしを作ってしまう。
「あの下駄? 名前わからないけど、すごいよね。高さがあって歩きにくそうなのに、そんなの微塵も感じさせない優雅さよ。私の厚底なんて目じゃないわ」
と、キョーコ。
「町の風景こみで、良いですね。非日常だ」
と、梶田も街レポのようなコメントを出す。
5分もすると、最初の目的地ーーキョーコが電車に乗る予定の駅に着いた。
「じゃーねん♡」
と、駅に降りる階段の前で手を振るキョーコ。
「今日はありがとうございました! お話できてよかったです」
と、梶田。
「こちらこそぉ。梶田さん、明日は梨花ちゃんをよろしく頼みますねっ」
「お任せください」
「キョーコさんったら。じゃあ、また」
「うん、またね、梨花ちゃん♡」
「今日は、同席いただいてありがとうございました」
宿に向かい歩きながら、梨花は隣の梶田に礼をいう。
昼間より少し通りを歩く人が減って、二人並んで歩いても支障なかった。
「こちらこそ。梨花さんのお友達に紹介してもらえて、嬉しかったですよ?」
「よかったです。シェアハウスの人たち、皆いいひとでーー」
「うーん、伝わらないか」
「え?」
「いや、何でも。キョーコさん、気さくな人ですね」
「ですよねっ。大好きなお姉さんです」
「梨花さんが、大事にされてるのがわかります」
なんだか、さっきから梶田の視線が少し照れくさい。
梨花は少し熱くなった頬をそむけて誤魔化すように、曲がり道の先を指差した。
「あ、宿こっちです」
「手配、僕の分までありがとうございました」
「いーえ! ついでですから。素泊まりだったので、普通のビジネスホテルですしーー」
チェックインをそれぞれ済ませ、宿泊階へと移動する。
同じ部屋に泊まるわけでもないのに、エレベーターの中、梶田と並んだ右肩が少し緊張した。
隣の部屋の前で、梶田が笑顔で手を振る。
「じゃ、また明日」
「はい、また明日」
ひとり部屋に入って、梨花は、ふう、と息を吐く。
いままで恋愛に疎い人生を送ってきたから、自分の気持ちがわからない。
(梶田さんがかっこいいから、ドキドキしてるだけかもしれないし!)
うん、明日も早い。
今日はゆっくり汗を流して、さっさと寝てしまおう。
このホテルは、大浴場がオススメだと、口コミにも書いてあったし。大きいお風呂でリラックスして。
京都の町を寝不足で過ごすなんて、もったいないオバケが出てしまう。
◇
大浴場はとてもよかった。
外の休憩スペースも、とても広い。
自販機でコーヒー牛乳を買って湯上がりタイムを堪能していると、同じく湯上がりの梶田がやってきた。
「あっ、梶田さん」
「さっきぶりです。僕ら、タイミングバッチリじゃないですか」
梶田の眼鏡姿を見るのははじめてで、まじまじと見てしまう。
そして、気づく。
「あんまり顔、見ないでください」
梶田の顔はじっくり見たくせに、そんなことを言ってしまう。だって仕方ないのだもの。
「すっぴんなので」
梶田は首を傾げる。
「え、でも眉毛ありますね」
「ええ?」
「や、いとこの姉ちゃんがすっぴんだと眉毛半分しかなくてーー」
「ふふ」
思わず笑ってしまった。
あ、そうだーーと、梨花は梶田に手招きをして窓際に誘う。
「こっちから、少しだけ鴨川が見えるんです」
「本当だ。鴨川と夜の桜、いいですね」
……………………
………………
「わ、もうこんな時間か。ちょっとのつもりが話し込んじゃいましたね。すみません。あ、そうだ。明日は何時に出ましょうか? 朝食は、どうします?」
と、梶田。
梨花は頭の中でシュミレーションしてから、提案をかえした。
「7時半にフロントに待ち合わせでいかがでしょう? 行きたいお店が」
「お、いいですねぇ。モーニングですか?」
「はい! モーニングに行きましょう!」




