第28話
「梶田さん! お疲れ様です。こちら、元同居人のキョーコさん。キョーコさん、梶田さんです」
と、梨花。
「はじめまして! 奈辻キョーコです! 梨花ちゃんの姉のようなものだと思っていただければ!」
「あ、お話は伺っております。梶田翔太です。梨花さんの同僚です。よろしくお願いします」
お互いに笑顔で自己紹介をする、ふたりである。
(ふわぁ……美し)
美男美女の対面に、凡人は一歩引いたところで眺めていたくなる気持ちになる。
しかしそんなことをしたら双方に気を遣わせてしまうので、梨花は頑張って踏みとどまった。
「今日は女子会に混じらせてもらって、どうもすみません。奈辻さんは奈良の方なんですよね? 神奈川と奈良じゃなかなか会えないし、積もる話もあったんじゃないですか?」
と、梶田。
梨花とキョーコは顔を見合わせた。
毎日同じ家に帰っていますだなんて、言えるわけもなく。
にゃははと笑って切り出したのは、キョーコだった。
「全然ですー! シェアハウスのメンバーとは、しょっちゅうリモート飲み会やってるんで! 最近よくお話しを聞く梶田さんにも、会ってみたかったし!」
「光栄だな。ありがとうございます」
とくに疑われてはいないようだ。
キョーコの機転に感謝しつつも、なんだか梶田を騙しているような気分が拭えず、申し訳ない気持ちがつのる。
(いつか、全てを話せる日が来たりするのかな)
梶田なら、突拍子もない話も、真剣に聞いてくれそうだなと思うのだけれど。
信頼を寄せれば寄せるほど、黙っていることも、それをいつか話した時の彼の反応も、想像するだけ怖くなっていく。
◇
「こっちの枝垂れ桜は、他の桜よりも少しだけ早いですね」
ひときわ人々の視線を集める一本の桜の前で、梨花たちもまた足を止めた。
「ほんと、見頃だね〜!」
「うん。来てよかった。今日は、いろいろ観光できましたか?」
と、梶田。
「はいっ」
「美味しいお魚も送ったよね〜! 梶田さんも月曜日のお弁当に期待ですよ」
「それは楽しみだな」
「ねー、梨花ちゃん」
にししと笑うキョーコに、「がんばります」と照れを隠して真面目に返す。
再び歩き出した時、遠くの方に探していた建物が見えた。
梨花はとっさにふたりを振り向く。
「あっ、そうだ、私ちょっと……そう、お手洗いに! ちょっと待っててくださいっ」
◇
「はーい。いってらっしゃい〜。…………嘘つけないですよねぇ。梨花ちゃんって」
手を振って見送った後、キョーコは呟く。
「お守りか何か、買いに行きましたね、あれは」
そう答える梶田の目は、楽しそうに細くなる。
「誰へのお土産だろ。五味くんかな?」
なんて、少しくらい発破をかけても許されるだろう。
ちらりと隣をみると、わかりやすく目を開いた梶田が。
「五味さんってーーデザイナー志望っていうーー」
にっこりと笑って頷くキョーコ。
「シェアハウスメンバーの中で、関東勢は梨花ちゃんと五味くんだけなんです」
「そうですか。あの、ふたりはもしかしてお付き合いされていたりとかそういう」
キョーコはその問いには答えずに、一歩、梶田に近づいた。
「梶田さんってーー好きな子の前では態度が変わるタイプですよね」
「いや……はは。バレバレですか」
「私と同類だからわかります」
キョーコはひらひらと手を振って、一歩下がった。
「からかってごめんなさい。五味君はただのお友達ですよ。でも彼にとっても、梨花ちゃんは大切な友人だから。泣かせたりしたら、殴りに行く、かも?」
「なるほど。肝に銘じます。……キョーコさんにとってはーー」
「友人です。そして妹分。大切な、ね」
にっこりと笑って、キョーコは言った。
「ーーお待たせしました!」
息を切らせた梨花が戻ってきた。
「おかえり〜!」
「お話の途中でしたか?」
「うん、好きなものの話してたよー」
「へぇ、食べ物です?」
「ううん、りーー」
「ちょ、キョーコさ」
「ーーリモート飲み会、かなり楽しいですよって♡」
「そ、そうなんです。僕もやってみたいなぁーなんて」




