第23話
店を出てしばらく歩くと、二条城が見えて来た。
桜の花が、ちらほらと咲き始めている。
「春だねぇ〜」
と、キョーコ。
「私、この季節がいちばん好きです」
と、梨花。
「うんうん。でもさ、なんでお花見って桜なんだろうね?」
「たしか……昔は、桜の木に田んぼの神様が宿るって信じられていたんですよね。春になると。だから、お酒やごちそうを用意して田んぼの神様をおもてなししたのが始まり、みたいな話。聞いたことがあります」
「へぇ〜! いまはその形だけが残ってるのね。なるほどなぁ」
「いまの時代はお花見しながら、神様について考えたりはしませんよね、あんまり」
「うん、何食べようかな、くらい」
「ですです。私も最初は、ピンとこなくて。でもその話を聞いてから、お花見の席では、桜に『いただきます』って言ってから、食べることにしたんです。気持ちだけですけど」
「へー! いいね、それ。私もそうしよっ」
「ねぇねぇ梨花ちゃん、このまま三条のほうに歩いてっても良い?」
「もちろんOKです! お買い物です?」
「うん、仙道さんに教えてもらった、雑貨屋さん巡りしたい!」
「行きましょう、行きましょう」
「がまぐちが欲しいんだよねー、小銭入れ」
「和柄?」
「和柄!」
「よし、可愛いの探しましょう!」
「なんかさ、修学旅行みたいで楽しいね」
にししと笑うキョーコが可愛らしくて、梨花は胸がきゅんとなってしまった。
「私も、とっても楽しいです……!」
「鴨川の河川敷に座ってるカップルってさ……なんであんなに等間隔なんだろうね」
橋の上から河川敷を眺めて、キョーコが首を傾げた。
「ベストな距離感があるんでしょうかね」
あいにく梨花は家族で訪れた事しかないので、カップル事情はわからないけれど。
「梨花ちゃんは鴨川の思い出とかある?」
「小さい時に、食べていたパンをトンビに持って行かれたって鉄板ネタなら……」
「うそー! やばいねっ」
「あ、ここだぁ! やーん、可愛いよっ」
お目当ての店の前で、キョーコが足を止めた。
ちりめん生地を使った小物のお店だった。
「本当ですね……! あ、これ、キョーコさんぽい」
梨花が手に取ったのは、がま口の小銭入れだ。
柄は紺色に薄紫の紫陽花と、黄色みがかったベージュの猫。
「可愛いっ! 好き。これにするよ」
「即決! いいんですか? 私が選んじゃって」
「私、人に選んでもらうの好きなのよー。これを使う度にさ、選んでくれた人の事を思い出すでしょう?」
「素敵な考え方ですね。じゃあ私のも、キョーコさんに選んでほしいです!」
「よしきた! 任せて!」
「いや〜、満足〜!」
両手に紙袋を下げて、満面の笑みを浮かべるキョーコ。
梨花も身の回りの小物をいくつか買った。あとは、会社の先輩ーー沙月へのお土産と。
旅先での買い物って、ウォーキング並みの運動量だと思うのは、梨花だけだろうか。
「ちょっと座って休憩します? せっかくだからお茶屋さんとか……」
「いいね! 梶田っちの待ち合わせは四条だっけ?」
「はい」
「じゃあ、京都駅とかには戻らずにこっちエリアにいたほうが良いね。四条のほうに歩きながらお店を探そうかーー」
「平日とはいえ、この時期は混んでますかねぇ」
(レトロな喫茶店とかないかなぁ)
キョロキョロと通りを見回していた梨花の目に、ヒットしたものがあった。
「あ、市場……!」
「聞いたことある! ここかぁー!」
(お麩買いたいっ! あと佃煮と湯葉とーー)
梨花の興奮が伝わったのだろうか。
「見ていく? 魚とかのナマモノじゃなければ、大丈夫じゃない? 私、持って帰るよ」
にっこり笑って、キョーコが提案してくれた。
「じゃあ、お言葉に甘えてーー!」