第22話
「お待たせいたしました。ごゆっくりどうぞ」
色白でにこやかな女性が、料理の乗ったお皿を並べてくれる。
「はぁい、どうも」
「ありがとうございます。美味しそう……!」
まず運ばれてきたのは、ミニサラダとエビフライ&ヒレカツサンド。
ミニサラダのドレッシングにはすりおろした玉ねぎが入っていて、甘味と酸味が絶妙だ。
野菜も新鮮で、素材そのものの甘みが感じられる。
揚げたてのエビフライと、ミディアムレアに仕上げた肉の切り口のピンクが麗しいビーフのヒレカツサンドは、ひとりぶんずつ分けてワンプレートにしてくれた。
サクッ
「ん〜! エビぷりっぷり! タルタルも卵ごろごろで美味しいよ、梨花ちゃん」
「カツサンドもお肉が柔らかくて……お肉の味が濃くて……最高です!」
「美味しいものをいただくと、生きてるなぁって思うのよ……」
「わかります!」
ふう、と休憩にひとくち水を飲むと、口いっぱいにフレッシュなレモンの香りが広がる。
こういう一手間が、また嬉しい。
さっぱりした口に、また美味しいひとくちを運ぶ。
「お姉さんたち、とても美味しそうに食べてくれるから、嬉しいよ」
カウンターの中で他の客が注文したハンバーグを鉄板に置きながら、マスターと思しき初老の男性が言う。
「だって美味しいんだもん。来てよかったです」
と、キョーコ。
「本当に!」
と、梨花。
「ふふ。ありがとうございます。こちら、カレーライスです」
ホールの女性が次を運んできてくれた。
ハーフサイズにしてもらった小盛りのカレーは、肉も野菜もとろとろに溶け込んだルウがスパイスのかぐわしい香りをたてて、とっても食欲をそそる。
ひとくち食べたキョーコが、悩ましい吐息をもらした。
「ああ……梨花ちゃん。私、カレーにはちょっとうるさいんだけど、ここのカレーは最高だわ」
「最高ですよね」
もう、美味しさを味わうために脳の全機能が持っていかれて、語彙が最高だけになってしまう。
ふと、キョーコの視線が梨花を通り過ぎて固定された。
今日一番真剣な顔で、顎に手をやるキョーコ。
「ねぇ、梨花ちゃん? どうしよう。あちらのテーブルのご夫婦が食されているカキフライ、とっても美味しそうなんだけど」
「あ、キョーコさんも気づきました?」
実はさっき梨花もチラッと見ていたのだ。
肉厚で、そのクリーミィさを容易に想像できるビジュアルの素敵な子。
「お姉さんたちめざといねぇ。今日の牡蠣は肉厚で美味しいよ〜」
「やだマスター、そんな事言ったら」
ちらと梨花を見るキョーコ。
梨花は真剣な顔で頷く。
「行っちゃいましょう。カキフライ、一人前をシェアでお願いします!」
「知ってた。知ってたけど、美味しいわね……!」
「このタルタル、レシピが欲しいです」
「おっと、それは企業秘密かな〜」
梨花の呟きに、マスターがおちゃめに乗ってくる。
ホールの女性といい、アットホームな雰囲気が人気の秘密のひとつでもあるのだろう。
「ですよね。京都に来たら、また来ます」
「あ、今日、夜は梶田っちも一緒にご飯いけるの?」
「はい! 梶田さんも楽しみにしてくれてて」
「楽しみだね。何食べようか〜」
「あ、それなんですけど……!」
梨花が考えていたプランを提案すると、キョーコも快諾してくれた。
「ふんふん。いいじゃない!」
キョーコとの話がまとまったところで、コーヒーが運ばれてきた。
ミルクピッチャーから少しミルクを注ぎ、お砂糖はスプーン一杯。
酸味の少ないマイルドなコーヒーは、少しナッツのフレーバーが感じられて、食後のひと息にぴったりだった。
そしてお待ちかね。
「お待たせいたしました。プリンです」
「わーい♡」
「ご褒美ですね」
丸くない、カットされた三角の、懐かしいプリン。
しっかりとした固さと、濃厚な卵の味わい。
白いお皿にとろりと広がる、茶色のカラメル。
時折コーヒーを飲みながら、その甘さを存分に味わう。
「美味しかった。ごちそうさまでした」
と、キョーコ。
「素敵なランチタイムでした。ごちそうさまでした」
と、梨花。
「ぜひまた来てくださいね」
にっこりと笑う女性に、ふたりも笑い返す。
「はい、必ず!」
※本作に出てくるお店等は全てフィクションでございます。




