第17話
「今日はよろしくお願いします!」
梨花に続いて、三人もそれぞれ、コナに挨拶をする。
「よろしくね、コナちゃん」
「はじめまして。仙道です。今日はよろしくね」
「五味です。楽しみにしてました。よろしくお願いします」
4人とも、今日は歩きやすいラフな格好にした。
梨花と仙道はデニムにTシャツ。
五味は黒デニムに黒Tシャツ、Tシャツのステッチだけが差し色の黄緑色。
キョーコはコットンのハーフパンツに半袖のトップス。
足元は皆スニーカーだ。
「どうも、コナです。いらっしゃい! こんなにたくさん、あっちから来てくれるのは初めてだよ〜! はりきって案内するね!」
そう言いながら、斜めがけのポシェットを装着するコナ。
「カヨさんのお散歩コースを中心に回るけど、何か見たいものがあったら遠慮なく言ってね! あとは、そうだな〜」
梨花たちの姿をながめて、棚から何やら布を取り出した。
「一応、このローブを着てくれる? 今日はそんなに暑くないし。フードをかぶっちゃえば、耳のあるなしはわからない」
「やっぱり、こっちだと、私たちの姿は珍しいの?」
「他の国にはいるよ。梨花たちみたいな人。でもこの国では観光客くらいかな。だから、悪い奴に狙われやすい」
それは地球と同じなのだな、と梨花は思った。
不慣れなよそ者は、狙われやすい。
ローブを着た一行を満足げに見渡して、コナは右手をあげた。
「うん、皆サイズは大丈夫だね。じゃあ、しゅっぱーつ!」
「わぁっ……!」
扉の向こうは、大きな橋の上だった。
コナの店は、とっても大きな橋の欄干にくっつくように建っているらしい。
コナの店だけではなく、橋の上には同じような店がずらりと並ぶ。
梨花は感嘆の声をあげた。
「すごいっ! 私、こんなの見たことないです」
「キョーコさんが言ってた通り、本当にイタリアっぽいっすね」
「五味さんは、イタリアに行かれたことがあるんですか?」
「専門の卒業旅行で。て言っても、パックツアーだけど」
「いいなぁ、いつか行ってみたいです」
「こっちのほうが貴重すぎる経験っすよ。まさに人生に一度かも」
「たしかに……!」
無いものねだりより、いまこの瞬間を楽しまねば。
橋の上を行く人々は、お店をのぞいたり、景色を見たり、皆楽しそうだ。
「えっと、まずはこの国の象徴、運河です!」
店と店の切れ目から、広い運河がのぞめる。コナが言うように、ここは運河が人々の生活を支える、水の都なのだろう。
「私ね、この橋からの景色がいちばん好きなんだ」
「素敵です」
と、梨花。
「本当、綺麗」
と、キョーコ。
「水の透明度がすごいね。人々の生活圏にこんなに密接しているのに、川の底が透き通って見えるってすごいことだよ」
仙道は興奮して饒舌になっている。
「ゴンドラの装飾も、凝ってて良いなぁ……あとで近くで見たいっす」
五味は職業柄か、デザイン的なものが気になるようだ。
「カヨはいつも、ここでドリンクを買っていたよ。もしかしたら、君たちの口にも合うかも?」
橋を渡り切ったところにある出店の看板を指差す、コナ。
書かれた文字は読めないけれど、何やら柑橘のような果物の絵が書かれていた。
「じゃあ私、注文します!」
「私もー!」
事前に、コナと取り決めをしてあった。
今日使う分の、こちらのお金を、コナからもらう。それと交換で、後日、梨花の作った料理や日本の食材を差し入れる事。
4人それぞれにもらった小さな財布で、今日は異世界の街を楽しむのだ。
(本当に修学旅行みたい!)
お小遣いをやりくりするような感覚が、なつかしくてとても楽しい。
黄色いドリンクを受け取って、ひと口飲む。
はしゃいだ喉に、冷たい果汁が美味しく沁みた。
「わ、なんだろう? レモネード? ゆず? 美味しい!」
「俺らはこっちの買ってくるね〜」
男性陣は、肉の串焼きの方に歩いて行った。
コナは少し離れた場所で、知り合いに声をかけられ、談笑している。
梨花とキョーコは、空いていたベンチに腰を下ろした。
「私ね、梨花ちゃんとこんなふうにお出かけしてみたかったの」
「キョーコさん……! 私もですっ」
ふたりでふふっと笑いあう。
「不思議だよね。日本にいた時は、遠すぎて、待ち合わせもできなかったけど。異世界でこんなふうに、みんなと遊んでさ。今日は、本当に楽しいや。ーー梨花ちゃんのおかげ。ありがとう」