第16話
「カヨさん……」
考えこんだ梨花の顔を、キョーコが覗き込む。
「心当たりがある? 梨花ちゃん」
「あ、いえ。このコップ、特別に希少なものとかではないので。たまたま、かも」
梨花の好きな雑貨屋さんで買ったものだけれど、同じ系列のお店は全国にある。
「まぁねぇ。人と被ることって意外とあるけど」
「ですよね」
「でもやっぱり、『ここ』で被るのって、なんだか運命感じちゃうわねぇ」
しみじみと言うキョーコに、梨花も同意する。
「はい……」
「カヨさん、どんな方でしたか?」
「リカやキョーコより、もっと年上だったよ。月に一回くらいかな。こっちに来てたの」
懐かしそうに、コナは笑う。
「いつもこっちのお店を楽しそうに見て回って」
「ここの街、私たちも散策できるんですか?!」
梨花の勢いに、コナはぱちくりと目をみはる。
「カヨは、してた」
(そうか。そうなんだ)
つい、そっちに食いついてしまった梨花である。
「どうして、これなくなっちゃったんでしょうか」
「引っ越しするって、いってた。ここにつながる扉にも、もう触れなくなっちゃうって」
「なるほど。入り口は人でなく、家に『ついて』いたんですね」
「コナさん。もしよかったら、私たちを一日、いや半日、案内していただけませんか? カヨさんが好きだった場所に。できれば、同居人も一緒にーー男性もいるんですけどーー。どうでしょうか」
「私からもお願い!」
「お礼のお料理ははずみます!」
「いいよ」
あっさりとコナは承諾してくれた。
「観光ガイドのバイトは、経験あるからね」
「ありがとうございます!」
「でもきっとお料理なんかは、梨花の作ったものの方が美味しいよ?」
真顔で言われて、なんだか照れてしまう梨花なのであった。
◇
「へぇ! 楽しそう! 行く行く! 仕事もひと段落したしね」
梨花たちの話を聞いた仙道が楽しそうに言う。
「行ってみたかったから、嬉しいっす」
五味も子供のようにわくわくした顔だ。いつもポーカーフェイスだから、新鮮だなと梨花は思う。
「大家さんは?」
ピィ。
ふるふると首を振る、大家さん。
「うん、じゃあ、お留守お願いします!」
梨花に頷きかえし、大家さんはごそごそと羽毛の中を漁り出した。
(え、まさか、四次元ポケット的なアレ……?!)
梨花がどきどきしながら待っていると、黄色いお守りが三つ出てきた。
小さな巾着タイプで匂袋のようにも見えるのだけど、『守』という一字が書いてあるので、お守りなのだろうということが分かる。
ひょい、ひょい、ひょい
梨花と、キョーコと、五味の手に、お守りを配る大家さん。
そして、じいっと、仙道を見る大家さん。
「あ、大丈夫、ここにーー。この間もらったやつ、まだちゃんと持ってるよ」
仙道が、ボディバッグから同じお守りを出して言った。
「これね、すごいんだよーー!」
と、仙道が言う。
「いくら酔っ払ってても、ちゃんと家に帰ってこれるんだ!」
「仙道さん、酔っ払うと道で寝ちゃったりするからね……」
キョーコが言うと、五味も頷く。
「これ持つようになってから、ちゃんと財布とか無くさずに帰ってくるようになりましたよね」
「へぇ〜! すごい! これがあれば安心ですね。ありがとう、大家さん」
梨花が抱きつくと、照れたように大家さんはピィと鳴いた。




