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97.共闘

空を覆う黒い雲から落ちた一粒の雫が、倒れ伏すイアンの頬で弾ける。

次の瞬間、イアンの心臓が大きく脈打ち、肺に空気を取り込み始めた。

目を覚ましたイアンは、その場で何が起こったかを思い出す。

身体の状態を確認すると、貫かれたはずの胸の傷は跡形もなく塞がっていた。

(…どれくらい経った?リンダは連れて行かれたのか?)

起き上がって周囲を見渡すと、リンダの姿も馬車もない。

その代わり、そこにあったのは、チャールズと“鉄の牙”の遺体だった。

どの遺体も酷く痛めつけられており、常人なら目を背けてしまう状態だ。

イアンでさえ動揺を隠せなかったが、深く息を吸って吐き出すことを繰り返し、平静を取り戻す。

そして、シトシトと降る雨の中、イアンは黙々と遺体を集め、木陰に丁寧に並べていった。

しかし、見える範囲には男性陣の遺体しかなく、周辺を虱潰しに探す。

道から外れ、草木をかき分けて行くと、茂みにシェリーとレイラの遺体を発見する。

ただ、二人は何も身に纏っておらず、身体には嬲られた形跡があった。

イアンは開かれたままの虚ろな目を閉じてやり、傍に落ちていた衣服を二人に掛ける。

同じように遺体を運び、マックスたちの隣に並べた。

六人の遺体を並べた後、しばらくの間、イアンはそれを黙って眺める。

ほんの一週間程度の付き合いだが、旅を共にした仲間だ。

何も感じない訳がなく、イアンは歯を食いしばる。

⸻憤怒、憎悪、後悔、ソレニ殺意。コレハマタ随分ナ負ノ感情ジャナイカ

(久々に出てきたかと思えば…何の用だ?)

⸻何、手ヲ貸シテヤロウカト思ッテナ

(手を貸すだと?)

⸻奴ラヲ殺シタイノダロウ?身体ノ主導権ヲ渡セ。オ前ノ願イヲ叶エテヤル

(…ダメだ。これは俺の手でけじめをつけるべきことだ)

⸻果タシテ、オ前ニ成セルカナ?私ノ力ヲモッテスレバ容易イコトダゾ?

(黙れ。お前には二度と頼らないと決めた。失せろ)

⸻ソレハ残念ダ。ダガ、オ前ハイツカ必ズ私ヲ求メル。ソノ日ヲ楽シミニ待ツトシヨウ

その声は小さく笑って消えていった。

不穏な発言が気になったが、イアンは頭を振って聞かなかったことにする。

その後、遺体が雨や獣により痛まないよう、イアンは土魔法で遺体の保護を行った。

それからすぐに、イアンは出発の支度を始める。

所持品を確認したところ、金品はもちろん、武器の類も奪われおり、ナイフすらない。

ただ、イアンは手をつけられていなかった携行食を口に放り込むと、街とは反対の方角へ駆け出した。




イアンは三時間ほどかかって、昨夜の野営地まで戻ってきた。

その付近も雨が降っていたらしく、ぬかるんだ地面に馬車の轍と多くの足跡が残っている。

野盗たちのものであろう痕跡を辿っていくと、轍と足跡は道を逸れ、森の中へと続いていた。

イアンは獣道に足を踏み入れ、さらに進んだところで木々の間に洞窟の入口が見える。

その前には見張りが数人おり、傍には商会の馬車が放置されていた。

そこが野盗たちの根城だと確信したイアンが迷わず乗り込もうとすると、不意に肩を叩かれる。

反射的に後方に蹴りを放つが、まさかの空振りをしてしまう。

そして、振り向きざまに視界に入ったのは、例の黒装束に身を包んだ男だった。

「こんな場所で会うとは奇遇じゃないか、イアン」

「“カラス”…ここにいるってことは、お前もあいつらの仲間か?」

「冗談はやめてくれ。私は孤独な烏。群れることなどしない」

嘘はついている口ぶりではないが、犯罪者を前にして、イアンは簡単に警戒を解くことはしない。

「じゃあ、何でお前はここにいる?」

「私は彼らに用があるものでね。君もそうだろう?おそらく、拉致された人物の救出といったところか?」

「どうして知っているんだ?」

「偶然、その現場を目にしただけだ。というわけで、君と私の目的は近しい。そこで提案だが、二人で共闘というのはどうだ?」

「は?共闘?」

犯罪者と手を組むなど、受け入れられるはずがない。

イアンは“カラス”に背を向け、一人で洞窟へと向かおうとした。

「まあ、待て。私の話を聞いてからでも遅くはないはずだ。それとも、ここで私と争うか?」

背後からの殺気に、イアンは足を止める。

「五分で終わらせろ」

「賢明な判断だ。では、まず始めに、彼らが何者か知っているか?」

「さあ?野盗の集団じゃないのか?」

「不正解だ。彼らは王国に根を張る犯罪組織であり、“血塗れの大蛇”を名乗っている。ちなみに、昨年学園に怪物を放ち、君たちを苦しめたのは彼らだ」

イアンには、異形の者たちに蛇の紋様が刻まれていたのを見た覚えがあった。

「この洞窟は彼らの本拠地であり、組織の幹部や手練れが揃っている。君がいくら強いといっても、救出が成功する可能性は極めて低い」

その言葉に、イアンは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

「さらに、ここからそう遠くない位置に騎士団・魔導師団、王国軍まで待機している。明朝には、 “血塗れの大蛇”の掃討作戦が行われるそうだ」

「それなら、俺はそっちに合わせて突入すればいい」

「甘いな。王国の精鋭を相手にして、“血塗れの大蛇”は間違いなく逃走を選択する。そして、追跡を免れるために、人質を含め、すべての痕跡が消されるだろう」

「…つまり、掃討作戦が始まる前にケリを付けるということか?」

「その通り。さあ、どうする?私の手を取るか?」

“カラス”はイアンに手を差し出す。

イアンは数秒思案した後、その手を掴んだ。




見張りの男は暇そうに欠伸をする。

そこに強めのそよ風が吹いたが、気にも留めなかった。

すると、隣にいた仲間たちの首がゴトリと地面に落ちる。

驚きのあまり声を上げようとしたが、代わりに喉から血が噴き出した。

男は首を斬られたことを理解する間もなく、絶命する。

「これで見張りは片付いた。それにしても、気配の消し方が中々様になっているじゃないか」

「つい最近、教わったんだよ。ところで、遭遇する敵はすべて排除でいいのか?」

「ああ、そうすべきだ。殺しに快楽を求める異常者に生きる価値などない」

「はっ、どの口がそれを言う?お前も似たようなもんだろ?」

「…私がたったの一度でも望んで殺人を犯したことがあると思うか?」

“カラス”の怒気を含んだ口調に、イアンは息を呑む。

「まあ、そんなことはどうだっていいことだ。イアン、武器を拾っておくといい。なまくらだろうが、ないよりはマシだろう」

“カラス”に従い、イアンは適当に落ちていた剣を拾う。

その剣は粗悪品も粗悪品であり、イアンは剣を取り返すことも検討に入れた。

「では、悪の巣窟へ入るとしようか」

“カラス”に先導され、イアンは暗い洞窟の中へと足を踏み入れた。

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