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93.呼び出し

今年の精霊祭が過ぎて一週間後、イアンはリンダから呼び出しを受ける。

待ち合わせ場所の喫茶店に行くと、すでに先に来ていたリンダがテラスでお茶を飲んでいた。

ただ、その表情は芳しくなく、面倒事の気配を感じたイアンはその場で踵を返したくなる。

ただ、不意に顔を上げたリンダと目が合ってしまったため、仕方なくリンダの座るテーブルに向かった。

「悪い。待たせたな」

「私が早く着いただけよ。とりあえず、そこに座って頂戴」

リンダは自分の前の椅子を指し示す。

言われるがままにイアンが席に着くと、リンダは店員を呼んだ。

「何か頼むといいわ」

「いや、俺は別に…」

「ここは私が支払うから、好きなものを選びなさい」

「じゃあ…」

リンダに促され、イアンは適当な軽食と飲み物を注文する。

店員が店の中に戻っていくと、リンダが話を切り出した。

「…そういえば、この前紹介した店はどうだったかしら?」

「ああ、メシは美味いし、懐にも優しい、最高の店だった。教えてもらって助かったよ」

「それはよかったわ。そうそう、この前の精霊祭で久しぶりにクレアと会ったのだけど…貴方たち、デートしたのだってね?私が紹介した店にも二人で行ったのでしょう?」

「まあ、そうだな」

「でも、クレアはデートのことについて何も話してくれなかったのよね…何か知らないかしら?」

あくまで疑問型だが、リンダはイアンに原因があると確信しているのか、まるで尋問を受けているような気分になった。

リンダが納得するまで帰してもらえないと察し、イアンはデートの時のことをすべて白状する。

イアンの話を聞いたリンダは、眉間にシワを寄せ、額に手を当てた。

「貴方ねえ…デート中に他の女が好きだって話をするなんて、ありえないわ」

「それはクレアから話を振ってきたからで…」

「言い訳を聞く気はないわ。本心とは違うとしても、その場では否定して、適当に誤魔化せば良かったのよ」

「いや、それは無理だ。たとえ嘘だとしても、この感情を否定するつもりはない」

きっぱりと言い切ったイアンに、リンダは唖然とさせられる。

「…貴方、クレアの気持ちに気付いているのでしょ?」

「ああ」

「それなら、どうしてそんな残酷なことができるの?デートの後、一度でもクレアと会った?あの子、自慢の長い髪をばっさり切っていたのよ。私の前では普段通りに振る舞おうとしていたけど、無理しているのは一目瞭然だったわ。ここまで聞いておいて、貴方は何も感じない?」

リンダの問いかけられ、イアンはしばらく黙り込んでいたが、おもむろに口を開いた。

「…それで、俺に何をしてほしいんだ?クレアに謝ればいいか?それとも、口先だけで好きとでも言えばいいか?」

「私はそういうことを求めているわけじゃ…」

「何と言われようと、俺はクレアの気持ちには応えられない。俺のことは忘れるよう伝えて…」

「黙りなさい!これ以上、クレアの想いを踏みにじるのはやめて!」

リンダは立ち上がりそうな勢いで、テーブルを強く叩いた。

「お持たせいたしました。ご注文の品です」

店員の声にリンダは動きを止めると、ゆっくりと椅子に座り直した。

そして、怒りを鎮めるように大きく息を吐き出す。

店員が注文の品を置いて去った後、リンダは静かに話を再開した。

「…クレアのことは私が何とかするわ。貴方はしばらくクレアに近付かないようにして」

「ああ、分かった…話はそれだけか?」

「いえ、本題は別にあるわ。ただ、少しだけ休ませて頂戴」

リンダが背もたれに身体を預けて休む間に、イアンは軽食に手をつけた。

ちょうどイアンが食べ終わる頃、リンダは背筋を伸ばし、イアンに目を向ける。

先程までとは違い、リンダの表情は商人のそれに切り替わっていた。

「本題に移りましょう。イアン、貴方に護衛を依頼します」

「護衛?誰のだ?」

「私よ。スラットリー家が商会を経営していることは知っているわね?」

「ああ、前に聞いた」

「学園を卒業後、私も商会で働く予定なのだけど、修行の一環として行商に出るよう、商会長である父から言われているの。ただ、旅の道中は当然、危険が付きもの。私には戦う力はないし、積み荷を守るためには、護衛を雇わなくてはならないわ」

「護衛を雇うなら、冒険者でいいんじゃないか?」

「もちろん、すでに冒険者組合に依頼をかけているわ。『金級冒険者を含むパーティー』という条件にしたから、十分な戦力が揃うはずよ」

「だったら、わざわざ俺を護衛にしなくてもいいだろ」

「確かに、貴方を加えずとも、旅路に影響はないと思うわ。商会の経験豊富な従業員も同伴してくれるし、今のところ不安な要素はない。ただ…」

リンダを少し躊躇った後、言葉を続ける。

「信用できる人間を傍に置いておきたいの」

「…その信用できる人間ってのは、俺のことか?」

「ええ、そうよ。何か問題がある?」

「いや、問題はないが…さっきの話もあったし、信用されているのが意外だと思ってな」

「少なくとも三年同じクラスにいたのよ?貴方の人となりは理解しているつもりだわ。あと、クレアのことは許したわけじゃないから」

リンダにジト目を向けられ、イアンは視線を逸らして頭をかいた。

「それで、依頼を受けてもらえるかしら?」

「ああ、いいぞ」

「ありがとう。じゃあ、依頼の詳細を説明するわ」

リンダは地図を取り出し、イアンの前に広げる。

説明によると、今回の旅では王都を出発後、いくつかの街に立ち寄って、また王都に帰ってくる予定とのことだ。

また、行商が目的なので、各街で商品の仕入れを行い、道中の村々で売り捌くことを繰り返すらしい。

期間は二週間ほどという話を聞いたところで、イアンが口を挟む。

「二週間も行くのか?その間、学園はどうする?」

「その心配はいらないわ。すでに学外活動の許可はもらっているもの」

リンダはイアンの名前が書かれた許可証を見せた。

「俺に無断で申請したのか?」

「貴方が受けてくれると分かっていたからよ。普段はこんなことしないわ」

リンダは悪びれる様子もなく、さらりと述べた。

「それから、報酬のことだけど、学外活動である以上、金銭の授受ができないの。その代わり、旅に必要な経費は負担させてもらうわ」

「経費?」

「具体的に言えば、食事や宿泊、装備品などにかかる費用ね。これらは商会から出すわ」

「それはありがたいが、装備品は学園の支給品でいいだろ?」

「あのねえ、学園の影響力って案外大きいのよ?学園の権威を振りかざしての商売は簡単だろうけど、勉強にならないわ」

「なるほど…」

「とりあえず、今から貴方の装備を調達しに行くわよ。うちの商会でいい品を見繕ってあげる」

リンダは支払いを済ませると、イアンを連れて喫茶店を後にした。

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