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83.指導

魔法科での放課後。

野暮用があり、イアンが遅れて演習所に顔を出すと、初めて見る生徒が数人いた。

その傍にはマイルズとルシアもおり、どうやら彼らに指導を行っているらしい。

しかし、二人の表情から察するにあまり上手く行っていないようだ。

すると、マイルズがイアンに向けて手を振ってきた。

「イアン、ちょうどいい所に。ちょっと来てもらっていい?」

「ああ、いいぞ」

イアンの姿を認識すると、指導を受けていた生徒たちが小さく悲鳴を上げる。

その反応で彼らが新四年生であることがすぐに分かった。

「紹介するよ。彼らは今年魔法科に入った後輩だ」

「ここにいる四人で全員か?」

「そうだよ。まあ、例年なら十人はいるんだけどね」

「理由は?」

「その、言い辛いんだけど…“狂犬”絡みだよ」

「なんだ、こっちもか」

すでに戦闘科で同様の状況を経験していたので、理解するのは難しくなかった。

「で、どうして二人が四年生の指導をしているんだ?」

「それは、彼らのテストの結果が芳しくなかったからです」

「テストというと、去年やった大岩のやつか」

「はい。今年も同じ課題でしたが、合格者はゼロ。誰も大岩を傷つけられませんでした」

「そうか。しかし、わざわざ指導を引き受けるなんて、よくやるな」

イアンの言葉にマイルズとルシアは小さくため息をつく。

そして、マイルズがイアンに耳打ちした。

「実は、自主的にやってるわけじゃなくて、押しつけられたんだ」

「は?どういうことだ?」

「四年生の実力不足は五年生で何とかしろ、って新しく学生長になったメイジー先輩に命令されてね。断れる雰囲気じゃなかったし、僕とルシアで引き受けることになったんだ」

「ベンジャミンはどうした?」

「ベンジャミン様は天才過ぎて指導者向きじゃないんだよ」

「ああ…」

ベンジャミンの実力が高いことは周知の事実なのだが、その魔法の使い方は非常に感覚的なのだ。

イアンも以前、上級魔法のコツを聞こうとしたが、ベンジャミンが何を言っているか理解できなかったことを思い出す。

「あの、もしよければ、イアンも協力してもらえませんか?一ヶ月以内に全員テストに合格してもらわなければならないのです」

「俺は構わないが…」

イアンが視線を送ると、四年生たちはさっと目をそらした。

やはり“狂犬”への恐れは根強いものがあるらしい。

少しばかり考え込み、イアンは四年生たちの前に立つ。

「この中で俺を怖いと思う奴は手を挙げろ」

突然の指示で四年生たちは身をすくませるが、本人の目の前で堂々と手を挙げる者はいなかった。

「誰もいない、でいいか?」

イアンに問いかけられ、四年生たちは恐る恐る手を挙げる。

その様子をマイルズとルシアが不安げに見守っていた。

ただ、イアンは笑みを浮かべ、口を開く。

「だよな。怖いと思うことに問題はない。だが、時には怖いものに立ち向かわなければならないこともある。それが今だ」

イアンは四つのファイアボールを多重発動し、それぞれに向かって放った。

ただ、ファイアボールは手前の地面に着弾し、穴を空ける。

そして案の定、四年生たちはイアンの攻撃に反応できていなかった。

「どうした?ちゃんと防御しろ。次は当てるからな」

イアンはもう一度ファイアボールを放つ。

今度は狙いがしっかり定められた攻撃に対し、四年生たちはアクアウォールを発動する。

火と水の魔法の相殺により、水蒸気が辺り一面を覆う。

「ちょっ、イアン!やりすぎだよ!」

「短期間で実力を上げるんだ。やりすぎくらいで丁度いいだろ」

水蒸気が晴れると、イアンは四人それぞれに異なる属性の初級魔法を撃った。

ただ、さすがは学園生。

即座に各々が属性に対応した防御を行った。

イアンは休む間もなく、初級魔法を撃ち込み続け、四年生たちも必死な表情で攻撃を処理する。

イアンが攻撃の手を止めた頃には、四年生たち表情に疲労の色が浮かんでいた。

「初級魔法しか使ってないのに、なんでこんなに強いんだ?」

「あの高威力を相殺するには中級魔法でないと厳しい」

「追尾してくるから、避けることもできないわ」

「多重発動と並行発動って、そう簡単にできるものじゃないよね?」

四年生たちは意外にも冷静で、イアンの攻撃を分析していた。

防御に集中していたためか、イアンに対する恐怖心が薄まっているのだろう。

「そろそろ頃合いだな…次は俺に向かって魔法を撃ってみろ」

イアンは両手を広げた。

四年生たちは困惑した表情で顔を見合わせるが、すぐに切り替え、魔法の準備を始める。

「中級火魔法!」

お互いの魔法を相殺させないよう、一人が声を上げ、魔法の種類を指示する。

そして、四人が同時に異なる中級火魔法を放つ。

ただ、イアンは防御する素振りは見せず、それぞれの魔法に対し、イアンはまったく同じ魔法をぶつける。

そして、イアンの魔法は相殺どころか、飛んできた魔法を飲み込むと、四年生たちに襲いかかった。

魔法を返されるという予想外の事態に、四年生たちは固まってしまう。

直撃するかと思われた寸前、アースウォールが四年生たちの前にせり上がった。

そこに火魔法が着弾し、轟音と共に土煙を上げる。

「あ、危なかった。あと少し遅れてたら大惨事だったよ」

「そ、そこまでです。もう十分でしょう」

土魔法を使ったのはマイルズで、ルシアも冷や汗を流していた。

四年生たちは無事だったが、表情から血の気が失せ、腰を抜かしている者もいる。

そんな中、イアンだけが涼しい顔をしていた。

「あれくらい対処できないのか?」

「彼らにイアンと同じ水準を求めるのは酷というものですよ」

ルシアの言葉にマイルズが同意するように頷いた。

そして、ルシアは四年生たちに声をかける。

「さて、皆さん。学園でも指折りの実力者と対峙してみていかがでしたか?」

「…たぶん、イアン先輩は本気じゃなかったと思います。それでも、勝てる気がしませんでした。まさか中級火魔法が返されるなんて…」

「なぜ返されたかは分かりますか?」

ルシアの質問に四年生たちはそれぞれに考えていた。

ただ、誰も答えられなかったので、ルシアが口を開く。

「答えは魔力の練り上げの差です。イアンの魔法は高密度に魔力が練り上げられています。その証拠に、ただの初級魔法が中級魔法並の威力になっていたでしょう?」

「確かに…」

「修行中の身での助言となりますが、魔法の実力を向上させたいならば、魔力操作を鍛えるべきと思います。お互い頑張っていきましょうね」

「「はい!」」

ルシアの呼びかけに、四年生たちは力強く返事をした。

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