81.女子会
ベレスフォード公爵邸の庭園の一角。
小池のほとりのガゼボから楽しげな声が響いていた。
「…とまあ、エレドナにおる時はそないな感じで過ごしとったわ」
「オルガさんのお話、とても面白かったです。エレドナ自治区の話は滅多に耳にできませんから、どの話も新鮮に聞こえましたわ」
「そらよかったわ。にしても、ここはようさん精霊様がおるな」
「本当ですか?わたくしには見えませんが…」
「うん、ほんまやで。エレドナの森と比べたら少ないけど、王都の中にしては多いと思うわ。ちゃんと手入れされとる証拠やな」
「オルガさんにそう言っていただけたのなら、うちの庭師も喜びますわ」
セシリアはまるで自分のことかのように嬉しそうに目を細めた。
そこに、メイドがポットを持ってセシリアに声をかける。
「お嬢様、紅茶のおかわりはいかがですか?」
「いただきますわ。皆さんにも淹れてあげてください」
「承知いたしました」
メイドは順に紅茶を注いでいく。
お茶会の席にいるのは、セシリア・オルガ・アガサ・ルシア・リンダ・クレアといった、いつもの面子だ。
ただ、せっかくのお茶会だというのに、もっぱらセシリアとオルガが話していて、他は相槌を打つ程度になっていた。
「あの、皆さんももっと会話に参加してはいかがですか?」
「せやで。あんま皆が喋らんかったら、うちの口が疲れてまうわ」
「申し訳ありません。しかしながら…」
アガサがおずおずと口を開く。
「この場にいる者は公爵邸でのお茶会が初めてとなります。ゆえに、普段通りの振る舞いをしてよいものか、迷っているのです。正直、私も緊張しております」
アガサの言葉に同意し、他の三人はこくこくと頷く。
「畏まらずとも、いつも通りで構いませんわ。今日はお父様もお母様もいらっしゃらないですし、ここに招待したのはわたくしが交友を深めたいと思っている方々ですから、多少羽目をはずしたところで誰も気に留めないでしょう」
「セシリアもこう言っとるわけやし、もうちょい気楽にやろうや。まあ、何を話せばいいか分からんってのはあるかもやな」
「では、一人一つお題を出して、それについて話すというのはどうでしょう?」
「ええやん。ほな、うちからいくわ。さっきはうちの故郷について話したから、皆の故郷について聞かせてもらおか」
オルガのお題:故郷
「公爵家は領地を持ちませんので…強いて言うならば王都が故郷ですわ」
「我が伯爵領はウォーレン侯爵領の北側に隣接しています。近年は侯爵家と連携して自衛私軍や守備隊の増強に努めています」
「私の育った街は王都の西側で馬車で一日もかからない距離にあります。王都の話題や流行がすぐに入ってきて、とても活気がありますね」
「スラットリー男爵領は南東の小さな土地です。観光事業に力を入れており、今の時期だと一面のヒマワリ畑がご覧になれます」
「私の故郷は北の方で、ほとんどの土地が畑や牧場です。冬は雪がよく降るんですけど、イアン君とレイ君のおかげで除雪作業が楽になったんですよ」
セシリアのお題:学園の生活
「戦闘科での訓練はとても充実していますね。同じ学年に実力者が揃っているので、鍛錬の相手には困りませんわ」
「私も同じくです。今のところ、ダリルから一本取ることが目標です。食事の量には未だに慣れませんが…」
「今は魔法の発動速度に加えて、威力の向上に取り組んでいます。難航していますが、傍に良き手本がいる間に習得できればと思っています」
「うちは精霊様に関して研究しとって、精霊様の力の源が何なのか調べとる。たまに研究室を爆破させてまうのはご愛敬やな」
「私は産業部門で経営の勉強中ですね。学問と現場との違いはありますが、新たな視点を得られるのでとても興味深いです」
「私も産業部門ですけど、リンダとは違って農畜産科で、毎日いろんな生き物と触れ合ってます」
アガサのお題:憧れの人
「私はもちろんセシリア様です。その優雅で品のある佇まい、槍を手にした時の凜々しさ。どこを取っても完璧な方です」
「ギルバート先生ですわ。あの御方の勇猛果敢な逸話にはいつも心躍らされます。まあ、憧れが過ぎて、少々苦い思い出はありますが…」
「憧れの人なら森のおばばやな。特別な能力があるわけやなかったけど、迷ったときに道を示してくれる人やった」
「イアンでしょうか。彼の魔法に魅せられて、弟子入りしましたから。あの時は勢い任せでしたが、彼を師匠に選んで間違いなかったと思っています」
「わ、私もイアン君です。剣も魔法もすごいし、勉強は嫌いみたいだけど頭の回転は速いし…あと、私に学園にいる意味をくれました」
「父です。男爵としても、商会の長としても優秀な人です。一代で王国全土に展開する商会を築き上げた手腕は尊敬に値します」
ルシアのお題:卒業後の進路
「魔導師団に入りたいと思っています。私には分不相応かもしれませんが、できる限り努力はするつもりです」
「もちろん騎士団に入りますわ。ただ、お父様とお母様が喧嘩しそうで少し怖いです」
「私も騎士団に入るつもりだ。オルグレン家としては初めてのことになるだろう」
「うちはエレドナに帰る予定や。おとんの手伝いをせなあかんからな」
「私も領地に戻ります。跡継ぎが私だけなので、領地運営の仕事を覚えないといけなくて…」
「商会の店の一つを任されることになっています。おそらく王都の店舗だと思いますので、機会があればご利用ください」
リンダのお題:流行
「最近だと身体の線が出るドレスが人気らしいですが、実際どうですか?」
「確かによく見かけるようになりましたが、あのドレスは着る方を選びますね」
「先日わたくしも着ましたが、少々胸の辺りがキツかったですわ」
「身体に布地が密着して動きやすいから、私はあれくらいで丁度よかった」
「そもそも、うちに似合うドレスがあらへん…」
「新しいドレスを買う余裕が…」
クレアのお題:恋愛
「皆さん、好きな異性はいますか?」
「いませんわ」
「おらん」
「いないな」
「いないです」
「いないわね」
「あの、身近にいる人とかは…?」
「レイは本人には問題がありませんが、狂信的なファンの存在が難点ですわ」
「ダリルは脳筋。ノーマンは性格が軟弱すぎる」
「ベンジャミン様は言動が無理です。マイルズは姉弟弟子なので…」
「…えっと、イアン君はどうですか?」
「イアン?たぶん誰も恋愛対象としては見てないわよ?」
リンダの言葉にクレアを除く全員が大きく頷いた。
「まあ、イアンが強いのは確かやし、冷淡に見えて人情的なところもある。ただな、イアンは頭のねじが飛んどる。見た目は普通やけど、腹ん中にヤバいもん隠し持っとるわ。クレアも気い付けや」
「はあ…」
オルガの忠告にクレアは曖昧な返事をするのだった。




