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7.入学初日

教室では新入生たちの和気藹々とした声が飛び交っていた。

栄えある王立学園に入学できた喜びが抑えきれないのか、誰もが浮かれているようだ。

そんなクラスメイトには興味がなさそうに、イアンは上の空で窓の外を眺めていた。

すると、教室の扉が開き、服の上からでも隆起した筋肉が目立つ男が入ってくる。

イアンの記憶によれば、その男は剣術の担当試験官だったギルバートだ。

「お前ら席に着け。ホームルームを始めるぞ」

ギルバートは談笑する生徒たちに呼びかけた。

ただ、話に夢中で気付いていないのか、生徒たちは一向に動こうとしない。

ギルバートはその様子に目を細め、教卓を叩き鈍く大きな音を立てた。

「おい、聞こえなかったか?席に着け」

殺気の少し混ざった低い声に、生徒たちは慌てて着席する。

全員が座ったことを確認すると、ギルバートは口を開いた。

「今日から1-Dの担任をするギルバート・スウィフトだ。担当科目は戦闘学。三年前まで王室騎士団副団長を務めていた。拳骨を喰らいたくなければ、俺の指示は一度で聞け。以上」

ギルバートは言葉を切ると、イアンの方を一瞥する。

イアンは入学試験の模擬戦でギルバートに勝てなかった。

モーリスもかなり強かったが、ギルバートはそれ以上だったのだ。

騎士団のことは知らなかったが、副団長の肩書きからして相当な手練れだったのだとイアンは納得する。

「出欠を取るぞ。ヘレナ・アディソン」

「はい…」

「声が小さい!ヘレナ・アディソン!」

「は、はい!」

「まあいいだろう。腹から声を出せよ。ブルーノ・アンカーソン」

「はい!」

ギルバートが騎士団出身であるためか、返事一つ取っても厳しく指導されるようだ。

その指導を恐れてか、自然に生徒たちの声量は大きくなり、背筋も伸びている感じがする。

「レイ・ウィルズ」

「はい!」

イアンの隣に座る男子が呼ばれた。

「次で最後だ。イアン」

「はい!」

どうやらこのクラスはイアン以外家名持ち、要するに貴族であるようだ。

そのため、周囲から好奇の目がイアンに向けられる。

貴族に比べれば平民が学校に行くハードルはかなり高いといわれる。

なぜなら、平民は経済的・家庭的・能力的に困難が多いからだ。

もちろん、イフリート王立学園は学費や生活費はすべて国費で賄われており、経済的には問題ない。

ただ、家業の手伝いといった家庭的な縛り、教育意識の差による能力的な縛りといったことが妨げとなっている。

その点、イアンの育った環境は恵まれていたといっていいだろう。

「以上、15名だ。三年までは同じクラスだから仲良くしろよ。じゃあ、ここからは学園のカリキュラムについて説明する」

ギルバートは黒板に説明を綴っていく。

「まず、王立学園は六年制だ。一年では学ぶ内容は全員同様で、基礎を重点的に叩き込む。二年になれば選択科目が加わる。自分の好きな科目を選んで受講できるぞ。学年が上がると選択できる科目数は増え、三年は講義の大半が選択科目になるだろう。四年からはクラスは解体され、専攻により別れることになる。三年間、己の才能を伸ばすことに専念し、最終試験に受かれば卒業だ。忠告しておくが、成績の振るわない者は落第、最悪は退学だ。このクラスから退学者が出ないことを願う。以上、カリキュラムについて何か質問はあるか?」

ギルバートが生徒たちに問いかけるが、特に手が挙がる様子はない。

「…では、次の話だ。王立学園では部活動や同好会も盛んだ。強制ではないが、参加することを推奨している。部活動の掛け持ちも許可されているが、無理のない範囲で行うように。本日の放課後から勧誘が始まる。一度は見学しておくといい」

そこまでの説明を終えると、チョークを置き、改めてギルバートは生徒たちに向き合った。

「最後に俺から一言。時間は有限だ。学生の時分など一瞬で過ぎ去る。己の才能といかに向き合うかを考え、学生生活を充実したものにしてくれ。これで本日の内容は終わりだ。この後は自由にしてくれ。以上だ」

ギルバートはそう言い残し、教室を後にした。

イアンも荷物を纏めて、さっさと帰ろうとする。

「えっと、イアン君でよかったかな?」

イアンが席を立とうとしたとき、隣の席のレイが声をかけてきた。

「何か用か?」

「あの、折角隣になったから仲良くなりたいなと思ってね。僕はレイ・ウィルズ。一応貴族の家系だけど、気にしないで普段通り接してもらえると嬉しいな」

レイはにこやかにイアンに向かって手を差し出す。

イアンはその態度を訝しみつつも、レイと軽く握手をした。

「…イアンだ。エッジタウンから出てきた」

「エッジタウン?それって国境付近の街だよね?」

「ああ、そうだ」

「へえ。君はどうして王立学園に?」

イアンはレイに自分の夢を語るべきか迷う。

適当な嘘をついて、その場をやり過ごすこともできただろう。

だが、イアンはレイには本当のことを言うべきだと直感した。

「俺は魔導騎士になるためにここに来た」

「魔導騎士だって…?」

レイは目を見開いた。

貴族からしても、魔導騎士とは珍しいものなのだろう。

レイはしばらく固まっていたが、唐突に笑い出した。

「馬鹿にしているのか?」

「いや、馬鹿にするつもりはないよ。驚きのあまり、つい笑えてしまったんだ。でも、不思議だね。魔導騎士となった君の姿が容易に想像できた。もし君が良ければだけど、イアン君の夢を応援させてくれないかな?」

レイは再び手を差し伸べた。

イアンはレイがすんなりと受け入れたことに驚く。

裏があるのではないかと疑ったが、レイのまっすぐな目にそんな考えは取り払われた。

イアンはしっかりとレイの手を取り、口元を緩ませる。

「イアンでいい。その言葉、忘れるんじゃないぞ?」

「当然だよ。僕は約束を破ったことがないんだ」

レイも笑みを返し、応える。

「この後部活の見学に行こうと思うんだけど、一緒に行かないかい?」

「ああ、いいぞ」

「よし。じゃあ、早速行こうか」

鞄を手に取り、二人は教室を軽い足取りで出て行った。

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