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67.カルヴィンの剣

「どぅわっ!?」

イアンに剣を弾かれたカルヴィンが派手に地面を転がった。

今日の訓練ではカルヴィンと模擬戦をしていたのだが、今のところイアンの全戦全勝だ。

「いてて。また負けちまったぜ。やっぱりイアンは強えな」

後輩に負かされても、カルヴィンは相変わらず軽い調子で接してくる。

そんなカルヴィンにイアンは違和感を覚えていた。

イアンの見立てではカルヴィンの実力は戦闘科では中の上といったところだ。

だが、こうして剣を交えてみるとあまりにも手応えがない。

そこで、イアンは思い切って質問を投げかけてみた。

「カルヴィン先輩、手を抜いていませんか?」

イアンの問いに、カルヴィンは一瞬固まるがすぐに笑みを浮かべて答える。

「そんなわけないだろ。お前が強すぎるんだよ。自信持てって」

カルヴィンはイアンの肩をバシバシと叩く。

納得のいかないイアンはさらに質問しようとしたが、ちょうど訓練終了の合図が出された。

「お、もう昼飯の時間か。それじゃ、お疲れさん」

イアンが引き止める間もなく、カルヴィンはとっととその場を去って行った。




その晩。

イアンは早めに自主訓練を切り上げて、寮に戻った。

部屋に入ると、机に向かっていたデュークが振り向きもせず声をかけてくる。

「どうした?今日は早いな」

「カルヴィン先輩に話があったので」

「俺に?」

カルヴィンがベッド上段から顔を覗かせる。

「今から手合わせできませんか?」

「今から?もうシャワー浴びたからな…」

カルヴィンはイアンの誘いに面倒だという態度を取る。

「シャワーならまた浴びればいい。付き合ってやれ」

デュークから思わぬ援護が入る。

さすがにデュークの言葉を無視できず、カルヴィンは観念したように口を開く。

「…しょうがねえな。あんまり長くはやらないぞ?」

「はい、ありがとうございます」

「俺も行こう。監督者が必要だろ」

デュークは読みかけの教本を閉じた。

のろのろと準備するカルヴィンを待って、イアンたちは部屋を出た。




デュークに連れて来られたのは、修練場ではなく、人気のない校舎裏だった。

「ここなら多少騒いでも問題ない。やるなら、さっさとやれ」

デュークに促され、イアンとカルヴィンは手合わせを始める。

だが、結果は昼間と同じでカルヴィンの剣が宙を舞った。

「…分かっただろ?俺よりもイアンの方が強い。それの何が気に入らないんだ?」

「カルヴィン先輩が本気を出していないことです」

「またそれか。俺は…」

「カルヴィン」

否定しようとしたカルヴィンだったが、デュークが口を挟んだ。

「見せてやればいい。お前の剣を」

「でも…」

「こいつなら大丈夫だ。それに、このままだと一晩中続けることになるぞ?俺の睡眠時間を削る気か?」

「…分かったっすよ」

カルヴィンは落ちていた剣を拾う。

「一回だけだ。それ以上はやらないぞ?」

そう言って、カルヴィンはこれまでとは違う独特な構えを見せる。

そして、カルヴィンが息を大きく吸うと、重低音の響く歌とゆったりとした踊りが始まった。

突然のことにイアンは呆然とするが、カルヴィンにかかってこいと手招きされる。

我に返ったイアンは一気に距離を詰め、剣を振るった。

いつもなら、これで終わっていただろう。

だが、カルヴィンの剣は弾かれることはなく、しっかりとイアンの剣を受けていた。

それから何度攻撃を仕掛けても、そのすべてを防がれ、攻めあぐねたイアンは一度距離を取ろうとする。

すると、歌が激しい曲調に変化し、カルヴィンが攻め込んでくる。

今までの攻撃が羽だったかと思うほどの重い攻撃に、イアンは受け止めるのがやっとだった。

ただ、その重さの分、次の攻撃までにわずかな間があり、その隙を突いて反撃しようとする。

しかし、また歌が変わり、今度はアップテンポの速い音楽が奏でられる。

音楽に合わせて、カルヴィンの動きも速度が増し、攻撃が次から次へと降り注ぐ。

もちろんイアンも一方的に攻めたてられるわけではく、カウンターを狙って剣を突き出す。

だが、その剣は受け流され、逆に返ってきたカウンターをイアンは後方に跳んで回避する。

気付けば、カルヴィンは静かで穏やかに歌っており、無造作にイアンの間合いに踏み込んでくる。

距離を詰められるのを厭ったイアンは牽制の攻撃を放った。

次の瞬間、カルヴィンの剣が目の前に迫る。

イアンは咄嗟に身体を反らし、それを躱した。

何が起こったか理解できず、何度か仕掛けてみるが、どんな攻撃もまるで鏡のように攻撃が返ってくる。

しばらく決着がつかないまま攻防を繰り返していると、カルヴィンは歌うのを止め、剣を下ろした。

「疲れた。もう十分だろ?終わりにしようぜ」

カルヴィンは労るように喉を撫でる。

一方のイアンは変則的な戦い方への対応で、いつも以上に汗を流していた。

「カルヴィン先輩、今のは何なんですか?」

「これが俺流の剣、“剣の舞”だ。防御特化の“土の舞”・攻撃特化の“火の舞”・速度重視の“風の舞”・攻守一体の“水の舞”の四部で構成している。まあ、歌でどの舞かがバレるのが難点だけどな」

「それなら、歌わなければいいんじゃ…」

「何言ってんだ?舞は歌があってこそだろ?」

さも当然のようにカルヴィンは言うが、イアンには理解できなかった。

「…“剣の舞”はカルヴィン先輩が編み出したものですか?」

「そうだぞ。うちは芸術一家でな、父親は彫刻家、母親は歌手、兄貴はピアニスト、妹は画家なんだ。当然、剣を選ぶことはすげえ反対された。だから、あいつらを黙らせるために、実戦的な部分を残しつつ、剣を芸術に昇華させたんだよ」

剣の流派はいくつもあるが、自分で作り上げるのは並大抵のことではない。

カルヴィンの目には確固たる意志を感じさせられた。

「それならどうして実力を隠しているんですか?」

“剣の舞”を使用したカルヴィンの実力は戦闘科の中でも上位に入るレベルだ。

だからこそ、あえて弱く見せていることに疑問が生じる。

「俺は自由気ままに生きたいんだよ。下手に実力を見せると、派閥に取り込みたいっていう輩が寄ってくるんだ。それが面倒くさくてな」

カルヴィンはうんざりした表情を浮かべた。

イアンも似たような経験はあったので、その気持ちは分からないでもなかった。

「ちなみに、デューク先輩もたぶん同じだ。あの人、エリック先輩よりも強いぞ」

小声で伝えられた事実はイアンを驚かせる。

「おい、終わったなら帰るぞ」

デュークは読みかけの本を閉じ、さっさと歩き出した。

「カルヴィン先輩、また手合わせをお願いできますか?」

「気が向いたらな」

カルヴィンはそう言い残し、デュークの後を追いかけていった。

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