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65.戦闘科の一日

午前五時。

ラッパの音が起床の時間を告げる。

イアンはベッドから飛び起きると、手際よく掛け布団を畳んでシーツの皺を伸ばす。

その頭上で、あと五分などと宣っていたカルヴィンをデュークが叩き起こしていた。

イアンは顔を洗い身支度を整え、訓練着に着替える。

自分の準備を終えたイアンは箒と雑巾を手に、部屋の掃除を開始した。

デュークの厳しい点検により何度かやり直したため、清掃が完了した時にはギリギリの時間となる。

急いで戸締まりを済ませ、イアンたちは部屋を飛び出した。


午前五時半。

戦闘科の全員が訓練場に集合する。

まだ早起きに慣れていない四年生の中には、眠たそうに目をこする者もいた。

時間ちょうどに現れた教官の指示で、班ごとに点呼が行われる。

イアンはダリル・ノーマン・ジョナスと同じ班だ。

ジョナスは隙あらばサボろうとする(実際、親睦会はサボっていた)ため、班長のダリルにより毎朝引き摺って連れてこられている。

全員揃っていることが確認されると、掛け声と共に走り込みが始まった。

朝一だとなかなか喉の調子が上がらないものだが、教官からはもっと声を出すよう発破をかけられる。

イアン・セシリア・ダリルが率先して声を大きくしたことで、心なしか皆の掛け声も大きくなった。

30分ほど走り続けた後は、基礎トレーニングが実施される。

徹底的に筋肉をいじめ抜く訓練は、日頃から鍛えている戦闘科の生徒でも終わる頃にはヘトヘトになる程だ。

ただ、筋肉至上主義のダリルは物足りなさそうな表情を浮かべていた。


午前七時。

朝の訓練が終わると、ようやく朝食だ。

しかし、休憩の時間というわけではない。

食事も訓練の内だということで、男女問わず山盛りの料理が提供される。

それをすべて食べ切れば、イアンでも腹がキツいくらいの量だ。

食の細い生徒が吐きそうになりながらも、無理矢理食べ物を口に運ぶ光景は毎度のことだ。

きっと彼らにとっては通常の訓練よりも辛いものだろう。

一方、セシリアはその細身な見た目にも関わらず、涼しい顔でペロリと平らげていた。


午前八時。

学年ごとに分かれて室内で座学が行われる。

講義の内容は軍法や戦術などであり、将来に軍務関係の仕事に就くなら必須の科目だ。

しかし、早朝訓練の疲労と極度の満腹状態により、船を漕いでしまう生徒もちらほらと見受けられた。

講義を担当する教官がチョークを投げ、抜群のコントロールで居眠りする者の額に命中させる。

三年生までの講義をほぼ寝て過ごしていたイアンはというと、意外にもしっかり起きて講義に臨んでいた。


午前十時。

格闘訓練において、イアンは五年生と組んで打ち込みをする。

しかし、相手はやる気がないのか緩慢な動きだった。

剣などの武器を主に扱う者にとって、格闘戦はあまり重要視するものではないらしい。

一部の生徒が真剣に訓練に取り組もうとする一方、大半はこの時間を息抜きと捉えているようだった。

さすがに訓練にならないと判断したイアンは途中で相手を変えることにして、教官の目を盗んでサボっていたジョナスを誘う。

ただ、ジョナスとの格闘戦で加減ができるわけがなく、あまりにも白熱しすぎたため、教官に中断させられた。


正午。

昼食の時間。

朝と同じく、大量の食事が用意されていた。

イアンは腹がはち切れそうになりながらも、何とか胃に詰め込む。

量は暴力的であるが、味がいいのが唯一の救いだろう。

食事の時間だというのに楽しむどころではなく、涙を流している生徒もいた。


午後一時。

再び座学の時間。

過去の戦争を実例に出した戦略の講義。

ある戦況において兵をどう動かすのが最適かを考え、複数の班に分かれて議論を重ねる。

定石に従って堅実に進めようとする者、奇策を打ち立てて状況の打開を図ろうとする者など様々な考えが飛び交う。

だが、前線で暴れる方が性に合っているイアンには少々つまらないものだった。


午後三時。

武器の使用ありでの訓練が行われる。

初めは各個人で素振りなどを行って身体を温めた後、一対一の模擬戦となり、イアンは六年生と組んだ。

さすがは六年生というべきか、動きは洗練されており、それなりの実力はあった。

しかし、イアンと比べれば力不足なのは否めず、何度も相手の剣を弾き飛ばす。

実力差があるは仕方のないことだが、恨めしげな目で睨みつけられてしまった。

一対一が終わると、今度は集団での模擬戦が行われる。

基本的に五対五であり、学年関係なく混成班が作られる。

イアンの班では防御力のある者が複数人を押しとどめ、数の優位を活かして攻めるという作戦を採用しようとした。

上手くはまることもあったが、相手が同じ戦法を使っていたり、盾役が早々に倒されたりと、数の優位を作れない場面の方が多い。

結局のところ、この日は個の力でゴリ押しという方法が最も勝率がよかった。


午後六時。

夕食も相変わらず、馬鹿げた量だ。

さらに揚げ物などの重たいメニューも加わり、完食をより困難なものとしていた。

疲れのせいで、スープに顔を突っ込んで寝てしまっている者もいる。

アガサが青い顔をして食べているのを見ていられず、イアンは少し消費を手伝ってやった。


午後七時。

夕食後は自由時間であるが、ジョナスを除いた四年生全員が修練場に集まり、自主訓練に取り組んでいた。

イアンは今日の相手であるノーマンと模擬戦をする。

やはりノーマンは盾の扱いが長けており、防御力はなかなかのものだ。

しかし、変則的な動きには弱いようで、剣に格闘を混ぜると簡単に崩せた。

ノーマン自身も自覚があったようで、本人の希望もあり、イアンはあえて弱点を突くことを徹底する。

模擬戦が20本を超えた頃には、ノーマンは少しばかり対応できるようになっていた。

ノーマンとの訓練を終えた後、イアンはセシリアに相手をするよう頼まれる。

セシリアは以前よりさらに槍術に磨きがかかり、現状まともに打ち合えるのはイアンしかいない。

そのため、全力で槍を振るうセシリアはどことなく楽しそうであった。


午後九時。

部屋に戻ると、デュークにシャワーを浴びるよう即命令される。

汗と泥で全身汚れていたのが気に入らなかったらしい。

シャワーを浴びた後、課題をさっさと終わらせて明日の準備をする。


午後十時。

デュークから就寝の声がかかり、ベッドに潜り込む。

灯りが消えた後、いつも通りデュークが剣を抱えたまま座って寝ていた。

それでちゃんと睡眠が取れているのかとイアンは疑問に思いつつ、疲労と睡魔により、あっという間に眠りに落ちた。

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