63.親睦会
新学期初日。
戦闘科のオリエンテーションが終わった後、イアンたち四年生は修練場に集められた。
今年の戦闘科の四年生は30名ほどで、見知った顔も多い。
ただ、講師や上級生の姿はなく、武具と防具を装備して来るようにとの指示があっただけで、これから何が始まるのかも分からない。
待つ間、イアンは隣にいたダリルと近況を話していた。
「…ところで、戦友。レイが見当たらないが、何か知っているか?」
「ああ。あいつは研究部門に行ったよ」
「何と!それはまた何故なのだ?」
「魔法について調べたいことがあるんだと」
「そうか。強い剣士が減るのは残念だが、本人が望んだことだ。受け入れるしかあるまいな」
イアンも正直言えば、レイと共に研鑽を積みたい気持ちはあった。
ただ、何やら事情を抱えた風な表情を浮かべるレイを前にして、引き止めることができなかったのだ。
その時のことを思い出して、イアンは眉間にしわを寄せた。
しばらく時間を潰していると、修練場に五・六年生がぞろぞろと現れる。
しかし、全員というわけではないようでデュークやカルヴィンはいなかった。
「やあやあ、待たせたね」
先頭で歩いてきた男子生徒が軽い調子で手を振る。
そして、イアンたちの前に五・六年生を整列させると、その男子生徒が前に出る。
「さて、新四年生諸君。戦闘科へようこそ。僕は戦闘科学生長のエリック・アディソンだ。よろしく頼むよ」
エリックは笑顔を見せるが、その目はまったく笑っていない。
後ろに控える先輩たちも四年生を見定めるような視線を送っていた。
「今日ここに集まってもらったのは、先輩・後輩の親睦を深める催しをしたいと思ってね。その名もずばり、“上級生に挑戦!腕試し対決!”」
エリックの宣言と同時に先輩たちから拍手が起こる。
突然のことに理解が追いつかない四年生を放って、エリックは説明を続ける。
「これから君たちには代表五名を選出してもらう。そして、五年生と一対一の模擬戦をして、白星が多い方が勝利だ。実に単純明快なルールだけど、何か質問はある?ないよね?それじゃあ、今から三分あげるから代表を選んで」
そう告げると、エリックは誰かが用意した椅子にゆったりと腰掛ける。
あまりにも乱暴な指示に、四年生たちは困惑するしかなかった。
「皆さん、集合して下さい」
ただ、セシリアがすぐに声を上げて場を締める。
四年生たちが集まって顔を突き合わせる。
「この状況どう思われますか?」
「うむ、これは我々への洗礼だろう」
ダリルが若干怒気のこもった声で答える。
「我々より一年多く経験を積み、力を付けた相手と戦わせるのだ。下級生に実力の差を見せつけようという魂胆が丸見えだ」
「わたくしも同じ考えですわ。しかし、逃げるわけにもいきません。誰か立候補は?」
その問いかけにイアンとダリルが迷いなく挙手した。
しかし、他の者は目を伏せ、セシリアはどうしたものかと額に手を当てる。
「…セシリア、お前が決めればいいだろ」
「わたくしがですか?」
「この学年の頭はお前だ。お前の決めたことなら誰も文句はない」
イアンの言葉にセシリアは意を決したように口を開く。
「アガサ、ノーマン、準備をして下さい」
「しょ、承知しました!」
「え、あ、はい!」
「わたくし・ダリル・アガサ・ノーマン・イアンの五名で挑みますわ。いいですね?」
力強いセシリアの声にイアンたちは大きく頷いた。
「おっと、もう決まったのか。さて、最初は誰かな?」
五年生の一人が剣を持って前に出る。
その先輩はニヤニヤとして、明らかに四年生を舐めた態度だった。
「ノーマン、先鋒は任せます」
「ぼ、僕ですか?」
ノーマンは恐る恐るセシリアに聞き返す。
「いつも通りの貴方ならば問題ありません。自信を持ちなさい」
「わ、分かりました」
ノーマンは剣と盾を手に取ってビクビクと歩き出すが、途中で躓いてコケそうになった。
その様子を見た上級生たちから笑い声が上がり、ノーマンは顔を赤くする。
「…なあ、あいつ大丈夫なのか?」
イアンはノーマンのことをよく知らなかったので、さすがに心配になる。
ただ、セシリアの表情に不安は一切なかった。
「彼はわたくしの訓練相手が務まるほどの実力を持っています。防御力に関していえば、レイと同等だといえますわ」
「それなら心配はいらないか」
イアンはノーマンに目を向けた。
「それじゃあ…始め」
エリックの合図で、先輩が一方的にノーマンに剣を振るい始めた。
ノーマンはその攻撃を盾で受け、重い音が何度も響く。
しかし、予想以上にノーマンの盾の熟練度が高く、上手く力を受け流していた。
「くそっ!何でだ!?」
調子に乗って攻めていたせいか、先輩に疲労の色が見え始め、次の攻撃が弾かれると大きく体勢を崩す。
「そこっ!」
セシリアの声に反応したのか、ノーマンは盾を前に突進する。
体当たりを受け、あっさりと尻餅をついた先輩にノーマンが剣を突きつける。
「…そこまで。ノーマン君の勝ち」
エリックはつまらなそうに宣言する。
「ま、待ってくれ。もう一度…」
「その無様な口を閉じてくれない?耳障りだ」
エリックの冷徹な視線に先輩は黙る他ない。
次鋒はアガサが出た。
相手は重量級の剣士であったが、アガサは剣の速さで終始圧倒する。
以前イアンと決闘した時は剣の才能などないように思えたが、あれから相当な鍛錬を積んだのだろう。
その成長ぶりにはイアンも感心せずにはいられなかった。
そして、三番手のダリルが一発K.O.を決め、四年生の勝利が確定すると先輩たちから困惑の声が挙がる。
「どうなってんだよ、今年の四年生は…」
「ありえねえ。なんでこんなに強いんだ?」
「下手すれば、六年生も…」
その言葉にエリックの眉がピクリと動く。
エリックは静かに立ち上がると、弱気な言葉を発した五年生を無言で殴り倒した。
それから、四年生たちに作り笑顔を向け、おもむろに拍手を始める。
「おめでとう。この対決は君たちの勝ちだ」
「いいのですか?まだ二人残っていますわよ?」
「これ以上続けても結果は見えているからね。時に負けを認めるのも必要なことだよ」
「殊勝な心がけですわね」
「褒め言葉と受け取っておこう。じゃあ、親睦会はこれでおしまい。解散していいよ」
エリックは歩きかけて、何かを思い出したのか足を止める。
「そうそう、そこの醜態をさらした三人。あとで僕の部屋に来なよ。いいね?」
五年生たちは死刑宣告を受けたかのように青褪める。
そうして、エリックは上級生たちを引き連れて、その場から去って行った。




