59.盛況な屋台
「いらっしゃいませ!お菓子はいかがですか?」
クレアが声を張り、笑顔で客を呼び込む。
イアンたちが出した屋台は大盛況で、朝から客が途絶えていない。
というのも、出店場所が王城に通じる大通りにあるだからだ。
人気店の多い地帯であり、周りの店の繁盛に上手い具合に便乗できている。
また、屋台の外観にこだわったことも一因として挙げられるだろう。
他の店を邪魔しない程度に目立つ意匠に仕上げたことで、客の関心を寄せていた。
さらに、価格を赤字寸前まで下げ、銅貨十枚もしない値段を設定した。
それによって、平民の子どもでも気軽にお菓子を買いに来ている。
それらの理由で屋台は大いに繁盛しているが、その立役者はリンダだ。
リンダはほぼ一人で、好立地を勝ち取り、屋台の作成を指揮し、仕入れ値をギリギリまで調整した。
そして今も、接客や金勘定、品出しに奔走している。
イアンもその手腕には感心せざるを得なかった。
「イアン、お店の方はどうですか?」
イアンが看板を持って集客していると、セシリアに声をかけられる。
「まあ、見ての通りだ」
「えらい繁盛しとるな。お店もええ感じやん」
「オルガも一緒か。ぜひ見ていってくれ」
「ほな、遠慮なく。セシリアも行こうや」
オルガはセシリアを連れて屋台を見に行く。
「いらっしゃいませ。あ、オルガさんとセシリアさん。来てくれたんですね」
「おん、何かオススメある?」
「クッキーもアメも美味しいですよ。そうだ、アメ細工はどうですか?好きな形を言ってくれれば、この場で作りますよ」
「へえ、オモロそうやん。じゃあ、アメ細工もらおうか。セシリアはどうする?」
「ええ、ぜひお願いするわ」
「ありがとうございます。ブルーノ君、二名ご案内です」
「では、こちらに…」
セシリアとオルガを見た瞬間、ブルーノは固まる。
美人を前に緊張してしまったようだ。
「あの、大丈夫ですか?」
「す、すみません。えっと、何を作りましょうか?」
「では、わたくしは花を」
「うちは鳥で頼むわ」
「分かりました。少々お待ち下さい」
ブルーノは先にアメが付いた棒を手に取ると、慣れた手つきで加工していく。
そして、ほんの数分でバラとクジャクを作り上げた。
「どうぞ…」
「これがアメ細工。まるで本物のようですね」
「ほんまやな。これがアメとはとても思えんわ」
アメを受け取った二人は目を輝かせる。
「これでいくらですか?」
「一人銅貨八枚だよ」
「そんな安いん?これなら、もっととってええんちゃう?」
「まあ、今回は利益を出すことを考えていないからね」
「そうですか。では、銅貨八枚お支払いしますわ」
「うちも。ほな、頑張ってな」
レイにお金を渡し、セシリアとオルガは去って行った。
昼過ぎになるとさらに人が増え、屋台も忙しさを増している。
ただ、今のところトラブルもなく営業できており、看板持ち兼用心棒のイアンは客の整理をしていた。
そのイアンの肩をダリルが叩く。
演習の班で精霊祭を回っているらしく、アガサ・ルシア・マイルズも一緒だった。
「戦友よ、店は随分賑わっているようだな」
「ああ、俺もここまでとは思わなかったよ。ところで、そのトロフィーは何なんだ?」
ダリルの腕は大きなトロフィーを抱えていた。
「聞いて驚くがいい。これは腕相撲大会で勝利した証なのだ」
「お前、優勝したのか?」
「その通り。去年の借りをきっちり返してきたぞ」
「すごかったんだよ。決勝戦の相手は去年と同じだったんだけど、ダリルが終始圧倒していてね。まさに完全勝利って感じだったんだ」
マイルズが興奮気味に捲し立てる。
去年もそうだったが、意外とこういうのが好きなのだろう。
「マイルズ、話はまた今度聞くよ。とりあえず、店を見ていってくれ」
「何を売っているのですか?」
「クッキーとアメだ。よかったら、アメ細工をしてもらうといい」
「アメ細工ですか?」
「まあ、見れば分かる。ブルーノ、四人頼めるか?」
「うん、大丈夫だよ。では、こちらで要望をお聞きします」
ブルーノに案内され、四人はアメ細工をしてもらう。
アガサは剣、ルシアは蝶、マイルズは犬を頼み、その出来に驚くとともに喜んでいた。
ただ、ダリルは上腕二頭筋という意味不明な要求を出した。
さすがのブルーノも対応に困っていたが、何とか頑張って形にし、ダリルを満足させていた。
「いい買い物ができた。では、また学園で会おう」
ダリルたちはにこやかな表情で支払いを済ませていった。
アメ細工はそこまで数が出ていないが、買っていく客からの評価は高い。
物珍しさもあるだろうが、細工を施すブルーノの技術によるものだろう。
腕を存分に振るえてブルーノも楽しそうであり、レイの采配は正解だったようだ。
夕方、クッキーやアメの在庫がなくなり、そろそろ店じまいとなった時だった。
突然、男の怒号が轟く。
「売れねえってどういうことだよ!?」
「すみません!もう売れる商品がないんです!」
「俺らみたいな人間に売るもんはないってか!?」
酒に酔った冒険者風の二人組の男にクレアが必死に頭を下げていた。
そこにレイが間に入り、クレアを庇う。
「待ってください。決して貴方たちに売りたくないわけじゃありません。在庫がないんです」
「知らねえよ!こっちはわざわざ買いに来てやったんだ!」
「貴族のガキだからって、調子に乗ってんじゃねえぞ!」
男たちの言い分は滅茶苦茶でレイの説得も意味をなさない。
そこでイアンは看板で二人の視界を遮る。
「お客さん、ないものはないんだ。諦めて帰ってくれ」
「あん?何だその態度は?やろうってのか?」
「俺たちは銀級だぞ?」
銀級と聞いて、イアンは大きくため息をついた。
「銀級冒険者にはろくな奴がいないのか…?」
「はあ!?お前、今何て言った!?」
「もう許さねえ!ぶっ殺してやる!」
頭に血が上った男がイアンに殴りかかった。
イアンはその腕を払うと、鳩尾に拳を叩き込み、男を気絶させる。
一撃で行動不能になった相方を前に、もう一人の男は唖然としていた。
「まだやるか?」
「きょ、今日のところはこれくらいにしてやる!」
男たちは大急ぎでその場から逃げ去っていった。
「助かったよ、イアン。でも、まさか殴りかかってくるなんて…もしイアンが貴族であったなら、間違いなく投獄される行為だよ」
「じゃあ、あいつらは運がよかったな」
「こちらは不運だったけどね。クレアは大丈夫?」
「平気だよ。お父さんが怒った時に比べれば全然だったから」
「へえ、普段のローウェル男爵からは想像できないな」
「ねえ、屋台は撤収させていいかしら?」
「そうだね。終わったら皆でお疲れ様会でもしようか」
「じゃあ、さっさと片付けるか」
些細なトラブルはあったものの、イアンたちは無事に精霊祭を終えたのであった。




