58.祭りの計画
「レイ君、イアン君。ちょっと相談したいことがあるんだけど、今いいかな?」
放課後、クレアがリンダを引き連れてイアンたちに声をかけた。
「うん、大丈夫だよ。どうしたんだい?」
「今度の精霊祭のことなんだけど、やりたいことがあって意見を聞きたいんだ」
「何をするつもりなのかな?」
「ほら、このクラスでいられるのもあと少しでしょ?だから、精霊祭の時に皆で何かできないかなって」
「ああ、確かにそれはいいかもね。イアンはどう思う?」
「俺もいいと思うが、何をするかは決まっているのか?」
「私たちでも可能なことといえば、屋台・演劇・歌くらいね。ただ、演劇や歌に関して言えば、舞台に立って披露できる水準に仕上げるには時間が足りないと思うわ」
「屋台ならできるのか?」
「そうね。簡単なものなら短期間でも準備はできるし、最悪既製品を売る手はあるわ。他の二つに比べればまだ現実的な案よ」
「なるほど。それじゃあ、屋台をするとして…」
レイはクレアに目を向ける。
「僕がまとめ役になるべきかな?」
「そうしてもらえると助かるけど、頼んでいいの?」
「もちろん構わないよ。反対意見が出たとしても僕ならどうにかまとめられると思うしね」
レイはその人格・家柄・能力により、三年の間にクラスメイトの信頼を十二分に得ていた。
それゆえに、今回の計画に関しても皆を納得させられる自信があるのだろう。
「とりあえず、明日の朝にでもクラスの皆に伝えようか。あ、先にギルバート先生に話を通しておいた方がいいかな?」
「それなら、私たちから先生に言っておくよ」
「じゃあ、二人にお願いするね。とりあえず、話をする前にもう少し具体的な内容を詰めておこうか」
「そうね。イアン、貴方も意見を出すのよ」
「俺は別に何でも…」
「ダメだよ。イアン君も参加するんだから、ちゃんと考えないと」
頬を膨らませたクレアに詰め寄られ、イアンは誤魔化すように頭を掻いた。
翌日、レイが教室の前に立ち、精霊祭の計画を発表した。
「…という訳で、精霊祭で屋台を出そうと思うんだけど、どうだろうか?」
すると、最前列に座っていたヘレナが手を挙げた。
「私は反対です。私たち貴族が物売りのような庶民の真似事をするなどありえません」
ヘレナは眉をひそめ、きっぱりと断言する。
数人がヘレナに賛同するように、うんうんと頷いていた。
ただ、レイには想定内の返答であり、落ち着いた口調で答える。
「確かに、ヘレナ嬢の言い分は理解できる。高貴な身の上で平民と同じように振舞うのが嫌だという人もいるだろう。でも、これは僕たちにとってとてもいい機会だと思うんだ」
「どういうことでしょう?」
「貴族は平民を導き、平民は貴族を支える。互いになくてはならない存在だ。でも、僕らは平民のことをどれほど知っているだろうか?」
レイの問いかけに、反対派の者たちは黙る。
「この中には将来、領地を治めることになる者もいるだろう。よい統治をするためには、そこで暮らす民を理解し、信頼関係を構築することが不可欠になる。今回屋台を出すことで、平民と交流し、彼らの生活の一端を知るきっかけとなるはずだ。これも貴族の務めの一環だと僕は思うよ」
「…分かりました。私も貴族として義務を果たしましょう」
「ありがとう。理解してくれて嬉しいよ」
レイに笑いかけられ、ヘレナは思わず頬を染めてしまう。
「と、ところで、平民というなら彼はどうなのです?」
ヘレナはイアンに視線を送る。
「まあ、イアンはいろいろな意味で規格外だからね。彼を参考にするのはやめておいた方がいいよ」
「おい、どういう意味だ?」
そのやり取りに笑い声が上がり、教室の雰囲気が和らぐ。
「さて、他に意見はないかな?」
「屋台で何を売るんですか?」
「とりあえず、今考えているのは菓子類だね」
「食事とかではダメなんですか?」
「正直、食事の提供は厳しいかな。プロの料理人には敵わないし、その場で調理する設備を揃えるのは難しいと思う」
「お菓子を作れる人はいるんですか?」
「クレアがクッキーを作れるんだ。味は僕が保証する。だから、クレアにお願いするよ」
「うん、任せて!頑張って作るね!」
クレアが元気よく返事をする。
「ただ、クッキーだけだと寂しいからアメも用意するつもりだ」
「あの、一ついいですか?」
ブルーノがおずおずと手を挙げた。
「アメを扱うなら、アメ細工をやってはどうかと…」
「アメ細工?」
「アメを加工して、花だったり蝶だったり、いろんな形を作るんです」
「確かに普通にアメ玉を売るより、お客さんの関心を寄せられそうだ。でも、そのアメ細工は誰が担当するの?」
「それは、僕が。四年生から彫刻科に進む予定なので」
「それなら大丈夫だね。そうだ、アメ細工は即興でもできるかな?」
「え、はい。それはできると思いますけど…」
「じゃあ、希望したお客さんにその場でアメ細工を作ってもらいたいんだ。その方が喜んでもらえそうだし、どうかな?」
「わ、分かりました」
ブルーノはこくこくと首を縦に振った。
「食材・資材とかの調達はどうするんですか?」
「その点についてはリンダに任せているよ。だよね、リンダ?」
「ええ、ヒマワリ商会に支援を依頼していますので、ご心配なく」
リンダが胸に手を当て、堂々と返答した。
「値段は仕入れ額が決まってからつけるとして、個人的には子どもでも買える値段にしたいんだ。イアン、平民の子どものお小遣いってどのくらいかな?」
「王都ではどうか知らないが、俺がガキの時は銅貨十枚もあれば大金だったな」
イアンの言葉に、驚きの声が上がる。
あまり裕福でない男爵家のクレアですら目を丸くしているのだから、貴族と平民の格差はかなりのものなのだろう。
「…これは、ちょっと予想外だったね。リンダ、どうにかならないかな?」
「私の方でも可能な限り安くできないか交渉してみますが、あまり期待はしない方がいいかと」
「そうか…仕方がない。最悪赤字になったら、僕が補填するよ」
「レイだけが背負うことじゃないだろ。俺も出す」
「でも、イアンも厳しいんじゃない?」
「馬鹿にすんな。それくらいは出せる」
「私も出すよ」
「それなら僕も」
「私も」
平民のイアンが費用を出すといった以上、貴族である自分たちが出さないわけにはいかない。
そう思ったのか、全員が費用を出すと言った。
「ありがとう、皆。いい屋台にできるよう頑張ろう」
レイが呼びかけると、自然に拍手が起こった。




