56.オルガ
うちはエレドナの森でエルフとして生まれた。
エルフは森を守り、森と共生する種族。
ヒト族みたいに森を切り開いて街を作ったり畑を耕したりは絶対にせえへん。
森の恵みに感謝して、ほんのちょこっとその一部をもろうて細々と生きとる。
そないに自然を大事に大事にするから、エルフは精霊様と話せるんや、って里のおばばが言っとったわ。
精霊様は物心ついた時から傍におって、うちにとって家族や友だちみたいな存在や。
五歳くらいになって気付いたけど、うちの周りにおる精霊様の数は他の人より何倍も多かった。
大人が言うには、うちは精霊様にめちゃめちゃ好かれてるらしい。
せやから、かなり早い段階で精霊様の力を借りられるようになったんや。
ただ、自分の力使うんと精霊様の力借りるんとではやっぱ全然ちゃうねん。
精霊様に力を借りるときの感覚は、普段穏やかな小川に濁流が流れるみたいなもんや。
特に魔法使う時はほんまにムズくて、失敗して地面に大穴開けたこともあったわ。
森ん中やと火の精霊様があんまりおらんかったから、大事にならんで済んだんやと思う。
そないな感じに精霊様に満ち溢れとる森で暮らせるんをエルフは何よりも重んじとった。
それを大人たちはエレドナの誇りや言うて、耳にタコができるほど聞かされたわ。
エルフにとって精霊様と自分が暮らす森以外はどうでもええから、滅多に森から出ていかんし、外の人間と関わることもないんやろな。
ただ、父様がエレドナの長やったもんで、うちは森の外を見る機会に恵まれてた。
外の世界は森とは全然違っとって、オモロイもんがようさんあった。
見上げるほど高い建物、滑らかに整えられた道、人工的に作られた河。
どれもこれもエレドナでは見れへんものばっかりで、うちは外に出かけるんが楽しみやった。
でも、王さんのパーティーに参加した時、めっちゃショックなことがあったんや。
初めて同い年くらいの子らに会うて、ちょっとテンションが上がってたんやと思う。
何も考えずに声かけたら、その子らにおもいっきし笑われた。
うちのしゃべり方が変や、ってな。
それから、うちは森の外に行けんようになった。
もちろん未練がないわけやなかったけど、外の人間に会うのが怖くなったんや。
森に引きこもるようなってから、魔法や弓の鍛錬にほとんどの時間を使うた。
そしたら、いつの間にかエレドナでも指折りの実力者になっとって周りにビックリされたわ。
充実した毎日やったし、このまま一生エレドナから出て行かんでええとさえ思っとったよ。
ただ、長の娘である以上そうはいかんかった。
11歳を過ぎた頃、王立学園に行かなあかんって親父に言われたんや。
ほんまは行きたなかったんやけど、エレドナを守るためと言われてもうたら断れへんわ。
エレドナから学園に出発する日、うちの世話役になったセシリアに初めて会うた。
お貴族様やてゆうから、また馬鹿にされるんも嫌やったし、うちは黙りこくっとった。
でも、旅の道中、あれこれと気を遣うてくれたり、退屈せんように色んな話をしてくれたり、セシリアはめっちゃええ子やった。
この子やったら大丈夫やないか思うて、学園に着く前の日に声かけてみたんや。
そしたら、セシリアはちょっと驚いた顔したんやけど、嬉しそうに笑ったんや。
うちと話せてよかった、ってな。
学園に入ってからは、セシリアとだけはしゃべることにしたけど、それ以外は一切声も出さんようにした。
しゃべらんでも、首振っとけばコミュニケーションは取れたし、特に困ったことはなかったわ。
なんやかんや学園での日々が過ぎて冬休みが明けた後、セシリアから野外演習に誘われた。
どうもうちの弓の腕を買うたらしくて、素直に嬉しかったわ。
それから、班の仲間として紹介されたんがレイとイアンやった。
レイは侯爵家の優男、イアンは平民の無骨者。
正反対の二人やったけど、どっちもセシリアから信頼されとるようやった。
ただ、イアンを見たとき、自分の目を信じられんかった。
なんせイアンの周りに精霊様がまったくおらんかったんや。
精霊様に嫌われるてのは相当なことで、前世によっぽどの業を積まんとそうはならん。
セシリアもレイも分かっとらんかったけど、うちは警戒せずにはおれんかったわ。
せやから、イアンとは二人きりにならんようにしてたんやけど…
演習でうちがヘマして河に落ちた時のことや。
それがきっかけで、イアンと二人になってもうた。
助けてくれたイアンには悪いけど、正直怖かったわ。
まあ、ちょっとやり取りしたら、割と優しい奴やって分かったけどな。
ただ、イアンからしゃべれ言われた時は、めっちゃ悩んだ。
笑われるかもしれんし、笑われんくても微妙な態度取られるかもしれんし…
でも、連携に必要やっちゅうイアンの言い分も理解できたし、思い切って声出してみたんや。
イアンの言葉はあんま信じとらんかったから、少し意地悪な質問もした。
そんでも、イアンは何も変わらんかった。
むしろ、うちに大切なことを思い出させてくれた。
うちのこの言葉はエレドナの民である証なんやと。
昔はエレドナの誇りって言われてもよう分からんかったけど、そん時になってようやく理解できた。
うちはこのしゃべり方を恥ずかし思うんをやめた。
誰に何と言われようと、うちのこの言葉でしゃべったるって決めたんや。
にしても、イアンっていったい何なんやろうな。
戦闘能力が高いんは認める。
剣も魔法もかなりの腕前で、判断も早い。
ただ、魔法の使い方もちょっと変わっとるし、上位モンスター相手でも平気な顔して突っ込んでく。
何か危なっかしくて、いつ死ぬか思うと目が離せへん。
それに身体機能も異常やと思う。
めっちゃ頑丈で、ほとんど怪我もせん。
傷ついてもありえん速さで治るし、しかも回復魔法を使っとらんって言っとった。
去年のミノタウロス戦でも一人無傷やったし、ほんまは人間じゃないって言われても納得できるレベルやで。
ほんで、一番よう分からんのが価値観やな。
もちろん生まれ育ちの違いはあるかもしれん。
そんでも周りの人間と比べて、根本的に何かがちゃうねん。
上手く言えんけど、一人だけ別次元にいるような感じがするわ。
でも、同い年の女の下着姿見て、素肌触れて、何も反応せんってどういうことや?
そら、うちの身体はまだまだ子どもみたいなもんやで。
そんでも、ちょっとくらい顔赤らめるくらいしていいやろ。
考えたら、なんかムカついてきたわ。
これはイアンの驚いて慌てふためく顔でも見んと気がすまん。
覚悟しとき。
絶対ナイスバディのお姉さんになったるからな。




