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54.サバイバル②

オルガが目を覚ますと、パチパチと音を立てて燃える焚き火が視界に入る。

何かに寄りかかって眠っていたようで、オルガの背に若干ゴツゴツするが温かい感触があった。

「起きたか」

オルガの頭上から声がする。

見上げると、そこにはイアンの顔があった。

イアンの膝の上に座っていることを理解した瞬間、オルガは慌てて飛び退く。

そして、イアンのパンツ一丁の姿に驚くと同時に、自分自身もまた下着姿であることに気付いてしまった。

「~~!?」

オルガは身体を隠すようにしゃがみ込み、顔を真っ赤にしてイアンを睨みつける。

「勝手に服を脱がせたのは悪かった。濡れたままだと身体が冷えると思ったんだよ。服は干してあるが、まだ乾いてないぞ」

傍にあった木の枝に掛けられていた二着の訓練着からは雫がポタポタと垂れていた。

小さい方の服は肩口が裂け、血が滲んでいる。

それを見たオルガはフォレストウルフに襲われ、河に落ちたことを思い出した。

「痛みはないか?一応止血はしたが、完治はできていない。俺は回復魔法が苦手なんだ」

オルガが肩を動かしてみると痛みを感じたので、自分で回復魔法を使って完治させた。

すると、冷たい風が吹き、二人はくしゃみをする。

「冷えてきたな。緊急事態だ。人肌で温め合うぞ」

イアンの言葉にオルガは眉間にしわを寄せた。

さすがに同年代の男と身体を密着させるのは憚られるからだ。

しかし、冬の冷えた空気はオルガの身体を震わせた。

「ほら、意地張ってないで来い。この森の中で動けなくなったら死ぬぞ」

オルガは少し迷った後、ためらいつつも胡座をかいたイアンの上に座った。

イアンの体温は高く、寒さも和らいだが、オルガの羞恥心が消えるわけではない。

一方、下着姿の女子を膝に乗せているにもかかわらず、イアンの鼓動にはまったく変化がなかった。

それはそれでオルガとしては微妙な気分になる。

気を紛らわそうと、オルガは傍にあった枝を拾い、筆談を始めた。

『ここはどこ?』

「かなり流されたからな。たぶん森の端の方だ」

『これからどうする?』

「一旦森の外に出てもいいが…中継地点を目指そうと思う。レイとセシリアがそこで待ってるはずだ」

『二人だと危険じゃない?』

「危険は承知の上だ。ただ、一つ言いたいことがある」

イアンは少し間を置いて続けた。

「お前いい加減しゃべれ。このままだと連携に支障が出る」

イアンのやや苛ついた声に、オルガは肩を震わせた。

「セシリアとは普通に会話できているし、身体的な問題で他人と話さないわけじゃないだろ?何か理由があるのか?」

イアンに問いかけられ、オルガは手を止める。

しばらく考え込んだ後、再び枝を動かした。

『私がしゃべっても笑わない?』

「笑う?どうしてだ?」

『しゃべり方が変だから』

「俺が他人を馬鹿にして笑う奴に見えるか?」

イアンの力強い返しに、オルガはそれを信じることにした。

「あ、あ…」

オルガが口を開くが、出てくる声は掠れていた。

「あかん。しゃべらな過ぎてめっちゃ声出し辛いわ」

独り言を呟き、オルガはイアンを見上げた。

「うち、こんなしゃべり方やねん。他と比べたら、おかしいやろ?」

「いや、別におかしいとは思わないな」

「ほんまにそう思っとる?」

「俺の故郷でも人それぞれに話し方の癖はあったし、エレドナ自治区だとそれが当たり前なんだろ?その話し方は、そこで生まれ育った証拠じゃないか?」

イアンの言葉にオルガは目から鱗が落ちた。

「…そないなこと初めて言われたわ。せやんな、このしゃべり方はうちがエレドナで過ごした証やん。恥ずかしい思うて声出さんようにしとった自分がアホみたいや」

「何かきっかけがあったのか?」

「たぶん小さい頃に外の人間に変やって言われたからやと思う。セシリアだけはちゃうかったけどな」

オルガは嫌なことを思い出したのか、眉をひそめる。

ただ、すぐに普段の表情に戻った。

「まあええわ。これからはちゃんとしゃべるようにするわ。ところで…あんたはこんなかわええ女を膝に乗せとって何も思わへんのか?」

「何の話だ?」

「ほら、もうちょいドキドキするとかあるやろ」

「そう言われても、故郷にいた近所のガキと大して変わらないからな」

「はあ?うちが子ども体型やって言いたいんか?」

「まあ、そういうことだ」

「うっわ、腹立つ!30年、いや20年後にはナイスバディなお姉さんになっとるからな!」

「かなり先の話だな」

「しゃあないやろ!エルフは長生きの代わりに成長が遅いねん!」

オルガは頬を膨らませ、イアンの膝の上で暴れ始める。

イアンは小さくため息をつくと、オルガの肩を掴んで落ち着かせた。

「とりあえず、お前はもう寝ろ」

「あんたはどないすんの?」

「俺は見張りだ」

「そんならうちも…」

「怪我もして疲れてるだろ。俺のことはいいから休め」

「…ほな、お言葉に甘えさせてもらうで」

オルガはイアンに身体を預け、目を閉じた。




夜が明けると訓練着はすっかり渇いており、二人は服を着て支度を調える。

「で、これからどないすんの?」

「まずは現在地の確認だな」

「確認言うても、地図も何もないで?」

「ああ、だから空から見る」

イアンは天を指差した。

「空って…」

オルガが怪訝な顔をするが、イアンは構わず魔法を発動する。

そして、ふわりと空中に飛び上がった。

その様子にオルガはあんぐりと口を開けた。

イアンは上空に達すると、周囲を見渡す。

予想通り、現在地が森の端であることを確認してイアンは地面に下りる。

「行き先は分かった。とりあえず、河沿いに…」

「ちょ、ちょお待ってや!今、空飛んだん!?何したんや!?」

「何って、今のは風魔法だぞ」

「風魔法やって!?そないな使い方聞いたことないで!?」

「俺が考えたわけじゃないけどな」

「いやいやいや、魔法は足止めな使えへんっていう常識はどこいったんや?」

「現にこうして魔法が使えたんだ。その常識が間違ってるんじゃないか?」

イアンの逆質問に、オルガは理解できないという風に頭を抱えていた。

そして、しばらくするとどこか諦めたような表情を浮かべた。

「もうええ。これは理解しようとするだけ無駄やわ。で、どっち行くん?」

「この河の上流に向かって進めば、中継地点に行けるはずだ」

「了解や。前衛は頼むで。弓も矢も落としてもうたから、うちは魔法しか使えんからな」

「魔法が使えるなら十分だろ。まあ、戦闘は避けるに越したことはないが」

「その意見にはうちも賛成や」

そう言葉を交わして、イアンとオルガは森の中心へと歩き出した。

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