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53.サバイバル①

「今回の課題は、セドラの大森林の縦断だ!ここを出発地点とし、南から北に抜けてもらう!課題達成の条件として、森の中心付近に設けた中継地点に立ち寄ることが必要となる!」

ギルバートが声を轟かせ、演習の説明を行う。

三年目となる野外演習において、もはやおなじみの光景である。

「各班に一名、荷運び役を付ける!彼らは非戦闘員であり、護衛対象だ!必ず守り抜け!」

「森には横断するように河が流れている!だが、橋や船の用意はない!自力で渡る方法を考えろ!」

「上位モンスターと遭遇する可能性は極めて高い!戦闘か撤退かの判断を誤るなよ!」

注意点が次々と挙げられていくが、これまでの演習と比較して明らかに数が多い。

それはセドラの大森林がこれまでの演習地よりも危険であることを物語っていた。

「最後に、お前たちはこれが最後の野外演習となる!これまで積み上げてきた経験・力・技術、すべてを余すところなく発揮しろ!必ず生きて帰って来い!以上、解散!」

ギルバートの説明が終わり、生徒たちはそれぞれに動き出す。

今回は班ごとに時間をずらしての出発となっていた。

イアンたち14班は二時間後の出発なので、まだ時間には余裕がある。

ただ、生真面目なセシリアに主導され、早めの準備が進められていた。

「おいおい、気が早いな。まだ時間はあるんだ。そんなに急ぐことないだろ」

今回の新たに監督者となった銀級冒険者、テッドがへらへらと話しかけてくる。

「事前準備は大切なことだと思いますが?」

「事前準備なんて必要ねえよ。この銀級に最速で昇格したテッド様がいれば大概のことは何とかなるからな」

テッドは自分を指して鼻を高くするが、14班の面子からの視線は冷ややかだ。

ダンという凄腕の冒険者を間近で見てきたイアンたちからすれば、テッドが数段劣っていることは明白なのだ。

しかし、テッドは最速での銀級昇格という肩書きのせいで自分の力を過信しており、本人はそれに気付いていない。

調子に乗ったテッドの様子に、イアンたちの間で不安が募る。

「あ、あの…荷物はこれで全部ですか?」

荷運び役のトムがおどおどと声をかけてきた。

「はい、そうです。よろしくお願いしますわ」

「は、はい、分かりました…」

トムは体格の大きさの割に、その性格はかなり気弱だ。

テッドとトムを足して二で割ったら丁度いいのかもしれないとイアンは思う。

テッドを放っておいて、イアンたちはトムを加えて打合せを行うのだった。




出発の時間となり、14班は大森林へと足を踏み入れる。

「よし!俺についてこい!」

あらかじめルートは決めていたのだが、テッドは先頭に立って歩き出してしまう。

「待って下さい!そちらの方向では…!」

「このテッド様がいれば、何も心配いらねえよ!俺に任せろ!」

セシリアの制止に耳を貸さず、テッドは自分勝手に行動する。

「ひぃっ…」

セシリアの今にも人を殺しそうな表情に、トムが小さく悲鳴を上げた。

「セシリア、少し落ち着け」

「これで落ち着いてられますか!?何なんですか、あの自己中心男は!?本当に銀級冒険者なのですか!?」

相当鬱憤がたまっていたのか、セシリアはイアンに食ってかかる。

「銀級であることは確認しただろ?ダンが特別なだけで、冒険者なんてあんなもんじゃないか?」

「しかし、このままでは演習がめちゃくちゃにされてしまいますわ!今すぐ戻って抗議を…!」

「抗議したところで、これも課題の一環だと言われるだろうな。あれでも銀級程度の実力はあるんだ。戦力にはなるだろ」

イアンの説得にセシリアは黙り込むが、まだ納得できていない様子だった。

「うおおおっ!!」

全力疾走で引き返してきたテッドが声を上げて、イアンたちの間を駆け抜けていく。

テッドが走ってきた先に目を向けると、大量の蜂型のモンスターが飛んできていた。

「走れ!」

イアンの号令で一斉に走り出す。

「何ですか、あれは!?」

「アーミーホーネットだよ!集団で獲物に襲いかかって、オークなんかも軽く狩るんだ!でも、巣を刺激しない限りは襲ってこないはずなんだけど!」

「まさか…あいつ、巣をつつきやがったな!」

イアンは前を走るテッドを睨みつける。

今すぐ殴ってやりたい気持ちだったが、うるさいほどの羽音が背後から迫る状況でそんなことはしていられない。

「セシリア、一秒でいい!足止めを頼む!」

「了解しましたわ!」

セシリアは反転すると、一瞬で十体以上のアーミーホーネットを叩き落とす。

一秒後、イアンはファイアウォールを展開した。

炎の壁に阻まれ、アーミーホーネットの追撃は止まる。

そのまま逃げ切り、なんとかその場を凌いだ。




その後、演習中にテッドは何度もトラブルを起こした。

モンスターを刺激して暴れさせたり、モンスターが仕掛けた罠にかかったり、勝手に進んで道に迷ったり…

そして今、テッドの愚行のせいでイアンたちは窮地に陥っていた。

前にはフォレストウルフの群れ、後ろには切り立った崖。

緊迫した状況にイアンの頬に冷や汗が流れる。

フォレストウルフは仲間意識が強く、一頭でも仲間を殺されれば、凶暴化して群れで襲いかかってくる。

そのため、フォレストウルフに手を出すなというのが暗黙のルールとなっていた。

だが、テッドはその禁忌を犯し、その子どもを斬り殺したのだ。

フォレストウルフは当然のごとく怒り狂い、牙を剥いた。

しかし、その矛先をイアンたちになすりつけると、テッドはさっさと自分だけ姿を隠した。

その結果、フォレストウルフの標的となったイアンたちは崖の際まで追い詰められてしまう。

「防御陣形!トムさんを後ろに!しかし、下がり過ぎてはいけません!」

後衛のオルガと非戦闘員のトムを囲むように、イアン・セシリア・レイが布陣する。

イアンたちは次々と飛びかかってくるフォレストウルフを斬って、撃って、倒した。

しかし、百体を超える数に、ついには防御網を破られ、後衛のオルガにまでその爪が届いてしまう。

そして、オルガは押し倒された勢いのまま崖下に転がり落ちた。

「イアン!オルガ嬢が落ちた!」

「この下は河のはずだ!落ちても何とかなる!」

「ダメです!オルガさんは泳げませんわ!」

「…!?」

イアンは目の前のフォレストウルフを蹴り飛ばすと、アースウェーブを発動した。

巻き上げられた土はフォレストウルフを飲み込む。

「俺が行く!お前らは今のうちに離脱しろ!あとで必ず合流する!」

イアンはそう叫んで、崖を駆け下り、河に飛び込んだ。

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