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47.自称天才

夏季休暇が終わり、イアンたちは三年生へと進級した。

選択科目が講義の大半を占めるようになり、イアンがレイと講義を共にする機会は減った。

ただ、この二年で顔見知りが増えたことで、ほとんどの講義でイアンが一人になることはない。

昼前の講義はマイルズとルシアも受講しており、自然と講義後には三人で昼食を取るようになっていた。

「そういえば、さっきの講義で集団戦闘においては範囲魔法での面制圧が基本だという話だったけど、イアンはどう思う?」

唐突なマイルズの問いにイアンは食事の手を止め、しばらく考え込む。

「条件さえ整えれば有効だろうな」

「条件って?」

「一つ、正面戦闘であること。二つ、魔法に精通した指揮官がいること。三つ、敵の魔導師の質が劣っていること。思い付くのは、このくらいだな」

イアンが条件を挙げるが、マイルズとルシアはあまり理解できていないようだった。

「…なぜその条件を必要とするのかがよく分からないのですが、説明していただけますか?」

「ああ、いいぞ。まず、範囲魔法の利点は一発撃てば数を減らせること。ただし、広範囲に展開する分、魔力は消費するし、威力も分散する。これは知ってるよな?」

「ええ、講義でも習いましたから」

「じゃあ、範囲魔法を効果的に使える状況は?」

「えっと…攻撃範囲内に多くの敵がいることでしょうか?」

「正解だ。兵がある程度密集する正面戦闘はまさにその状況に合う。逆に、ゲリラ戦のような敵が散らばる場合では、無駄に魔力を消費する割に得られる成果が小さいだろう」

イアンは例えとして、皿にのった豆をばらけさせて一粒フォークで刺した。

「二つ目の魔法に精通した指揮官っていうのは?」

「集団戦だと魔導師が複数人いることが想定される。だが、それぞれがバラバラに魔法を放ったところで、効果範囲が重なったり、味方同士で相殺したりして十分な効果は出ない」

「言われてみれば、身に覚えがあるよ。二年生の野外演習で、ルシアと同じ目標に魔法を撃って、それが火魔法と水魔法だったから相殺されたんだっけ」

「ああ、そんなこともありましたね…」

あまりよい記憶でないのか、二人は微妙な表情を浮かべていた。

「効果を最大化するためには、誰が・どこに・何の魔法を放つかを指示する人間が必要となる。さらに、その人間が魔法に通じていれば、より適切な指揮が執れるはずだ」

そう言いつつ、イアンはレイの顔を思い浮かべた。

「敵の魔導師の質を条件に入れた理由は?」

「手練れの魔導師なら魔法攻撃に対抗する手段を備えている。魔法を放ったところで、大して攻撃が通らず戦況はジリ貧だ。そうなれば、面制圧は諦めて、先に魔導師を叩く作戦に切り替えた方がいい」

「なるほど、理解しました」

「僕も。でも、こんなこと考え付くなんて、イアンってかなり頭いいよね」

「確かに、他に類を見ない聡明さだと思います」

「お前ら、俺の評価高くないか?」

二人の褒め言葉にイアンは呆れ声で返すのだった。




食事を終えた後もしばらく談笑していると、唐突に食堂の入口の方から歓声が響く。

目を向けると、イケメンがキラキラとした笑顔を振りまきながらこちらに歩いてきていた。

そして、イアンたちの机の前で足を止める。

「探したよ、ルシア・ワイエス」

そのイケメンは髪をかき上げて、決め顔をつくる。

周りの女子からは黄色い声が上がるが、ルシアは苦虫を噛み潰したような表情をしていた。

「知り合いか?」

「はい。彼はベンジャミン・マクラウド様。マクラウド伯爵家の次男です」

「名前を覚えていてくれて嬉しいね。しかし…」

ベンジャミンはイアンとマイルズに視線を送り、ため息をつく。

「彼らのような有象無象と共にいるとは残念だよ。美しい君は僕のような神に愛された人間の傍にいるのが相応しいと思わないか?」

そのナルシストぶりにイアンは呆気にとられる一方で、ルシアが冷静に返答する。

「思いません。イアンとマイルズは私の友人です。それに、イアンは私の師匠でもあります」

「何だって?」

ベンジャミンは眉をひそめ、イアンを睨みつける。

「弟子にした覚えはないぞ?」

「私が勝手に弟子を名乗っています」

「僕もそうだよ」

「お前ら…」

二人の得意げな表情にイアンは額に手を当てた。

「この“狂犬”が師匠だなんて僕は認めない。天才魔導師たる僕の方が彼よりも優れているに決まっている」

「いえ、間違いなくイアンの方が実力は上です」

そう言い切ったルシアに、ベンジャミンは口元をひくつかせる。

「いいだろう。信じられないというのならば、僕の魔法を見せてやる。さあ、演習場に来るんだ」

「分かった、行こう」

イアンが即了承したことに、傍にいた二人は驚きを隠せなかった。

「あの、なぜ…」

「まあ、ただの興味本位だ」

困惑するルシアをよそに、イアンは席を立った。




演習場に来ると、イアンとベンジャミンは相対した。

その様子をルシアとマイルズが離れた位置から見守る。

「それじゃ、見せてくれ」

「貴様に命令される謂われはない。しかし、刮目するといい。この僕の力を!」

ベンジャミンは魔力を練り上げると、天に手をかざす。

その数秒後、空を埋め尽くすほどの火球が降ってきた。

「バーニングレイン!?上級火魔法でも最高位の範囲魔法だよ!?」

「口だけの奴じゃなかったみたいだな。だが、ちゃんと考えて撃ったのか?」

イアンの目測では、その攻撃範囲はマイルズとルシアのいる場所まで及んでいるだろう。

「マイルズ、ルシア。俺の近くに」

イアンがマイルズとルシアを引き寄せる。

ただ、迫り来る大量の火球に二人は頭を抱えずにはいられなかった。

「どうだ!?僕の力を理解したか!?」

火球の雨が降り注ぐ光景に、勝利を確信したベンジャミンは高笑いする。

しかし、魔法が終わり視界が晴れると、ベンジャミンはその目を疑った。

相当な数の火球が落ちたというのに、地面に着弾した跡は一つもない。

代わりにイアンの頭上には分厚い水膜が広がっていた。

「まさか…その水膜で僕の魔法を相殺したというのか?」

「まあな。お前ら、大丈夫か?」

イアンは腰にしがみついたルシアとマイルズに声をかけた。

「ごめん、腰が抜けた」

「私もです。なぜそんな平然とした顔をしていられるのですか?」

ルシアは信じられないものを見る目をイアンに向ける。

すると、ベンジャミンが顔を真っ赤にして震え始め、イアンを指差す。

「こ、今回は僕の負けだ!だが、僕がこれで諦めると思うなよ!」

ベンジャミンは捨て台詞を残し、走り去っていった。

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