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46.バカンスと訓練

「わぁー!海だー!」

クレアが眼前に広がる海に目を輝かせる。

「ねえ、海くらいではしゃぎすぎじゃない?」

「だって私、初めて海に来たんだよ?はしゃがずにはいられないよ!」

リンダが呆れた目を向けるも、クレアの興奮は収まる様子はない。

「青く澄んだ海と白く輝く砂浜。確かにこの美しい景色には心躍りますわ」

セシリアの声にオルガも同意するように頷く。

「セシリア様、日傘の用意ができました。お肌が日焼けしてしまう前にどうぞお入りください」

日傘を砂浜に立てたアガサが恭しく頭を下げた。

「ありがとうございます。しかし、ルシアさんに日焼け防止の塗り薬をもらったので心配はいりませんわ。ねえ、ルシアさん?」

「はい、この塗り薬は王都でも人気で美肌効果もあるんです。アガサさんもいかがですか?」

「そ、そうか。ならば、いただこう」

ルシアはアガサにも塗り薬を差し出す。

優雅な雰囲気を醸し出す三人に向けてクレアが羨ましげな視線を送る。

「皆、水着になったらスタイルのよさが際立つよね。セシリアさんは身体のメリハリがあってバランスがいいし、アガサさんも背が高くて手足がスラッとしてるし、ルシアさんも胸とかお尻とか豊満でいいな~」

「こら。そう他人の身体をマジマジと見ないの」

クレアの頭部にリンダが軽くチョップする。

「あいたっ。だって、私は背も高くないし、胸もそんなに大きくないから…」

「それ、まったくない私への嫌味?」

まな板のリンダがクレアにジト目を向ける。

さらに、完全な幼女体型のオルガも不満たっぷりの表情を浮かべていた。

失言したクレアは冷や汗を流しつつ、話題を逸らそうと口を開く。

「と、ところで、男の子たちはどこ行ったんだろうね?招待してくれたダリル君にもお礼を言わないといけないし」

「彼らなら、あっちの方にいるわ」

リンダが指差した先には上半身裸の男たちが百人以上整列していた。




「傾注!これよりウォーレン侯爵家主催の合同訓練を始める!」

ウォーレン侯爵家自衛私軍大将が声を上げる。

そこには侯爵家以外に、オルグレン伯爵家やその他ウォーレン侯爵家傘下の貴族の自衛私軍および守備隊が訓練に参加していた。

「始めにウォーレン侯爵家ご子息であるダリル様よりお言葉だ!」

ダリルは前に立つと大きく息を吸い込む。

「皆、よく集まってくれた!この合同訓練の目的は自衛私軍・守備隊の戦力の底上げだ!我々が強くなれば、それだけ多くの民を守ることができる!全力で鍛錬に励んでくれ!」

「「はっ!」」

「そして、今日は僕と我が友人たちも訓練に参加する!」

ダリルが指し示した先には、イアン・レイ・マイルズとその他ダリルの友人が数人並んでいた。

「だが、加減は無用だ!皆と同じ訓練を課してくれ!僕からは以上だ!大将、後は頼むぞ」

「承知しました。では、各人距離を開け!腕立て伏せ用意!」

「「はっ!」」

イアンたちや兵たちは腕立て伏せの体勢を取った。

「一!二!…」

大将の掛け声と共に腕立て伏せが始まる。

普段から身体を鍛えているイアンやレイは問題なくこなしていたが、魔導師のマイルズにはきつかったのか、20回を過ぎて早々に動きが止まってしまう。

「次!上体起こし用意!一!…」

腕立て伏せは200を数えた所で終わりとなったが、休む間もなくすぐに次のトレーニングが始まる。

マイルズは絶望した表情を浮かべつつ、何とか訓練に食らい付いていこうと頑張っていた。

「…そこまで!休め!」

二時間ほどのトレーニングの後、休憩となった。

さすがのイアンも堪えたようで、全身の筋肉が若干痙攣していた。

マイルズはというと立ち上がることもできない。

「大丈夫かい?水分を摂った方がいいよ」

「…話が違う」

「え?」

「話が違うよ!僕らはバカンスに来たんじゃなかったの!?」

マイルズは喚きながら、砂浜を叩く。

「ダリルは領地に招待するとは言ったが、バカンスとは聞いてないぞ」

「いやでも、普通はバカンスだと思わない!?こんなキツい訓練に参加させられるなんて分かりっこないよ!それに僕は魔導師だ!兵隊と同じ訓練したって意味なくない!?」

「そんなことはないぞ」

いつの間にか傍に来ていたダリルが口を挟む。

「ウォーレン家の自衛私軍にも魔導師はいる。近接戦ができる魔導師は重宝されるぞ。ちなみに、今日の訓練にも何人か参加している」

ダリルが指差した先にはムキムキの男がいた。

一見しただけでは魔導師とは分からないだろう。

「…じゃあ、なんで女の子たちは遊んでるんだよ!?」

マイルズの視線の先には、パラソルの陰で休むオルガ以外の女子たちが水遊びをする姿があった。

「彼女たちに関しては、あちらから侯爵領に遊びに来たいとの申し出があったからだ。だが、君たちについては、訓練に参加してもらうために僕が招待した」

「そんな…僕もあっちに混ざりたかった…!」

マイルズは歯ぎしりをして、血涙を流していた。

「ダリルさん、そんな奴放っておこう」

ダリルの友人のリック・レストンがマイルズに冷たい視線を向ける。

「そこの心も身体も軟弱な奴がいたら訓練の邪魔になる」

「おい、言い過ぎだ。マイルズはお前が言うほど柔な奴じゃない」

「僕にはそうは思えないな。ほら、もう逃げ出すんじゃないか?」

「あ?お前にマイルズの何が分かる?」

イアンとリックが睨み合い、一触即発の空気となる。

だが、ダリルが二人の肩に手を置いて引き離した。

「二人ともそこまでだ。リック、他人を貶める言葉は口に出すものじゃない。イアン、友を想う気持ちは分かるが冷静になれ」

ダリルは二人を落ち着かせると、マイルズに向かって口を開く。

「詳細を話していなかった僕にも非がある。これ以上無理に訓練に参加しなくてもいい。だが、友として君には強くなってもらいたいと思っている。どうだろうか?」

ダリルの問いかけにマイルズは悩んだ末に口を開いた。

「…分かったよ。もうちょっと頑張るよ」

「おお、さすが我が友だ!」

ダリルは歯を見せて笑い、マイルズの背中をバシバシと叩く。

「休憩終わり!次は遠泳訓練だ!先に見える小島を回り、ここまで戻って来い!始め!」

合図と同時に一斉に兵士たちが海に飛び込んでいく。

だが、続いて海に向かおうとしたイアンは足を止めた。

というのも、イアンは泳いだ経験がなかったのだ。

そのため、泳ぎ方がまったく分からず、その日はダリルに教わることになる。

しかし、翌日には余裕で遠泳訓練をこなし、周囲を驚かせるのだった。

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