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41.腕相撲

春の訪れと共に、今年も精霊祭が催されていた。

相変わらず通りは人で溢れ、賑やかな声が響いている。

「む、これは美味いな」

「ほんとだ。ここの屋台にこんなものがあるなんて知らなかったな」

ダリルとマイルズが一口揚げ鶏に舌鼓を打つ。

「僕らも去年教えてもらったんだよ。ねえ、イアン?」

「おう。クレアには感謝だな」

そう言いつつ、イアンも揚げ鶏を口に放り込む。

今日は男四人で、精霊祭を楽しんでいた。

ただ、楽しむといっても、男ばかりのため屋台巡りが主ではある。

出会った頃は緊張しがちだったマイルズも、今ではレイやダリルと気軽に口がきけるようになっており、いい雰囲気だ。

ちなみに、クレアはセシリアたちと女子会らしい。

「坊主ども、いい食いっぷりだな。腹減ってるなら、他の屋台にも回ってやってくれよ」

揚げ鶏の屋台の店主がイアンたちに声をかける。

「はい、もちろんそのつもりです。成長期の食欲を舐めないでくださいよ」

「ははは、言ってくれる。それにしても、連れの兄ちゃんはすげえ筋肉だな」

「自慢の筋肉らしいですよ」

「筋肉の話か?」

ダリルが話に割って入る。

「ああ、お前の筋肉が褒められてるぞ」

「おお、店主。この筋肉美が分かるというのか?」

さすがに公共の場なので上着は脱がなかったが、ダリルはいつものようにポーズを取る。

「もしあれだったら、大会に出てみればどうだ?兄ちゃんならいいとこまでいけそうだな」

「大会とは?」

「腕相撲だよ。王都中の力自慢が集まるぞ」

「それはいいことを聞いた。力試しにはもってこいだな。なあ、戦友」

「何で俺に聞くんだよ?」

「もちろん、戦友も参加するからに決まっている。店主、場所を教えてくれないか?」

「それなら、ここの通りをまっすぐ行って、右に曲がればすぐだ」

「感謝する。では、早速行こうではないか」

ダリルは意気揚々と大会会場へと足を向ける。

会場に着くと、筋骨隆々な男たちが受付に並んでいた。

「本当にあの中に参加する気かい?」

「我が筋肉をもってすれば恐れることはない。さあ行くぞ、戦友」

「結局俺も参加するのかよ」

ダリルはイアンの肩を取り、受付に向かって歩き出す。

「二人ともすごいな~。あんなにムキムキな相手と戦おうなんて。僕だったら、ポッキリと骨が折れちゃいそうだ」

マイルズは袖を捲り、自分の細腕を見せる。

基本的に後衛である魔導師は身体を鍛えなくとも戦うことはできる。

ゆえに、優秀な魔導師であっても身体能力そのものは低いということは珍しくない。

「確かに僕もちょっと気が引けるかな。まあ、あの二人ならいい線いきそうだけどね」

「ああ、それは何となく分かる気がする」

その実力を身近で感じている二人には、イアンとダリルが負ける姿があまり想像できなかった。

そこに参加受付を終えたイアンたちが戻ってくる。

「おかえり。大会は何時から?」

「12時だ」

「では、それまで英気を養っておかねばな」

「それなら、また何か食べに行こうか」

イアンたちは再び屋台巡りに向かった。




正午となり、腕相撲大会が始まる。

参加者は18名。

イアンとダリル以外は大人ばかりだが、体格のいいダリルは混ざってもあまり違和感はない。

大会形式はトーナメント制であり、イアンとダリルはそれぞれ両端のシード下に入れられていた。

要するに期待はされていないということだろう。

イアンの出番は大会最初の試合であり、いきなり舞台に上がることとなった。

「はあ?こんなガキが相手かよ」

初戦の男はイアンと比較し、一回り以上大きい。

腕も太く、丸太のようだった。

イアンは見下される形で挑発を受ける。

「棄権した方がいいぜ。その貧弱な腕が折れる前にな」

「ご忠告どうも。これでも柔な鍛え方はしていないつもりだ」

「生意気なガキだ。後悔しても知らねえぞ」

男は鼻が触れそうな距離まで詰め寄り、威嚇する。

イアンも負けじと男を睨み返す。

「二人とも準備を」

審判に遮られた男は不満そうに唾を吐き、台に肘をついた。

「手を組んで」

審判は二人の手を握らせ、ポジショニングを確認する。

「おいおい、大丈夫かよ?」

「あんな細っこいのが勝てるわけがねえ」

「坊主、頑張れよ!期待はしてないがな!」

観客から応援が送られるが、同情や侮蔑の混じったものばかりだ。

目の前の男は勝利を確信した余裕の笑みを浮かべる。

あまりにも舐められた態度にムカついたイアンは後の試合を考えないことにした。

深呼吸を繰り返し、集中を高め、全身の筋肉に意識を持っていく。

「それでは…始めっ!」

合図と同時に、二人は腕に力を込める。

誰もが一瞬で終わるものと思っていた。

だが、目の前の光景は人々の想像とは異なり、二人の手は開始位置からまったく動いていなかったのだ。

「やるじゃねえか…ふんっ!」

男はさらに力を込め、イアンの腕を倒しにかかるが、それでも動かない。

もちろんイアンは魔法など使っておらず、純粋な筋力で勝負している。

ただ、決して余裕があるわけではなく、少しでも気を緩めれば押し負けるというギリギリの状況だ。

「こなくそっ…!」

いくら揺さぶりを仕掛けても効果がなく、男のこめかみに青筋が立つ。

一分は膠着状態が続いただろうか。

疲れにより相手の力がわずかに緩んだことをイアンは見逃さなかった。

一気に力を込め、均衡を崩す。

男はポジションを戻そうと足掻くが、もはや手遅れだ。

次第に傾きが大きくなり、決着まであと数cmとなる。

「ふっ!」

最後にはイアンが身体ごと倒し、相手の腕を台に叩きつけた。

「そこまで!勝者、イアン!」

審判が決着を宣言し、イアンの腕を上げる。

その瞬間、大きな歓声で会場が湧いた。

「すげえよ、坊主!」

「どこにそんな力があったんだ!?」

「いいもん見たぜ!」

まさにジャイアントキリングと呼べるような結果に誰もが興奮させられる。

男も信じられないといった表情で自分の腕を押さえていた。

「貧弱な腕に負けた気分はどうだ?」

「…っ!」

イアンの問いかけに、男は黙って下を向くしかなかった。

イアンが選択した作戦は持久戦。

筋力差で勝てないことは明らかだったので、相手の隙ができるまでひたすら耐えたのだ。

イアンが舞台を下りると、ダリルが片手を上げて待ち構えていた。

「さすがだな。我が戦友よ」

「ありがとよ」

イアンはその手を思い切り叩き、渇いた音を鳴らした。

「では、次は僕の番だな。決勝で会おう」

ダリルは親指を立てると、舞台に上がっていった。

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