39.迷宮④
「この扉を潜れば、いよいよ階層主との戦闘だ。今更怖じ気づいた奴はいないな?」
ダンは背後にある大扉を指差す。
その扉には禍々しい模様が刻まれ、挑戦する者を威圧していた。
イアンたちは息を呑み、“試練の間”へと足を踏み入れる。
扉の先には洞窟内とは思えない天井の高い空間が広がっていた。
ただ、階層主とみられるモンスターはどこにも見当たらない。
しばらく周囲を警戒していると、突然奥の方で魔方陣が光を放ち始め、モンスターが姿を現した。
階層主のモンスターはランダムに選ばれるようで、今回は召喚されたのはミノタウロスだ。
ただ、そのミノタウロスはどこか異質で、体長は3mを超え、右手には戦斧、左手には戦鎚を持っている。
そして、何よりも目を惹くのは、モンスターコアを想起させるどす黒い体毛だ。
それを見たダンは大きく舌打ちをする。
「ハズレを引いたか」
「ハズレですか?」
「ああ。あれはミノタウロスの亜種だ。通常種より十倍は強いと思え」
「十倍って・・・勝てるんですか?」
「勝てないことはない。だが、全力を出してギリギリってとこだな」
「ならば撤退しましょう。あまりにも危険です」
「悪いが撤退は無理だ。この“試練の間”は階層主を倒すまで出られない」
「は?」
ダンから伝えられた事実にイアンたちは唖然とする。
「そ、そんな重要なことをどうして言わなかったんですか!?」
「黙れ!こうなった以上、生きて帰るには奴を倒すしかないんだ!覚悟を決めろ!」
ダンは双剣に手をかける。
納得できず、レイがダンに詰め寄ろうとした時だった。
『ブモォォォォォォォォ!!』
突然ミノタウロスが咆哮を上げた。
大地を振るわせるかのような叫びは、恐怖を呼び起こし、身体を硬直させる。
声が途切れると、ミノタウロスは不自然なまでの前傾姿勢を取る。
そして、その巨体からは想像できない速さで走り出した。
「避けろ!」
先に硬直が解けたダンとイアンは、それぞれレイとオルガ、セシリアを抱え、左右に飛ぶ。
そこをミノタウロスが目にも止まらない勢いで通過していった。
「早く構えろ!死ぬぞ!」
ダンに発破をかけられ、イアンたちは武器を構える。
ミノタウロスは壁に激突する直前で停止しており、ゆっくりと反転していた。
「奴の咆哮と突進はヤバい!主導権を取るぞ!俺が前に出る!イアンは右、セシリアは左から攻めろ!オルガは急所を狙え!レイは攻撃魔法だ!」
「「了解!」」
ダンがミノタウロスに向かって走り出し、イアンとセシリアも後に続く。
ミノタウロスは目の前の敵に戦斧を振り上げた。
そこにオルガの矢が撃ち込まれ、防がれはしたがミノタウロスの動きを止める。
すかさずダンが剣を抜くと同時に斬りつけ、イアンとセシリアも追撃した。
だが、硬い毛皮は三人の刃を弾く。
「ちっ、硬え!出し惜しみしてられないな!」
ギアを上げたダンは次の一振りでミノタウロスに傷を付けた。
それが刺激となったのか、ミノタウロスはイアンたちに目もくれず執拗にダンを狙い始める。
イアンたちはダンを援護しようとするが、剣も槍も矢も魔法もまったく意味をなさない。
むしろ、より一層ミノタウロスの攻撃は激しくなっていく。
しかし、戦斧と戦鎚の嵐をダンはまるで踊るようにいなし、さらには反撃を加える余裕も見せていた。
ただ、ミノタウロスの圧倒的な防御力の前では些細なダメージしか与えられていない。
「レイ!弱化魔法を!わたくしには強化魔法を!」
セシリアの呼びかけに応え、レイは即座に魔法を発動する。
イアンも戦術を切り替え、強化魔法を受けたセシリアを活かすように立ち回った。
レイの弱化魔法によって硬度が落ちたミノタウロスの体表にはいくつもの傷が入る。
しかし、それでもなお、ミノタウロスが倒れる兆しは見えない。
「オルガ、目を狙え!」
ダンが指示を飛ばすと、オルガは精霊に呼びかけ全力の一矢を放つ。
精霊によりコントロールされた矢はミノタウロスの防御を掻い潜り、左目に命中した。
『ブモォォッ!』
悲鳴を上げたミノタウロスは、次の瞬間オルガに戦斧を投げつけた。
回転しながら迫る戦斧にレイがオルガの前に立ち、剣と防御魔法で受けようとした。
「受けるな!逸らせ!」
ダンの警告に、レイは咄嗟に斜めに魔法障壁を張った。
戦斧が当たると同時に障壁は粉々に砕け、レイの剣が弾き飛ばされるが、軌道を逸らされた戦斧は後方の壁に刺さる。
「・・・っ」
苦悶の声を漏らしたレイは腕の肉をごっそりと削がれていた。
大量の血を流すレイにオルガが慌てて駆け寄り、回復魔法をかける。
二人が戦線に復帰するのはもう期待できないだろう。
ただ、遠距離の攻撃手段はなくなったが、ミノタウロスが片目と戦斧を失った状況はイアンたちにとって好機だ。
「はぁぁっ!!」
セシリアの渾身の一撃はミノタウロスの右足を飛ばした。
『ブモォッ!』
ミノタウロスは膝を着くが、戦鎚を滅茶苦茶に振り回し、追撃しようとするイアンたちを近寄らせない。
そして、予測不能な軌道で動く戦鎚は不意に地面を抉る。
飛ばされた拳大の石礫はセシリアの頭部に直撃し、意識を刈り取った。
すぐさまイアンはセシリアを担ぎ上げ、戦闘から一時離脱する。
オルガのもとに運ぶと、未だにレイの治療は続いており、その顔からは血の気が失せていた。
「レイ、もう少し堪えてくれ。オルガ、セシリアを頼む。お前の槍借りていくぞ」
イアンは槍を掴んで駆け出し、ミノタウロスにあと数歩まで近付くと、槍を地面に突き立て、棒高跳びの要領で一気に頭上に跳ぶ。
そして、落下の勢いを乗せて槍を突き出した。
『ブモォォォッ!!』
ミノタウロスは空中でイアンを掴むと、力任せに投げ飛ばした。
イアンは地面を何度か跳ね、壁に激突する。
しかし、イアンの捨て身の攻撃はミノタウロスの右目を奪っていた。
「お前ら、よくやった」
ダンは背後からミノタウロスの首筋に剣を突き立てる。
『ブモ・・・』
「これで、終わりだ!」
ダンの双剣はミノタウロスの首を刎ね、首を失った身体は音を立てて倒れた。
【イフリート王立学園二年生 野外演習報告】
●1班
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●14班
・班員
セシリア・ベレスフォード(班長)
オルガ・エレドナ
レイ・ウィルズ
イアン
・監督者
ダン
・最終成果
階層主ミノタウロス亜種を討伐、十階層を踏破。
・詳細
個々の高い実力とバランスの良い編制により、十階層到達までに大きなトラブルはなし。監督者の判断により階層主との交戦を決行。
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・負傷状況
セシリア・ベレスフォード:対階層主戦において、頭部負傷および強化魔法による筋肉断裂。全治二日。
オルガ・エレドナ:対階層主戦において、魔力の過剰使用により昏倒。五日間、意識不明の状態が続く。
レイ・ウィルズ:対階層主戦において、右腕皮膚・筋肉の欠損および出血多量。全治二週間。
イアン:負傷なし。
●15班
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