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34.魔法指南

イアンは魔法の指導をするため、マイルズとルシアを連れて演習場に来ていた。

「さてと、これから魔法について教えるわけだが…」

イアンは二人の背後に目を向ける。

「何でお前らがいるんだよ?」

イアンの視線の先には、レイ・セシリア・オルガ、そしてダリルまでいた。

「僕はイアンがどう教えるのかに興味があってね。それに、学べることも多いだろうと思ったんだ」

「オルガさんとわたくしは自主訓練に来ていただけです。そこに偶然、貴方たちがいたので見に来たのですわ」

オルガもコクコクと頷き、セシリアに同意する。

この三人の言い分に関しては理解はできる。

ただ、ダリルだけはなぜここにいるのか謎だった。

対人格闘の講義でダリルは魔法が使えないと聞いており、この場にいる理由がないのだ。

「我が戦友が何やら悪事を企んでいると耳にしたのだ。知ってしまった以上、止めないわけにはいかないだろう?まあ、杞憂であったようだが」

マイルズとルシアに魔法を教えるという事実がねじ曲げられてダリルに伝わっていたようだ。

そこには誰かがわざと悪いように噂を流していたという可能性もある。

もしそうだとすると、元凶はおそらくルシアだ。

セシリアやオルガと系統は異なるがルシアもまた美人であり、前者はマドンナであり、後者はアイドルとでもいうべきか。

要は、イアンはまたしても嫉妬を集めてしまったということなのだろう。

「しかし、念のためこの僕が監督させてもらおうじゃないか。そして、君は悪事などしていなかったと証言しよう。そう、この筋肉に誓って!」

ダリルは勢いよく上着を脱ぐと、ポーズを取って筋肉を見せつける。

「…ありがとな」

「何、戦友のためだ。このくらい礼には及ばない」

ダリルは歯を見せて笑い、ポーズを変えて胸筋を揺らす。

イアンにとってはすでに見慣れた光景であったが、そんなダリルに女子たちは氷のように冷たい視線を送っていた。

「…あの、ちょっといいかな?」

マイルズが恐る恐る手を挙げた。

「皆様に僕たちの訓練を見学いただくとなると、非常にいたたまれないのだけど…」

マイルズは冷や汗をかきながら、後ろをチラリと見た。

子爵家の二人の後ろには、公爵家が一人、公爵家相当が一人、侯爵家が二人並んでいる。

立場が上の人間が目を光らせる中、魔法の訓練をしようというのだ。

マイルズとルシアがガチガチに緊張するのも無理はない。

むしろ、この状況で平然としているイアンが異常であるといえよう。

「まあ、僕たちのことは気にしないでいいよ。案山子だと思ってくれていいから」

「そう言われましても…」

レイの言葉にマイルズたちは困惑した表情を浮かべた。

微妙な空気になったところで、イアンは手を叩いて場を締める。

「とにかく、レイたちはいないものとしてやるぞ。これも訓練だと思え」

「うん…」

「はい…」

二人の歯切れは悪かったが、イアンは気にせず話を進める。

「まずはお前らの実力を確認したい。あの的に向かって魔法を撃ってみてくれ」

イアンは15m先の的を指差した。

その指示にマイルズは上級火魔法のファイアストリーム、ルシアは中級風魔法のウィンドカッターを放つ。

ただ、マイルズの魔法は的から外れて地面に穴を空け、ルシアの魔法は的に当たったが発動までに時間がかかっていた。

その様子を見たイアンはしばらく考え込み、口を開く。

「よし。何となくは分かった。じゃあ、ミニアクアを発動してくれ」

「あの、基礎魔法ならすでに習得済みですが…」

「それは分かってる。だが、基礎魔法だからといって馬鹿にするなよ?」

イアンは水球を宙に浮かべる。

その形状は一切歪みのない球体だ。

「これを一分間持続できるか?」

「そのくらいなら…」

ルシアもミニアクアを発動する。

だが、その形状は安定せず、大きくなったり小さくなったりを繰り返す。

「んっ…?案外、難しいですね…」

コントロールが思い通りいかず、ルシアは額に汗を浮かべる。

「あれ?全然できないや」

マイルズも魔法を発動するが、球状にならない上、十秒程度しか維持できていない。

「うーん…これは確かに難しいね」

「ええ、イアンのような球体にしようとすれば、かなりの集中が必要ですわ」

「む、そうなのか?僕は魔法が使えないからよく分からないが」

レイたちも同様に試していたようで、ダリル以外表情が険しくなっていた。

「それで、イアン。この訓練にはどういった狙いがあるんだい?」

「魔力操作の改善だ。命中精度も発動速度も魔力操作に依存するからな」

「なるほど。この訓練なら常に魔力を練り上げる必要があるし、その上で一定に魔力を流し続けないといけないし、魔力のコントロールにはピッタリということだね?」

「その通りだ」

イアンの言いたいことをレイが代わりに言ってくれたため、説明の手間が省ける。

やはりレイがいると便利だとイアンは内心思った。

その傍らマイルズが何とかミニアクアを維持しようと頑張っていたが、諦めて口を開く。

「やっぱりダメだ。イアンはこれができるようになるまでどれくらいかかったの?」

その問いかけにイアンは指を二本立てた。

「二年だ。二年間、基礎魔法だけを続けた結果がこれだ」

「に、二年も…?」

イアンの返答に皆が言葉を失う。

ただ、レイだけはどこか納得したような表情を浮かべていた。

「イアンは二年もの時間を費やして基礎を鍛え上げたんだね。道理で魔法の上達が異常に速いわけだ」

「そうか?」

「だって入学した時、君は初級魔法も使えなかったじゃないか。それが数ヶ月で中級魔法、この一年で上級魔法まで習得している。普通の魔導師じゃ、あり得ない速さだよ」

普通の魔導師がどういうものかはよく分からなかったが、レイの口ぶりや他の者の様子からイアンは自身の異常性を僅かばかり認識した。

「現状、イアン並に魔法を扱える者はこの場にはいないでしょう。しかし、その秘訣は得ることができました。わたくしも精進しなくてはなりません。二人も共に頑張りましょうね」

「はいっ!頑張ります!」

「私もセシリア様のご期待に沿えるよう努力します」

セシリアの声かけにマイルズとルシアは姿勢を正して返事をする。

教えていたのはイアンなのだが、まるでセシリアが主導しているかのようだ。

「戦友よ、役割を取られてしまったな!」

「まあ、セシリア嬢はカリスマ性があるからね」

ダリルが背中をバシバシ叩き、レイが慰めにかかる。

「うるせえ…」

イアンは小さく呟いた。

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