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33.退屈な講義

生徒たちが20m程離れた的に向かって各々得意な魔法を放つ。

着弾した魔法は音を立てて軽く地面を抉った。

「その調子です!戦場における魔導師の役割は、後方から戦局を変えること!いかに威力の高い魔法を敵中に撃ち込むかが重要なのです!さあ、中級魔法をどんどん撃ってみましょう!可能であれば、上級魔法を!」

実戦魔法担当のエヴァン・サクソンが声高く指示を飛ばす。

一方でイアンは魔力を練ると、初級風魔法のウィンドバレットを撃ち出した。

風の弾丸は一瞬で的に到達し、ど真ん中を貫く。

その正確無比な一撃に、イアンの両隣にいた生徒は感嘆の声を漏らした。

ただ、イアン本人は退屈そうな表情を浮かべていた。

周囲を見渡せばほとんどの者が中級以上の魔法を使用しているが、その狙いは大雑把で的に直撃したものは半分にも満たない。

だが、教師であるエヴァンがそれを指摘することはない。

すでに見切りを付けていたイアンは、適当な初級魔法を的に当てて時間を過ごしていた。

「イアン君、どうかしましたか?」

イアンのもとに来たエヴァンは冷たい視線をイアンに向ける。

「なぜ初級魔法ばかりを放っているのですか?君も中級魔法は使えるでしょう?私の講義に何か不満でも?」

一瞬の沈黙の後、イアンは中級火魔法を放ち、的を消し炭にした。

「…これでいいですか?」

イアンの問いかけに小さく舌打ちし、エヴァンは別の生徒を見に行った。

その背中を見送り、イアンもその場を立ち去ろうと歩き出す。

「イアン、どこへ行くんだい?」

呼び止める声に振り返ると、レイが駆け寄ってくる。

「これ以上この講義を受けても得られるものがなさそうだからな。一人で訓練していた方がマシだ」

「さすがにそれはマズいよ。出席日数が足りないと進級に影響が…」

「ちっ。面倒だな」

選択授業の変更はできない上、最低限は講義に出席しなければならない。

その煩わしさにイアンは眉をひそめた。

「この講義の何が問題なのかな?魔法の練習をするには丁度いいと思うけど…」

「…俺が気に入らないのは、この講義が実戦をまったく想定していないことだ」

イアンは的を指差す。

「まず、止まった的を狙わせているのがダメだ。実戦ならば的は動いているし、防御も反撃する。こちらから一方的に攻撃ができる状況なんてありえないだろ」

「あ、確かに…」

「それに命中精度の悪さを何一つ指摘しないのも問題だ。あの距離で当てらないことは実戦では致命的だ。後衛である魔導師に対して、前衛で戦う兵士がいる。誤射で味方を巻き込むなんてことになれば目も当てられないぞ」

「うん…」

「最後に、中級・上級魔法にこだわるべきじゃない。戦闘の長期化を視野に入れれば、魔力消費の多い中級以上の魔法を乱発するのは悪手としか思えない。たとえ初級魔法であっても扱い方を工夫すれば、十分戦闘に使えるはずだ」

「…」

レイは完全に黙り込んでしまう。

イアンの指摘はどれも的を射ており、レイに反論の余地はなかった。

「というわけで、俺からすればこの訓練は実戦と呼ぶにはぬるすぎる」

「…じゃあ、イアンにとって実戦を想定した訓練はどういうものだい?」

「そうだな…」

レイの問いかけにイアンはしばらく考え込む。

「とりあえず、的は動くものを用意するべきだ。実戦に近づけるならば、ゴブリンみたいな生きたモンスターが用意すればいいと思う」

「さすがにモンスターを王都内に入れるするのは無理だと思うけど…でも、モンスターの代わりならゴーレムがいいかも」

「ゴーレム?」

「魔導人形とか、人造モンスターとか、色々な呼び方をされているね。まあ、魔力で動く人形と思えばいいかな?」

「なるほど。魔力で動くということは、誰かが動かさないとならないのか?」

「それは手動操作の場合だね。まだ研究段階だけど、ゴーレムに命令を覚えさせて動かす自律操作という方法もあるよ」

「手動操作だとゴーレムは何体くらい動かせるんだ?」

「うーん、複数動かすのは常人には無理だと思うよ。そもそもゴーレム操作は繊細な魔力操作が必要で、一体動かすだけでも上級魔法以上に難易度が高いと言われているんだ」

「ゴーレム一体しか動かせないなら訓練には使えないか…自動操作はどういうことができるか知ってるか?」

「それが歩くこともままならないそうだよ。だから、戦闘のような複雑な動きができるようになるのはまだまだ先になるだろうね」

「そうか…ちなみにゴーレムは人型の必要はあるか?」

「どういうことだい?」

「車輪をつけた土台に的を乗せれば、簡単な命令だけでも動かせそうだと思ってな」

イアンの言葉を受けたレイは虚を突かれたようだった。

「確かにあえて人型にこだわる必要はない…構造が単純な方が動かしやすいに決まっている…それなら、学園の研究科に依頼すれば…」

レイはブツブツと呟き、考えをまとめ始めた。

しばらくして、イアンは顔を上げた。

「よし。この件は僕に任せてもらえないかな?訓練の大幅な改善ができるかもしれない」

「ああ、頼む」

レイのやる気に満ちた表情にイアンはすぐに了承した。

「あの…ちょっといいかな?」

不意に声をかけられ振り向くと、イアンの両隣で訓練していた二人がいた。

「じゃあ、レイ。俺は行くぞ」

レイへの用事だろうとイアンはその場を離れようとする。

「待ってくれ。僕らはイアン君に頼みたいことがあるんだ」

「俺に?」

また決闘だとか言われるのかと、イアンは眉をひそめた。

「まずは自己紹介させてほしい。僕は2-Cのマイルズ・オクスリーだ」

「私は2-Hのルシア・ワイエスです」

「ああ、オクスリー子爵の次男君とワイエス子爵の三女さんだね」

当然のように貴族の家族構成を把握しているレイに面喰らいつつ、マイルズは話を続けた。

「えっと、さっきの訓練でイアン君は魔法をすべて的に当てていたよね?どうすればあんなに魔法を命中させられるか教えてほしいんだ」

「私は魔法の連射速度が気になりました。魔力の練り上げ方にコツがあるのでしょうか?」

「何で俺なんだ?教師に聞けばいいだろ?」

「僕らは二人とも君の技術に感銘を受けたんだよ」

「ええ。だからこそ、貴方から学びたいと思ったのです。どうか了承してもらえないでしょうか?」

ルシアの願いにイアンは一瞬考え、口を開く。

「…いいぞ。俺のやり方で良ければ引き受ける」

「ありがとう。よろしく頼むよ」

「ご教授お願いいたします」

イアンは二人と握手を交わした。

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