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28.試験補助

その日、学園には入学試験のために多くの受験生が集まっていた。

彼らの面持ちは不安で強張っていたり、緊張を紛らわそうとあえて笑って見せたりと様々だ。

中には自分は受かるに違いないと自信満々な表情を浮かべる猛者もいる。

「受験番号201番から300番は三号館!301番から400番は四号館へ!」

イアンは広場で声を張り上げ、受験生たちの誘導を行っていた。

学園の入学試験は夏季休暇中に行われる。

その理由は試験期間の長さと受験者数の多さにある。

一ヶ月の試験期間と千を超える受験者数に対応しようとするならば、試験運営にすべての教師陣を駆り出さなければならない。

つまり、試験の間は講義ができる人間がいなくなってしまうのだ。

というわけで、休暇中に試験があるのだが、それでも人手不足は否めない。

そこで学園が考えたのは、学生にも運営に協力してもらうことだ。

もちろん、帰省や旅行の予定がある者がいるため、強制ではない。

ただ、学園に残る学生も一定数はおり、協力した暁には賃金が支払われるという。

実際、特に予定のなかったイアンも金がもらえるというので、こうして試験補助員として仕事をしている。

大方受験生を捌いたところで、イアンは一息ついた。

「イアン、お疲れ様。水でも飲むかい?」

いつの間にか傍に来ていたレイがコップをイアンに差し出す。

「悪いな。さすがにこの暑さは堪える」

炎天下の中、朝から声を出し続けたこともあり、イアンののどはカラカラだった。

イアンは受け取った水を一気に飲み干す。

程良い冷たさの水がのどを通り、少しばかり疲れも減った気がした。

「レイは何してたんだ?」

「僕は受付の手伝いをしていて、さっき終わったばかりだよ。とんでもない数の受験票をチェックして、サインを書き入れてたから、目と手が痛いや」

レイは手をぶらぶらと振る。

その目もいつもの半分くらいしか開いていない。

「でも、これだけの受験生がいて、入学できるのは一割くらいなんだよね。改めて僕らは数多くの人を蹴落として学園に入学しているんだなと思ったよ」

「俺らが蹴落とした訳じゃないだろ。やれることやった結果、学園に入れた。それでいいんじゃないか?」

「う~ん、君みたいに割り切れればいいんだけどね…」

レイは腕を組んで、前を通り過ぎる受験生たちを見つめる。

レイは他人への気遣いをかなりする。

もちろんそれは悪いことではない。

しかし、あまりに過剰であると、時に自分を苦しめることになるのだ。

まあ、我が道を行くイアンには無縁の話ではある。

「ところで、イアンは故郷に帰らなくてよかったのかい?」

「ここからエッジタウンまで一ヶ月以上はかかるからな。往復するだけで休みが潰れるんだよ」

「確かに、そこまで遠いと気軽に帰ろうとは思えないね」

「だよな?それに、学園にいれば休みの間、剣も魔法も特訓し放題だ。おまけに、試験補助の仕事で金も稼げる。学園に残らない理由はないだろ?」

「イアンらしいね。でも、家族に会えなくて寂しくはないの?」

「寂しさは特に感じないな。もう一生会うことはない。そのくらいの覚悟はして、ここに来ている」

「やっぱりイアンは強いな」

「大したことじゃない。そういうお前は帰らなくて良かったのか?」

「まあ、ちょっと帰りづらくてね。彼らも僕がいない方がいいだろうし…」

レイは自虐的な笑みを浮かべた。

「家庭の事情ってやつか?まあ、俺は特訓相手がほしかったし、レイが残ってよかったと思うけどな」

「君がそう言ってくれて嬉しいよ。ありがとう」

レイのストレートな感謝に、イアンは照れ隠しに頭をかきながら時計を見た。

「そろそろ試験開始だな。筆記試験中はレイも暇だろ?訓練でもするか?」

「この暑さなのに、君は元気だね。僕としては涼しい図書館で読書をしたいかな」

「なら、図書館にするか」

「いいのかい?」

「ああ、本読みながらでも魔力操作の練習はできる」

「それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらうね」

「おう。もう受験生はいないよな?」

イアンは持ち場を離れる前に、受験生がいないか広場を見渡す。

すると、広場の端の方を一人、受験票を睨みつけながら歩いていた。

「悪い。少し待っててくれ」

レイに一言告げると、イアンは小走りで駆け寄る。

その受験生は装いからするに平民の男子だった。

「おい、お前。受験生か?」

「…先公、じゃないよな?」

「ああ、ここの学生だ。で、こんなところで何をしてるんだ?試験開始までもう時間がないぞ」

「この紙の番号の場所に行けって言われたんだけど、文字が読めないんだよ」

「はあ?文字が読めないのに試験を受けるのか?」

「うっさいな!名前さえ書けばいいって言われたんだよ!」

「その名前も書けなかったら意味ないだろ!会場に案内するから受験票を見せろ!」

イアンの気迫に、その受験生は渋々と受験表を差し出す。

イアンが番号を確認すると、会場は広場から一番遠い場所だった。

試験開始まで残り三分。

イアンが全力で走ってギリギリだ。

「レイ!強化魔法使えるか!?俺にかけてくれ!」

「分かった!今行くよ!」

レイはイアンのもとまで来ると魔力を練り始めた。

「一分持てばいい、急いでくれ!」

「分かった!」

レイは練り上げをそこそこにイアンに強化魔法をかけた。

「できたよ。たぶん一分は持つと思う」

「助かる。おい、行くぞ」

「え?」

イアンは受験生を肩に抱え上げて駆け出した。

強化魔法のかかったイアンの身体は風を切り、走り去った後には土煙が舞う。

運ばれる受験生は驚きのあまり声も出せない。

会場の建物に到着すると、受験生を担いだまま中に入り、階段を駆け上がる。

全力で走ったことにより、教室の前に着いた時にはまだ30秒残っていた。

イアンは受験生を下ろし、その背を叩く。

「ほら、行ってこい」

受験生は戸惑いながら、教室に足を踏み入れる。

扉が閉まった後、イアンはその場に座り込んだ。

会場の建物に入る前に強化魔法はすでに切れており、その反動で身体にかなりの痛みが走っていた。

そんな状態の中、気合で人一人抱えて階段を登ったのだ。

その疲労は相当なものだろう。

「はあ、疲れた。もう一歩も動けないぞ…」

イアンはそのまま後ろに倒れ込む。

その後、追いついてきたレイに見つけられ、イアンは保健室に運ばれたのだった。

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