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26.精霊祭④

リンダが目を覚ますと、身動きが取れないよう椅子に縛り付けられていた。

助けを求めようとするが、猿ぐつわを噛まされ上手く声を出すことができない。

「お?目が覚めたか?」

リンダの目の前に知らない男の髭面がぬっと現れた。

「んーっ!」

「そう怖がんなって。これから楽しいことを教えてやるからよ」

髭の男は嫌らしい目つきでリンダの肢体を眺め、舌なめずりをする。

リンダはこの先自分の身に何が起こるかを理解し、必死にもがく。

ただ、堅く縛られた縄はまったくほどける様子はなく、リンダは涙目になる。

「いいね、いいね!その怯えた表情!俺は女の泣き顔ってやつが一番好きなんだ!」

「おいおい、子ども相手に発情すんのか?」

「うるせえ!女なら大人も子どもも関係ねえよ」

仲間の野次を黙らせ、髭の男はリンダの服を掴んで脱がそうとする。

「待て」

だが、短くも怒気を含んだ声が髭の男を制止した。

「我々に依頼されたのは誘拐まで。それ以上は契約違反だ」

「何だよ!頭が固えな!ちょっとくらいいいじゃねえか!?」

「これは仕事だ。客の信用を失うつもりか?」

「ちっ!」

髭の男は手を引っ込め、面白くなさそうに壁に寄りかかる。

入れ替わりに仮面を付けた男が前に来ると、膝をついてリンダと目線を合わせた。

「悪く思わないでくれ。私にも事情があるんだ」

仮面の男の目はどこか申し訳なさそうだった。

その目を見たリンダは自分の状況を忘れ、不思議な気持ちでいっぱいになる。

すると、突然大きな音を立てて部屋の扉が蹴破られた。

「オルガさん!リンダさんを!」

オルガの魔法により、一瞬でリンダの周りに風の障壁が張られる。

「何だ!?てめえら…っ!?」

叫んだ男の顔にイアンの掌底が叩き込まれる。

「残り、七!」

「了解しましたわ!」

セシリアは水魔法により男たちを制圧しにかかる。

仮面の男だけは咄嗟に防御魔法を展開し、セシリアの魔法を防いだ。

「この女が!」

髭の男がナイフを抜き、セシリアを襲う。

だが、イアンが間に割って入り、市場で買ったばかりのナイフで受け止めた。

「男はお呼びじゃねえんだよ!」

髭の男はイアンを相手にナイフを振るう。

イアンはそのナイフを躱し、受け、反撃へと転じた。

「このっ!何だよ、このガキ!」

イアンは髭の男を圧倒し、男のナイフを弾き飛ばした。

そのまま、イアンのナイフが男の首を狙う。

「殺してはダメです!」

セシリアの声に、寸前でイアンの手が止まる。

わずかな逡巡の後、イアンは髭の男のみぞおちにナイフの柄を叩き込む。

髭の男を無力化し、残すは仮面の男のみとなった。

すると、拍手の音が聞こえる。

「さすがは学園生。鍛え方が違う。ゴロツキ程度では、相手にもならなかったか」

「それでは貴方も大人しく投降して下さる?」

「美人にエスコートされるのも悪くない。だが、今日は遠慮しておこう」

仮面の男は閃光の魔法を放った。

光で包まれ何も見えない中、イアンはわずかな気配に向かってナイフを投げる。

「…っ!」

仮面の男の呻き声がかすかに聞こえる。

しかし、光が収まった後に男の姿はなく、窓が開いているだけだった。

「皆、大丈夫かい!?」

レイとクレアが部屋に駆け込んでくる。

「もう終わりました。全員無事ですわ」

そう言いながら、セシリアはリンダの縄を解いた。

「リンダ~!よかった~!」

クレアがリンダに抱きついて、泣き始めた。

「セシリア嬢とオルガ嬢が協力してくれて本当に助かったよ。しかし、精霊に道案内してもらえるとはね」

「あの、セシリア様、オルガ様。私からもお礼を言わせて下さい。助けていただき、ありがとうございました」

リンダはクレアに抱きつかれたまま頭を下げた。

「人助けは騎士の本分です。このくらいは当然のことですわ」

セシリアに同意するように、オルガも小さく頷いた。

その後、衛兵により誘拐犯たちは連行され、イアンたちも事情聴取を受けることとなった。




三日後、イアンとレイが食堂で休憩していると、セシリアが机に新聞を置いた。

「こちらを読んでください。名前は伏せられていますが、この前のこと、記事に載っていましたわ」

そう言って、セシリアはイアンたちの座っていた机に同席する。

レイが新聞を広げると、学園生の誘拐未遂事件としてそれなりに大きく取り上げられていた。

「ああ、やっぱりサットン伯爵が関与していたのか」

「もう聞いていましたか?」

「いや、ただの予想に過ぎないよ。スラットリー男爵家を貶めて利益を得るのは、ヒマワリ商会と競合であるオダマキ商会を経営するサットン伯爵しか浮かばないからね」

「そんなことまで考えていたのですか・・・」

セシリアが唖然とする中、レイは変わらず新聞に目を通していた。

「そういえば、誘拐犯の一人を取り逃がしたんだが、それについては載っていないのか?」

「いや、新聞には伯爵が雇った野盗を捕らえたと書かれているだけだね。興味があるのかい?」

「ああ。かなりの魔法の使い手だったからな」

「へえ・・・何か特徴を覚えているかい?」

「仮面を付けていて顔は分からなかったが、全身黒一色だった」

「黒ずくめの魔導師・・・もしかして、“カラス”かな?」

「“カラス”ですって!?」

セシリアが机を叩く。

「知っているのか?」

「暗殺・誘拐・窃盗など、依頼を受ければどんな犯罪でも実行する犯罪請負人ですわ。まさか対峙したのがそんな相手だったとは・・・」

冷や汗を流すセシリアの反応からするに、“カラス”はかなりの手練れ。

あの場にいた全員が殺されていてもおかしくなかったのかもしれない。

“カラス”が逃走を選択したのは幸運だったのだろう。

「イアン」

名前を呼ぶ声に顔を上げると、リンダがそこにいた。

「話があるのだけど時間をもらえる?」

「どうぞ、連れて行っていいよ」

イアンが答える前にレイが勝手に返事をする。

そして、リンダはイアンを連れて人気のない校舎裏に向かった。

「で、話って何だ?」

「これを渡そうかと思って」

リンダは紙の束をイアンに差し出した。

「ヒマワリ商会の商品券よ。これで金貨一枚分の買い物ができるわ」

「ちょっと待て。なんでそれを俺にくれるんだ?」

「貴方に二度も助けられたからよ。だから、貴方にこれを言うのは癪なんだけど・・・あ、ありがとう」

感謝を述べたリンダの頬は若干赤くなっていた。

「おい・・・」

「それじゃ、これ受け取ってちょうだい。じゃあね」

リンダは商品券をイアンに押しつけて、小走りでその場から去っていった。

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