24.精霊祭②
精霊祭当日は雲一つない晴天に恵まれた。
通りは大勢の人で賑わい、祭りの雰囲気を楽しむ声が響いている。
「それでは、今日はイアン君が初めての精霊祭を楽しめるよう案内したいと思います!」
「おー!」
クレアの掛け声に、レイも合わせて手を挙げる。
その後ろでリンダは呆れた目を向けていた。
「まずは王城の方に向かうね。王城前では市場が開かれていて、いろんな屋台や露店があるから見て回るだけでも面白いんだ」
「食い物は分かるが、露店か・・・例えば、どんな店があるんだ?」
「えっと、宝石やアクセサリー、雑貨とかかな?」
クレアが挙げたのは、イアンにとって興味の湧かないものばかりだった。
「イアン、あからさまに顔に出したらクレアに悪いよ」
「あ、ごめんね。イアン君は装飾品とか興味ないよね・・・」
イアンの反応にクレアはしょんぼりとする。
そのせいでイアンはリンダに思い切り睨まれてしまった。
「まあまあ、武器や魔道具とかを取り扱っている店もあるから行ってみないかい?」
「ああ、そうだな」
「やっぱりイアン君は武器とかの方がいいんだね〜…まあいっか。じゃあ、早速案内するね」
クレアは笑顔を見せると、先頭を切って歩き出す。
そのクレアの切り替えの速さにイアンは感心させられる。
一方で、リンダから送られる視線は変わらず厳しいものだった。
市場に着くと、地面を埋め尽くす程の人で活気に溢れていた。
あまりの人の多さにイアンは思わず眉をひそめてしまう。
「さすがに人が多いね。どこから回ろうか?」
「お昼時にはまだ早いし、露店を見るのはどう?」
「それがよさそうだね。せっかくだし、リンダ嬢と女性同士で見て回ってはどうかな?僕はイアンを案内するよ」
「確かにお買い物ならその方がいいかも…」
「じゃあ、一時間後に城門前で集合にしよう」
「分かった。城門に集合ね。リンダ、行こ!」
「わっ、ちょっ…!」
リンダの手を取ってクレアは駆け出す。
「相変わらずの気遣いだな」
「リンダ嬢があまり楽しめてなさそうだったからね。さあ、僕らも行こう」
はしゃぐクレアたちを見送った後、イアンたちはゆったりとした足取りで市場へ入る。
クレアの話していた通り、市場の中は多くの露店が立ち並んでおり、日用品や骨董品、目にしたことのない珍しい品もあった。
イアンたちは何か目を惹くものがないかと物色して回る。
しばらくぶらついた後、イアンは店先に武器を陳列した店で足を止めた。
「イアン、何かいいものがあった?」
「ああ、ちょっとな。すみません、触ってもいいですか?」
「その制服は学園の生徒さんですね?君たちなら構いませんよ」
店主に許可をもらい、イアンはナイフを手に取った。
イアンはじっとナイフを見つめると、軽い手つきでナイフ回しを始める。
「…驚いたな。随分、ナイフに慣れているんだね。昔からよく使っていたのかい?」
「いや、芋の皮むきで使ってたくらいだ。にしても、やけにしっくりくるんだよな」
何の変哲もないナイフだったが、イアンの手によく馴染んだ。
値段も手頃で財布に余裕があったので、イアンはそのナイフを購入することにした。
店主に礼を言って、イアンたちは店を後にする。
「そろそろ時間だね。城門の方に行こう」
時間を確認したレイに連れられ、イアンは城門へ向かう。
城門前は市場と比べれば、人はまばらだった。
待ち合わせ場所になっているのか、一人でいる者も多い。
「二人ともお待たせ!」
イアンたちが着いて五分ほど経った後、クレアとリンダが小走りでイアンたちのもとに来た。
「ごめん!待たせちゃった?」
「遅れて申し訳ありません」
フランクに謝るクレアに対して、リンダはレイに深々と頭を下げる。
「僕たちも今来たところだから、丁度よかった。リンダ嬢もそう畏まらなくていいよ」
「はい、お気遣いありがとうございます」
「だから、堅いってば…」
リンダは未だにレイへの接し方を変えられていない。
その姿にレイは少し不満げな表情を浮かべていた。
イアンがリンダに目を向けると、その頭に朝にはなかった髪飾りがあった。
よく見るとクレアも色違いの同じ髪飾りを付けている。
「お前ら、その髪飾りはどうしたんだ?」
「あ、気付いた?さっき買ったんだよ。かわいい髪飾りがあったから、リンダとお揃いにしたんだ」
「へえ、似合ってるな」
「え?ありがとう…」
イアンとしては他意はなく、思っていることを口にしただけだった。
ただ、イアンに褒められたと受け取ったクレアは顔を赤くする。
「リンダ嬢もよく似合っているよ」
「ありがとうございます」
「ただ、君はもう少し肩の力を抜くともっと魅力的になると思うけどね」
レイは笑顔のままだが、やけに言葉に圧があった。
「どうかな?」
「分かりまし…」
「ん?」
「わ、分かったわ」
「うん、よろしく」
レイの問いかけに、リンダは首を縦に振るしかなかった。
暗にリンダに接し方を変えるように伝えていたらしい。
ニコニコ顔のレイと対照的に、リンダは少し気疲れした表情だ。
次の行き先を相談していると、突然王城からラッパの音が響きわたった。
その音をきっかけに、市場の方から人が押し寄せ始める。
城門前の広場はあっという間に足の踏み場がなくなった。
「国王陛下のおなりです!」
城門が開き、王冠を頭に載せた男が姿を現した。
「国王様!」
「お顔をお見せ下さい!」
「万歳!」
人々から大きな歓声が広がった。
国王の人気はかなりのもので、手を振るだけで民衆を熱狂させる。
「あれが国王なんだな」
「そうか。イアンは初めてお顔を拝見するんだね」
「まあ、国王がエッジタウンに来たことがないからな」
「確かに距離的に訪問されるのは難しいかもね。でも、国を治める手腕は確かだし、人格もすばらしい御方だと僕は思うよ」
「レイがそう言うなら間違いないな」
イアンは改めて国王の顔に目を向ける。
整った容姿は自信に満ちあふれ、圧倒的なカリスマ性を備えていた。
民衆が国王を慕うのも納得できてしまう。
ふとレイに話しかけようとその横顔を見て、イアンはあることに気付く。
「レイと国王の顔、なんだか似てないか?」
「え?何を言っているんだい?そんなわけないじゃないか」
「ほら、鼻筋の辺りとか…」
「似てないよ?」
「でもな…」
「似てない」
レイは被せ気味に言葉を発し、イアンを黙らせる。
レイのただならぬ雰囲気に、イアンはそれ以上その話題を持ち出さなかった。




