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19.野外演習①

野外演習初日、待機するイアンはすでに疲れた様子でうなだれていた。

「イアン、水でも飲むかい?」

「始まる前からそんな調子で大丈夫ですの?しっかりしてもらわないと困りますわ」

イアンにレイとセシリアが声をかけ、オルガも少し心配したような表情を浮かべていた。

ただ、彼らは自分たちがその元凶であることを知らなかった。

セシリアはベレスフォード公爵家の令嬢、レイはウィルズ侯爵家の子息、オルガはエルフ族の姫であり、それぞれが良き家柄を備えている。

さらに家柄のみならず、三人ともが美男美女なのだ。

当然、彼らには周囲からの注目と羨望が集まる。

その中に見た目は中の上程度の平民が混ざっているという状況。

嫉妬や怨恨を集めるには十分だった。

班を組んでから演習までの間に数多くの嫌がらせはもちろん、決闘を申し込まれることも何度かあった。

そして、今この瞬間でも敵意を含んだ視線が痛いほどに刺さってきていた。

いくら神経の図太いイアンであっても精神を削られるものだ。

「総員、注目!」

ギルバートの号令でイアンは余計な考えを振り払い、気を引き締める。

「いよいよ野外演習の開始だ!すでに分かっているだろうが、ここはイクサの森!この森にはゴブリンやコボルトといった低級モンスターしかいない!だが、弱いからと侮ると痛い目を見る!油断した者に待ち受けるのは死だ!それを忘れるなよ!」

ギルバートの脅しのような演説に生徒たちの間に緊張感が走る。

誰かの唾を飲む音がイアンの耳に届いた。

「そして、各班には監督者として銀級冒険者を一人ずつ同伴させる!彼らはモンスターとの戦闘経験が豊富だ!よって、撤退などの判断は彼らに一任する!」

国に所属する騎士団などとは異なり、冒険者は個人で依頼を受け活動する。

依頼内容は多岐に渡り、モンスター討伐のその内の一つ。

今回集められた冒険者は特にモンスター討伐を専門とする者たちだった。

「演習開始は一時間後となる!合図があるまで各班準備を整えろ!以上だ!解散!」

解散後、イアンたちは野営地に戻り、演習に向けて武器や荷物の確認を始めた。

「14班ってのはここか?」

準備を進めていると、唐突に背後から声がする。

振り返ると、腰に二本の剣を携えたまだ若そうな男が立っていた。

「ええ、私たちが14班で間違いありませんわ」

すかさずセシリアが前に立ち、応対する。

「そりゃ、よかった。俺はダン。この班の監督者として同行することになった」

「そうですか。わたくしは14班の班長を務めるセシリア・ベレスフォードですわ」

セシリアの実力はイアンも認めるものであり、セシリア自身もやる気のようだったので、その選出で特に揉めることなく全員一致でセシリアが班長に決まったのだった。

「班員を紹介しますわ。順に、レイ・ウィルズ、オルガ・エレドナ、イアンです」

「セシリア、レイ、オルガ、イアンな。よろしく」

ダンは軽い調子で挨拶をした。

その態度にセシリアは眉をひそめる。

家名持ちは貴族であることは周知の事実であり、ダンが断りもなくセシリアたちを呼び捨てにしたことが気に入らなかったようだ。

「さて、お前らの中で一番強い奴は誰だ?」

ダンの問いかけにイアンたちは顔を見合わせた。

質問の意図が読めないというのもあるが、この班で一番強いのが誰かといわれれば答えるのが難しいのだ。

「一番強い奴ならセシリアでいいんじゃないか?」

「冗談はやめてくださる?イアン、貴方の方が強いですわ」

「いや、模擬戦の勝率はお前が上だろ?なあ、レイ?」

「うーん、どっちもどっちだと思うけどな。ただ、遠距離に絞ればオルガだよね」

「確かに距離を取られれば手が出せないからな。オルガにしとくか?」

突然白羽の矢が立ち、驚いたオルガは激しく首を横に振る。

未だにオルガの声は聞いたことはないが、何を言いたいかはイアンでも分かった。

「おい、まだ決まらないのか?」

ダンが回答を急かす。

「しょうがない。セシリア、じゃんけんするぞ。勝った方が一番強い。それでいいな?」

「まあ、いいでしょう」

セシリアは渋々といった様子だったが、二人はじゃんけんする。

その結果、セシリアが一番強いということになった。

「それじゃあ、軽く手合わせといこうか」

「手合わせするのですか?」

「ああ。足手まといのお守りなんて御免だからな。お前らの実力を測らせてもらうぞ」

「…分かりました。では、手合わせをやりましょう」

セシリアは淑女らしい笑顔を崩していなかったが、こめかみの辺りに青筋が浮かんでいた。

ダンの口ぶりが癪に障ったのだろうと察したイアンたちはやや距離を取る。

セシリアは槍を手にし、構えを取った。

「へえ、槍使いか。そういや、ベレスフォードといえば槍術だったか?」

「とやかく言わず、早く貴方も腰の武器を抜いてはいかがです?」

「ん?必要ねえよ。ガキ相手に俺が武器を使えばいじめになっちまう」

ダンは空いた両手をヒラヒラと振る。

その言葉でセシリアは完全にキレたらしい。

開始の合図を待たず、ダンの顔に向かって槍を突き出す。

だが、ダンは首を傾けるだけでその刺突を避けた。

「おっと、そう急ぐなって。動きが荒くなってるぞ」

「そんなこと、分かっていますわっ!」

セシリアはベレスフォード流槍術による回転数の高い攻撃を繰り出す。

ただ、ダンはその攻撃をものともせず、そのすべてを体捌きのみで躱していた。

その動きにイアンは驚くとともに、ダンの一挙一動を目に焼き付けようと自然に前のめりになる。

そして、セシリアの攻撃は空を切り続け、5分は経とうかとしていた。

「…まあ、このくらいにしとくか」

そう呟くと、ダンは繰り出されたセシリアの槍を掴んだ。

セシリアは慌てて槍を退こうとしたが、ビクともしない。

「お前の実力はだいたい分かった。手合わせはこれで終わりな」

ダンが槍から手を離すと、槍を強く引いていたセシリアは尻餅をついてしまう。

セシリアは肩で息をし、普段イアンたちと模擬戦をするときより何倍も疲れているようだった。

その様子からダンの強さをイアンは感覚的に理解した。

「お前らならゴブリンやコボルトを相手にしても問題ないだろう。これなら遠慮なく進めそうだな」

ダンはにやりと口角を上げる。

「さて、そろそろ演習開始だな。俺は先に開始地点に行っとくぞ」

ヒラヒラと手を振り、イアンたちを置いてダンはさっさと歩いて行ってしまった。

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