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13.決闘③

(やばい、頭をやられた。体が上手く動かない。このまま負けるのか?)

⸻ドウシタ?オ前ハ、ソノ程度カ?

(何だ?声が…)

⸻魂ニ従エ。欲望ヲ剥キ出シニシロ

(意味が分からない。何のことだ?)

⸻殺セバイイ

(は?殺せってどういうことだよ!?というか、お前は誰なんだ!?)

⸻殺セ……殺セ……殺セ

(うるさい!黙れ!)

⸻殺セ…殺セ…殺セ…殺セ

(止めろ!止めてくれ…!)

⸻殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ……




「…はっ!」

イアンが目を覚ますと、眼前に白い天井があった。

体を起こし、周囲を見渡したところ、どうやら医務室のベッドで寝ていたようだ。

「誰かいませんか?」

「おや、目が覚めたようだね」

イアンの声に魔法医のリビー・ロスが顔を出した。

「調子はどうかな?どこか痛むところはない?」

「いえ、特にないです」

「本当に?派手に決闘したと聞いたよ」

リビーの言葉でイアンは決闘のことを思い出した。

「あの、決闘の結果はどうなったんですか?」

「その場で宣言はあったんだよね?覚えていないの?」

「えっと、途中から記憶がなくて…」

「そうなの?それなら教えてあげるけど、決闘は君が勝ったそうだよ。それにしても記憶が飛ぶなんて、彼女に頭を打たれたせいなのかな?」

リビーは隣のベッドに目を向ける。

そこには静かに寝息を立てて、セシリアが眠っていた。

「彼女、見た目にそぐわず激しいんだね。まあ、君もなかなか容赦なかったようだけど」

「何の話ですか?」

「大変だったんだよ。彼女が医務室に運び込まれたとき、腕がぐちゃぐちゃになっていたんだから。私じゃなければ、元通りに治すのは無理だっただろうね。あれは君がやったんでしょ?」

「俺がですか?」

「これも覚えていないの?精密検査が必要かな?でも…」

リビーは突然、イアンのシャツをまくり上げた。

驚きのあまり身動きが取れなかったイアンの身体をリビーはまじまじと見つめる。

「君の身体には痣の一つも残っていないよね。かなり打ち込まれたそうだけど、君の身体、どうなっているのかな?」

「あの…」

「ああ、ごめんね。年頃の子にこんなことしたら恥ずかしいよね。まあ、君が寝ている間にじっくり見たから、そう変わらないだろう?」

リビーはまったく悪びれる様子はない。

イアンの中でリビーは警戒すべき相手となった。

「…ん」

不意にセシリアから声が漏れる。

リビーとのやり取りの声が大きかったのか、起こしてしまったらしい。

セシリアの目がゆっくりと開く。

「気分はどう?」

「ここは…?」

「医務室だよ。君は決闘で大怪我して運び込まれたんだ。でも、安心していいよ。私が完璧に治したからね」

「そうでしたか。ありがとうございます」

そう言って、セシリアは体を起こそうとしたが、少し動くだけでも辛そうだった。

「無理しないで。回復魔法を使ったから、かなり体がだるく感じるはずだよ。今はゆっくり休めばいい」

リビーはセシリアの肩を押し、ベッドに倒した。

回復魔法は即死や欠損でなければ、大抵の怪我は治すことができるものだ。

だが一方で、術者の魔力だけでなく、被術者の魔力と体力も奪う。

そのため、治療の後にはかなりの倦怠感に襲われるのだ。

「じゃあ、セシリアも目が覚めたことだし、私はちょっと席を外すよ。何かあったら探しに来てね」

リビーはイアンたちを置いて、医務室から出て行った。

リビーがいなくなった後、少し迷ったがイアンはセシリアに声をかける。

「体の具合はどうだ?」

「…その声はイアンですか?」

「ああ、そうだ。怪我をさせて悪かったな」

「いえ、本来決闘では命を取られても文句は言えません。この程度ならば謝罪の必要はありませんわ」

「そうか…」

二人の間に沈黙が流れる。

気まずい雰囲気の中、声を発したのはセシリアだった。

「…わたくしは負けたのですね?」

「結果だけ見ればな。ただ、俺は勝った気がしない」

「…何故、そう思うのですか?」

「お前に頭を打ち抜かれた後の記憶がないんだ。気が付いた時には、医務室にいた」

「まさか、わたくしの腕を砕いたのも無意識下での行動だったというのですか?」

「まあ、そうだな。だから、今回の決闘は無効にすべきだと俺は思う」

セシリアは言葉を失い、しばらく唖然としていた。

しかし、何もかも飲み込んだような表情を見せると、イアンに目を向ける。

「…貴方が何と言おうと、貴方が勝って、わたくしが負けた。ただそれだけですわ」

「そうは言ってもな…」

すると、セシリアは重い体を起こそうとし始める。

体が思うように動かないのか、歯を食いしばって、腕で支えていた。

「おい、無理するなよ」

「心配されなくとも、このくらいどうということはありませんわ」

そう言い放ち、数分かけてセシリアは身体を起こした。

セシリアは呼吸を整えると、唐突にイアンへ深々と頭を下げる。

「わたくしは貴方に謝罪しなくてはなりません。決闘を受けさせようと躍起になっていたとはいえ、貴方だけでなく、貴方の大切な方たちをも侮辱してしまいました。ここに深くお詫びいたしますわ」

セシリアの謝罪を受けて、しばらくイアンは悩んだ。

この場でどう返すのが正解かは分からなかったが、とりあえず思ったことを口にする。

「あの時は俺も少し言い過ぎたかもしれない。だから、この件はお互い様ということで手打ちにしよう」

「貴方はそれでよいのですか?」

「ああ、手応えのある相手と戦える機会ももらえたからな」

「貴方がそう言うならば、わたくしも納得せざるを得ませんが…」

セシリアは困惑した様子を見せた。

貴族と平民に間で価値観の違いがあるのだろう。

「しかし、わたくしは決闘の敗者としてあなたの要求を叶えなければなりません」

「それもなしでよくないか?」

「よくありません!そんなことをすれば、決闘の意義が失われてしまいますわ!さあ、わたくしに望むことを言いなさい!」

「どうするかな…」

イアンはセシリアに謝罪をさせようと思っていたが、それはすでに叶えられてしまった。

だから、正直やらなくてもいいのだが、セシリアは許さないだろう。

少し考え込んだ後、イアンは口を開いた。

「じゃあ、ギルバート先生との特訓にお前も参加すること。それが俺の要求だ」

「え?それでは、わたくしが得をしているような…」

「今、レイと二人だから特訓の間一人余るんだ。強い相手と手合わせができるし、丁度いいだろ」

「…分かりました。その望み、受け入れますわ。それから…あ、ありがとうございます」

セシリアは少し頬を染めながら、イアンに感謝を伝えた。

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