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01.気が付いたら、裏切られて死にかけてました?

「――どうして、こんなことに」


 アルフォンス・レヴィ――アルは、十八歳の剣士だ。幼い頃に家族を失い、偶然出会った剣の師に生きる術を叩き込まれ、今では冒険者としてどうにか生きている。師曰く「生き方がヘタクソ」らしく、冒険者としての階級の上昇は平均よりも遅く、パッとしない冒険者としてギルドの名簿に名を連ねている。


――けれども、こうして理不尽に仲間に裏切られる謂れは無いはずだ。


 アルは――アル達パーティーは、山岳地帯に増えてしまった魔獣の討伐任務でやって来た。最初こそ順調だったが、リーダーの一存で奥へと踏み込んだ結果、手に負えない魔獣に追われることとなり――アルは仲間に突き飛ばされ、『生け贄』として残されてしまった。


 仲間の裏切りに愕然としたものの、それでもアルは生き残るために最善を尽くした。師に言われたように、しっかりと手入れをした剣で、諦めることなく戦った。――けれども、師のもうひとつの教えである『武器には金をかけろ』を守らなかったから……途中で、剣は折れてしまった。


 魔術の使えないアルにとって、剣だけが唯一の武器だった。だから、折れても残った刃でどうにか戦い続けた。――けれども、それは無理があった。


 次の瞬間、アルの身体は魔獣の一撃に吹き飛ばされ――宙を舞った。

 そして、谷底へと落ちていった。


 何度も何度も、身体を岸壁に打ち付けられながら。

 アルはどこまでも落ちていった。


 丈夫さが取り柄だったアルの肉体も、そこまでのダメージで「ああ、これは死ぬな」と直感するほどに、身体は痛みを訴えていた。


 ズルズルと滑るように谷底へと落ちると、アルの手足はあり得ない向きに、バラバラに向いていた。そして呼吸は隙間風のような音を出しながら、肺を痛めた。


「ぁ……死ぬ、のか……」


 家族を失った時、独りだけ残されたあの時も、死を覚悟した。――それでも生き延びることが出来たのは、師のおかげだ。彼女がいなかったら、アルは死ぬのを待つだけだった。


――剣で死ぬな。無様に足掻いて、人生を全うしてから死ね。


 師が、常に言っていた言葉を思い出し、アルは血を吐きながら苦笑した。


「すみま、せん……約束を……守れそうに……ありません……」


 視界が霞んでいく。寒さを感じていた筈なのに、徐々にそれすらも曖昧になっていく。


――死。


 現実を帯びてきたその気配に、アルは恐怖よりも……諦めの感情を抱く。

 まったく、酷い人生だった。これは自分が弱かったからだろうか? だったら、もしも次の人生があるのだとしたら、今度は強い人間でありたい――


『おや……? こんな所に、人間が落ちている……やや?! その怪我はどうした?! むむ……なんだ、お前からとても良い匂いが……』


 声が聞こえる。――けれども、アルにはもう、その方向へと視線を動かすことも出来なくなっていた。


『ど、どうすれば……うぅ、なんだこの匂いは……』


 ズン、ズン……重く響く振動が、近付いてくる。


『だ、大丈夫だよな……? おーい、生きてるか……?』


 どこか可愛らしい響きの声は、それに似つかわしくない振動と共に近付いてくる。





『あぁ……食べたい……って、た、食べたい……?! わ、私は何を……?!』





 いきなりパニックになる声の主。――その『足』が、アルの視界の中に入ってくる。





――それは、立派な『竜族の足』だった。





『と、とにかく人間! 死ぬでないぞ~!!』


 そして声の主は、「グォォォッ!!」と吠え――アルは、意識を失った。



----------



――温かい。


 アルが瞼を開けると、そこには『火』があった。


「おぉ!! 目が覚めたんじゃな! 良かった良かった!」


 声がした方を、寝たまま見ると――金髪に碧い瞳の美少女が野うさぎ片手に立っていた。


「いやぁ、ボロボロだったところをみつけて心配だったが、ちゃんと回復して安心したぞ! さすが、我のだ!」

「君が……僕を助けてくれたのか……」

「おうよ! 我が散歩に出かけたら、ぼろ布のように落ちていたから驚いたぞ……」

「ぼ、ぼろ布……あ、ありがとう……」


 言われて、アルは自分の身体を確認するが――手足が、あるべき形で身体に繋がっていた。


「怪我が……治ってる……?」

「そりゃ、私の血を飲んだからな!」


 少女の言葉に、アルは首をかしげる。


「……今、何て?」

「何かおかしなことを言ったか? 私の血を飲ませただけだぞ?」





――この子の血を、飲んだ?




 アルは瞼を閉じ、考える。――何か、そういう『まじない』でもあるのだろうか……? しかし、それにしては効果がハッキリと出すぎているような……だとすれば、この子は高位の魔術士なのでは――





「竜の血なんだから、怪我が治るくらい当然ではないか。ましてや、私の血なら尚更だ」





「……竜の、血……?」

「そうだぞ?」

「……え、本当に?」

「疑り深いな、本当だぞ」

「え、だって……」


 理解が追いつかず、信じられないアル。

 少女は溜息をつくと野うさぎの息の根を止め、地面へ降ろす。





「グォォォッ?(これで信じたか?)」





 目の前にいた美少女は、立派な赤と金の鱗を持った竜へと化けた。――それは、アルが意識を失う前にみた、あの竜の足の持ち主に思えた。


「ほ、本当に竜だ……」

「だから、言ったであろう?」


 竜の姿から一瞬で美少女の姿に戻ると、少女はやれやれ……と野うさぎの処理をし始めた。


「りゅ、竜って人の姿になれるのか……」

「何故かは知らんがな。昔からそうらしい。私の父上もあまり化けんが、なれるぞ?」


 何てことないように言いながら、少女は野うさぎの皮を剥ぎ、枝に突き刺して火にかける。


「暫し待て。このうさぎならほどほど腹にたまるじゃろ」

「あ、ありがとう……」


 どうやら野うさぎはアルのために用意されたものらしい。そのことに素直に感謝する。


「その、助けてくれてありがとう……まだよく分かってないけど」

「気にするな、我がそうしたいと思っただけじゃ」

「それでも、ありがとう……もう、死ぬんだと思っていたから」

「まあ……あのままなら死んだんじゃろうなぁ……」


 みつけた時のアルの姿を思い出したのか、「うへぇ……」と顔をしかめる少女。――そこでアルは、少女の名前を知らなければ、自分から名乗ってもいないことに気が付いた。


「あ、ごめん名乗ってなかった。僕はアル――アルフォンス・レヴィ。冒険者だ」

「ほう、アルは冒険者なのか。我は、ミネルヴァ。――竜帝・メサイアの子」

「そうか、ミネルヴァって言うんだ。良い名前だね――って」





――竜……帝……?





「えーと……竜、帝……?」


 聞き間違いであって欲しいと思いながら聞き返すと、竜の少女――ミネルヴァは嬉しそうに、自慢げにその豊かな胸を張って答えた。


「そうだ! 我の父上は、竜を統べる偉大なる竜――竜帝・メサイアだ!」


 それを聞いて、アルは再び意識を手放すことになった。


「なんでじゃー?! 人間――アル、しっかりせい! 怪我は治っている筈じゃろ?!」


 慌てるミネルヴァのこえを聞きながら、アルは「どうしてこんなことに……」と思いながら、沈んでいった。

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