あれ見たかよ
「おい、昨日のあれ見たかよ」
角のとがったデビルの少女が言った。
「失礼、あれの詳細の説明を所望します」
耳のとがったエルフの少女が言った。
港町の喫茶店に二人の姿はあった。
「あれはお前、あれだよ……なんだっけ?」
「知らないわよ。あんたが言い出したんでしょうが。あんたが分からなければこの話題は迷宮入りよ」
「諦めが早すぎるぞ名探偵、いや迷探偵」
「勝手に他人を探偵扱いしないでちょうだい。記憶喪失さん」
「記憶喪失ではないさ。ちょっとしたど忘れだよ」
「ならとっとと思い出しなさいな。一度言い出した以上、あれがなんなのか気になって、夜しか眠れないじゃないのよ」
「しっかりと睡眠をとれてるではないか。健康なことで何よりだな」
「どうも。って、そんなことはどうでもいいのよ。あんたが見たというあれが何なのかを教えなさいよ」
「構わんさ。出すものを出してくれればな」
「ウザ」
「うそうそ、タダでいいよ。出血大サービスだ」
「この程度で出血してたら、あんたは年がら年中貧血で大変ね」
「まったくだ。朝礼の校長先生の話が長すぎるせいだな」
「何の話よ?」
「さぁな」
「しらをきるんじゃないわよ。いいからあれの正体を明かしなさいな」
「こだわるね。まあ、大した話じゃないよ」
「なんなのよ」
「昨日の……隕石見た? っていう話」
「……大したことなくないんだけど」
二人は喫茶店をあとにした。