手首いてぇ
「んーなんか、手首が痛ぇな」
角のとがったデビルの少女が言った。
「油刺そうか?」
耳のとがったエルフの少女が言った。
港町の喫茶店に二人の姿はあった。
「めちっめちゃナチュラルやん。めっちゃ自然に非生物扱いするじゃん」
「デビルは生物じゃないでしょ」
「マジかよ。じゃあ、なんなんだよ?」
「エルフ」
「ええ……アタシはお前の同族だったのか」
「いやいや、勝手に同等の存在と思わないでくれる? 下等種さん」
「ヒエラルキー! えぐいなぁ、いち早く反旗を翻したいよ」
「オーケー。力を貸すわ」
「何ポジ? お前のポジションが行方不明なんだが。
まあ、味方は多いに超したことはないか」
「そういうことよ。さあ、行きましょう」
「は? どこによ?」
「エルフの王、機械神のもとへ」
「ここで非生物!? もう何が何に属するのか、わからなくなってきたぞ」
「まあ、一人一人が代わりのいないひとつの命ということで」
「さらっと綺麗に締めるな。それより手首の話だよ」
「知らないわよ。どうせ一晩中、空気を揉んでたんでしょ」
「何がどうせだ。勝手に変な趣味を付け加えるな」
「変とはなんだ! 他人の趣味にケチをつけるな!」
「正論。正論だけど、今はとてつもなくうざい」
「正論は時としてあれだから……あれするから」
「肝心なところが虫食いにあってるな。というか、別に昨日、手首を酷使した覚えはないぞ」
「あれじゃない? 私が貸した保湿クリームのせいじゃない?」
「ん? ああ、確かに昨晩に塗ったが」
「あれ実は……麻痺薬なのよ」
「え?」
「害虫駆除のやつと間違えて渡しちゃったの、言いそびれてたわ」
「ふざけんな。誰が害虫じゃ」
二人は喫茶店をあとにした。