怪談をさ
「そろそろ怪談の季節だな」
角のとがったデビルの少女が言った。
「目の前の奴より怪しいもんねぇよ」
耳のとがったエルフの少女が言った。
港町の喫茶店に二人の姿はあった。
「相変わらず辛辣だな。あたしのどこが怪しいと?」
「挙動」
「あれそっち!? 今、絶対に角って言うと思ったんだけど」
「それを言ったら、私の耳も怪しい判定されるじゃない」
「確かに……っておい、誰の挙動が怪しいだよ」
「時間差ね。めっちゃ時間差でツッコんできたわね」
「危うく聞き逃すとこだった。危ない危ない」
「危ないのこの尖った耳だろ!」
「急に自虐的だな。お前の挙動の方が怪しいわ」
「そうね。さっきから心臓の音おかしいわね」
「えっ、それってもしかして……」
「死?」
「そっち!? そこは恋だろ」
「恋しすぎて死ぬ感じ?」
「ヤンデレかよ。デレる側が死ぬとか新しすぎだろ」
「まあ、他人の恋路を邪魔する奴は馬に駆られて進み出せ、ってことで」
「どういうこと? なんかめっちゃ新しい恋に向けて背中押してる感じだけど」
「こいこいこいこい、うるせぇな。恋意地の張った奴め」
「食い意地みたく言うなよ。誰が青春野郎じゃい」
「まあ、何野郎でも結構だけど。あんたんちの階段がなんだって?」
「怪談な。ベタなボケをするな」
「そうね。あんたんち、階段ないもんね」
「そこ? まあいいやもう。なんか怪談とか持ち合わせてないのかい?」
「昨日の夜中に……」
「お?」
「……部屋で一人、自作ポエム朗読してた」
「っ!! こわっ……」
「ぶっとばすぞ」
二人は喫茶店をあとにした。