ガム飲んだわ。
「あっ、やべぇ。ガム飲んじゃった」
角のとがったデビルの少女が言った。
「そう。この上着なんだけどさ」
耳のとがったエルフの少女が言った。
港町の喫茶店に二人の姿はあった。
「上着? あーいいねぇ、あったかそう」
「でしょー。これなら寒波もしのげるわね」
「違いないな……でさ、ガム飲んじゃったんだけど」
「そう。この前のケバブ屋さん、旨かったわね」
「ああ、海沿いの移動販売のやつな。あれはなかなか本格的な味だったな」
「また買いたいわね。普段はどの辺にいるのかしら?」
「どうだかな……でさ、ガム飲んじゃったんだけど」
「そう。小さいころにさ」
「おい!! いいかげん拾えよ! ガムの話を!!」
「っーす……限界かい?」
「限界だよ、とっくに。私の第一声を拾う役目を放棄するな」
「いやー……拾おうと思ったんだけど、あまりに内容がない一言だったもんでね」
「あたしの落ち度だとでも?」
「そうですね。2テイク目行きましょう」
「いやいや、お前もプロだろ? うまいこと拾ってみせろよ」
「そんなん拾うぐらいなら、おもてのゴミ拾った方がいくぶんかマシよ」
「そんなにか? まーもめても始まらんし、2テイク目行くか?」
「いや、喫茶店にガム持ち込んでんじゃねぇよ!」
「急! ……急だなぁ」
「今、いいの思い付いたわ」
「やればできるやん。じゃあ2テイク目を」
「結局やり直すのかよ」
二人は喫茶店をあとにした。