落とし物してさ
「やべーよ。落とし物しちゃったよ」
角のとがったデビルの少女が言った。
「命とか?」
耳のとがったエルフの少女が言った。
港町の喫茶店に二人の姿はあった。
「んーたぶんそれだと、今ここにあたしはいないかな」
「いるじゃんよー、残念!」
「残念なのは貴様の方だ。友人の生存を惜しがるな」
「え……友人?」
「あれ? ちょっとそういう感じ? そういうこと言っちゃう? 流石に傷つくよ」
「いや……友人以上……でしょ?」
「ごめん。どっちにしろ傷ついたわ」
「この野郎が。落とせ落とせ、命をポロポロ大地に返せ」
「あたしは何回も倒さなきゃならん化け物かなにかか? あたしの命は一個だよ」
「そうね。私とひとつの命を共有してるからね」
「なにその新設定? 二人で一人みたいな」
「誰が半人前じゃい!」
「お前だろ言ったの。あーもう、落とし物だよ! 時計をここ来る途中に落としたんだよ!」
「ハッハッハッ! ざまぁねぇぜ!」
「よし、お前の命も落とすか」
「早まるな! 時計のひとつやふたつで!」
「時計は関係ないだろ。そこは嘘でも同情してくれよ」
「嘘でいいのかい?」
「いや、やっぱ真実で」
「強欲極まりない奴め。お前には金の時計も、銀の時計もやらん!」
「どこのおとぎ話? 別に水辺に落としてねぇよ」
「ああそう。じゃあまああれだな、大変だったね」
「雑! もっと労ってくれよぉ」
「しゃーなしね。じゃあ一緒に新しい時計、買いに行ってあげるわよ」
「お、お前……」
「な、なによ……」
「やればできるじゃん」
「えらそうだな」
二人は喫茶店をあとにした。