メモをなくしてさ
「ひじょーにまずいぞ。これは」
角のとがったデビルの少女が言った。
「おっ、クレームでござりまするか? 店員さーん!」
耳のとがったエルフの少女が言った。
喫茶店に二人の姿はあった。
「待て待て、店員を呼ぶでないわ。そっちのまずいじゃないから」
「あら? そのコーヒーのことじゃないと?」
「当たり前だろ。このコーヒーは絶品だ」
「そう? 私はだいぶ不味い部類のものだと思うけど?」
「コラ! アタシのフォローが台無しだ! 水の泡だ!」
「すいませーん! お冷やひとつー!」
「だれも水をくれとは言っとらんだろ! 店員を弄ぶでないわ」
「じゃあ、あんたを弄ぼうかしら?」
「え? 何言ってんの?」
「ごめん。今のナシ」
「分かった。記憶から消しておく」
「どうせ覚えてないくせによ!」
「急に辛辣! まったく油断も隙もないな」
「嫌よ嫌よも隙の内」
「適当だな。さっきから発言が適当過ぎやしないか?」
「ごめん。なんか疲れてるみたい」
「疲れてるのはアタシの方さ。朝からなくしたメモを探し続けていたからな」
「ああ、それがまずいって奴の正体?」
「ばれたか」
「いや、別に隠してないでしょうよ。で、まだ見つかってないの?」
「ああ。まったく困ったものだ」
「そう。ところであんたの右角に貫かれている小さな紙はなに? さっきから気になっているのだけど」
「角? ……あっ、これメモだ。こんなところにあったのか」
「よかったじゃない見つかって」
「ああ。そういえば失くさないようにと角にかけておいたのだった。ワハハ」
「やっぱり……記憶力ないじゃないのよ」
「う、うるせぇ」
二人は喫茶店をあとにした。