虫がさ
「昨日の、家にデカい虫がいてさ」
角のとがったデビルの少女が言った。
「そりゃいるでしょ。あんたという虫けらが」
耳のとがったエルフの少女が言った。
港町の喫茶店に二人の姿はあった。
「……もう帰っていいかな」
「土に?」
「うぉい! 傷心中の虫けらに追撃をするな!」
「自分で虫けら言うてるし……まあ、もう少し話そうや」
「話す気を削いだ奴が何を言うか。虫酸が走るわ」
「だったらわざわざ虫に寄せるな……で、デカい虫がどうしたのよ?」
「どうもしないよ。びっくりしたって話」
「つまんな! なにそのセミの脱け殻並に中身のない話は」
「脱け殻で悪かったな。面白さよりも共感を求めてるんだよ。家にデカい虫がいたら驚くだろ?」
「いや、無感情で始末するけど」
「アサシン! 生まれながらの暗殺者かよ」
「感情を持った奴から死んでいくのよ」
「ヘビーすぎるだろ。どんな世界観だよ」
「知らないわよ。で、虫を見ても驚かない肝が欲しいと?」
「言ってない言ってない。飛躍させすぎだろ」
「でもそういう肝は欲しいでしょ?」
「分かったよ。欲しい欲しい、どうすりゃ手に入る」
「他人に聞くな」
「クソ野郎が。流石のアタシも虫の居所が悪くなってきたぞ」
「知ったことか。無視ね、ムシだけに」
「いや、最後はダジャレかよ……」
二人は喫茶店をあとにした。