目薬買い忘れてさ
「あーっ、目薬買うの忘れた」
角のとがったデビルの少女が言った。
「目よりも先に薬が必要な場所があるだろ」
耳のとがったエルフの少女が言った。
港町の喫茶店に二人の姿はあった。
「そうそう。頭とか……ってコラ!」
「前もこのやり取りなかったか?」
「分かってるならやらせるなよ! ……えー、どうしよ?」
「いや、この後買いに戻ればいいんじゃない?」
「お前はどうすんのよ?」
「帰る」
「冷てぇ! ついてきてくれよぉ」
「あれだからさ、このあと予定あるから」
「予定? 何よ?」
「いや、ないけど」
「ねーのかよ! なんなんだよ」
「いや、予定あるっていっときゃ行かんで済むと思って」
「だからって嘘はよくないだろ。嘘つきは泥棒の始まりだぞ」
「マジで? ついに泥棒デビューかぁ、くぅーっ! まいっちゃうなぁ?」
「うぜぇ……泥棒よりたちが悪いな貴様は」
「そういうあんたは口が悪いわね」
「口が臭い? ……ひでぇな」
「いや、言ってないけど。聞き間違いで勝手に落ち込まないでもらえます? まあ、実際に臭いけど」
「おい! なだめるか、けなすのかどっちかにしろ」
「まさにアメとムチね」
「アメもムチもいらんわ。というか目薬だよ」
「わかったわよ。あんたと私の仲だからね」
「流石! ついてきてくれんだな?」
「いや、行かないけど」
「この流れで行かねぇのかよ! 目から鱗だわ!」
「そりゃ重症ね。目薬指さなきゃ」
「やかましいわ」
二人は喫茶店をあとにした。