スプーン落としちゃった
「あっ! ……やべー、スプーン落としたわ」
角のとがったデビルの少女が言った。
「まかせろ、エルフ特有のサイコキネシスで……ほいよ」
耳のとがったエルフの少女が言った。
港町の喫茶店に二人の姿はあった。
「お、サンキュー! ……て、待て」
「何だよ、拭くのは自分でやれよ」
「いや、それはやるけどさ……何、普通に超能力使ってんの?」
「え? ダメなの?」
「ダメだろ。急にそういう後付けしちゃあ」
「そうか? エルフといえば超能力と相場は決まってるでしょ」
「どこの相場、それ? エルフにそんな特殊能力ないだろ」
「そうだよ。ないよ」
「ええ……じゃあ、今のスプーンを空中に浮かしたやつは何?」
「ご都合主義」
「おい! やめろやめろ!」
「優等生ぶるなよ。所詮、この世はご都合なんだよ」
「なんてやつだ。シナリオブレイカーだな」
「なにそれ?」
「いや、自分で言っててよくわからん」
「まあ、いいや。食事を続けましょ」
「そ、そうだな……っておい!」
「何よ?」
「チキンナゲットを浮遊させて口に運ぶな! 超能力やめろ!」
「これもまたご都合主義」
「どんな都合? 普通にフォークで食えよ」
「いや、フォークはさっき全部曲げちゃったから」
「だからエスパー要素を出すな! あと、普通に器物損害!」
「まあまあ、嘘だって。流石にそんな常識ないことしないわよ」
「常識はずれの能力使ってる奴がなにを言う……」
二人は喫茶店をあとにした。