雪が降ってるな
「おっ、雪が降ってるな」
角のとがったデビルの少女が言った。
「だからなんだよ」
耳のとがったエルフの少女が言った。
港町の喫茶店に二人の姿はあった。
「……雪より冷たい奴がここにいたよ」
「前世は雪女だったので」
「どうりで……いやいや、設定を盛るな。前世とかなんでもありじゃん」
「便利よね、前世設定」
「なにそれ? 初耳だな。まあ、雪女でもなんでもいいが、もう少し雪に興味を示してくれ」
「本当に素晴らしいものを目にしたとき、人は言葉を失うのよ」
「ずりぃ! なにそのロマンチックなサボり文句は。いいから、なんか雪の感想言えや」
「白い」
「白いと言ったら♪ お米♪ ……っておい」
「いえーい、私の勝ちぃ」
「ふざけろよ。形容詞ひとつで済ますんじゃないよ。思わず伝言ゲームを始めちゃったじゃないか」
「それは知らないわよ。というか、雪だけでそんなに話ふくらまないでしょ」
「何かあるだろ。例えば……こう、切ない思い出とかさ」
「なんでそんなネガティブ? えー、切ない思い出ねぇ……」
「そうそう、切ない思い出……」
「……」
「……」
「なんにも」
「ないね」
「何、空虚な人生送ってんだよ!」
「お前に言われたかねぇよ! 己を棚上に置くな!」
「まあでもあれね、今この瞬間にひとつ思い出ができたわ」
「今? なんだよ?」
「それはもちろん。今日、喫茶店の窓ごしに、あんたと一緒に綺麗な雪を見たって思い出が、ね」
「……」
「……」
「……そ、そうだな」
「ひいてんじゃねぇよ。せめてひくのは」
「風邪だけにしとけ、と! ……なにこれ?」
「知らねぇよ」
二人は喫茶店をあとにした。