温泉行きてぇ
「温泉行きたくね?」
角のとがったデビルの少女が言った。
「いいね。お土産期待しとく」
耳のとがったエルフの少女が言った。
港町の喫茶店に二人の姿はあった。
「冷てぇ! 一緒に行こうぜ。何でアタシのぼっち旅前提なんだよ」
「いやいや、お邪魔かと思って」
「はぁ? 水臭い奴だな。そんなわけないだろ」
「いや、私の旅にあんたが邪魔だと思って」
「お邪魔虫、アタシかよ! ぶっとばすぞ!」
「いいね。そのまま温泉までぶっとばしてくれ」
「帰りどうすんだよ?」
「いや、そこで一生を終えるから」
「極楽に行くんじゃないよ! 私を置いてくな!」
「え? あんたも死にたいの?」
「そっちじゃねぇよ! 戻ってこい現世に」
「いやだよ。現世は冷たいからさ」
「そりゃあ……まあ、そうだけどもさ」
「でしょ? だから、どうせなら暖かい場所に居座りたいわよ」
「馬鹿野郎お前、なんで露天風呂が最高か分かるか?」
「は?」
「冷風と湯水を同時に味わうからだろ? 人生だって同じさ。嬉しいこととも、辛いことも、どっちも味わうから、生きてるって実感するんだよ」
「あんた……その言葉……」
「へへ……」
「……」
「……」
「……フツーにクサい」
「風呂入ってきまーす……」
二人は喫茶店をあとにした。